2話
「ふんふんふ~ん」
階段を下るとリビングの方から鼻歌が聞こえてくる。それと同時に何やら美味しそうな匂いが漂ってきた。普段の朝では絶対にかぐことのできないような匂いに当てられ、俺の足はふらふらと匂いのもとに向かって歩き出した。一歩また一歩と近付くにつれて匂いは濃くなり、同時に俺の空腹メーターもどんどんと上がっていく。そうして扉の前にたどり着いた俺は勢いよくスライド式の扉を開けた。
パァァァン!
「うるさいわねぇ!もっと静かに開けられないの?」
ハァ…反抗期かしら。そんなことを言いながら俺の母である貝島恵美はこちらを睨んでくる。
「違うんです!わざとじゃないんです!美味しそうな匂いの誘惑に勝てなかっただけなんですぅ!」
と、必死に弁明をする俺。我ながら情けない。・・・なんて思ってる場合じゃない!講義運動をしないとな。
「とゆうわけで、毎朝恒例の抗議運動を行いま~す。ちゃん付けはやめてください!」
「なにが"とゆうわけで”よ。それともうそのことはあきらめなさいよ。」
「あなたがもう少し男らしくなるか、彼女ができたらやめてあげる~」
まっ、ないだろうけど。と、とどめの一撃。
今日も失敗か~、まぁもうそのことは良しとしよう。どうせ明日もするだろうし。それよりもだ、俺には机の上に並べられた豪華な朝食を食べるという使命があるのだ。普段は目玉焼きとパンしか出てこないというのに、今日はどうしたことか唐揚げにミートボールやその他のお弁当メニューがあるではないか。
「ちょっとまちなさい、歯は磨いたの?まだでしょうから先に行きなさい」
母は俺の行動がよくわかっているようだ。それじゃあ仕方ない、行くとするか。
洗面所にやってきた俺は鏡に映る自分の顔をみていた。そこに映し出されているのは、これといった特徴のないいかにも日本人です。といったどこにでもいそうな顔である。俺ははっきりいってこの顔が嫌いだ。特別ぶさいくというわけではないし、逆に世間でいうイケメンでもないパッとしない顔。美術では特徴がなくて描きやすいとバカにされるこの顔。いや、顔に限った話ではなく、俺は自分の普通がすべて嫌いなのだが。・・・いかんいかん早く戻らねば。
そうしておれはそそくさと邪念を振り払うようにしてリビングに戻った。
「おかえり~ 長かったわね~」
「おせ~ぞ、早くしたまえ」
リビングに入ると妹が下りてきていていた。俺と鉢合わせなかったということは二階にある洗面所で歯を磨いてきたのだろう。
俺は無言で椅子を引きそして座り一言・・・・・・ちょっと太った?
その後俺は妹に顔を殴られ、怒り心頭な妹に睨まれながら食事をする、という苦行をしなければならなかったが、自業自得であるので何も言い返せなかった。そして今そんな苦行を乗り越えた俺は真新しい制服もといブレザーに身を包み、鏡で変なところはないかと最後のチェックをしていた。
「変なところはないな、なかなか似合ってる気がする。」
時計を見ると丁度7時になっており、家を出るにはちょうどいい時間になっていた。