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ヴァイス・ノイン・ブライダル  作者: あぼのん
第一章 白鷺乃音
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第8話 白鷺乃音の秘密②

 どう反応すればよいのかわからなかった。


 目の前にある光景が現実のものなのか、それとも虚構なのか。

 映画を見ている途中で俺は眠ってしまって、今見ているこれこそが夢なのかもしれない。

 いや、そもそも俺の部屋に白鷺乃音が来たというところから夢なのか?


 とにかく、目の前でベッドに仰向けになっている白鷺乃音と、後ろに居る白鷺乃音、この二人を交互に見て、俺は声にならない声を絞り出した。


「こ、これって……に、人形かなにかですか?」


 白鷺乃音はゆっくりと首を横に振る。


「え、えっと、もうなにがなにやらわからないんだけど」


 困惑する俺のことを真っ直ぐに見据えながら、白鷺乃音はいつもの調子で話し始めた。


「その子は私よ」


 は? 突然なにを言いだすのか。白鷺乃音の言う事はいつも唐突でわけがわからない。


「正確には私だったもの」

「どういう意味ですか? この人は、生きているんですか?」

「生きている? そうね。機能が停止していると言う意味では死んでいるのかもしれない」

「まわりくどい言い方をしないでちゃんと教えてくださいよ」


 核心を突かない言い方にだんだん苛々してしまい。俺はつい語気を強めてしまった。

 白鷺乃音はそれを涼しい顔で流すと、ゆっくりとベッドに近づいて行き、眠っている自分そっくりの人物の頬を撫でる。


「彼女は未来から来たアンドロイドよ。素体フレーム番号は白の9(ヴァイス・ノイン)型。製造番号は61298番。量産型の人型決戦兵器バトルドロイドで、ヴァルキュリアと呼ばれている戦闘アンドロイド」


 なんだそれは、また白鷺乃音の作り話か? アンドロイドは自分ではなくて、この眠っている人がそうだって言うのか。

 俺を担ぐ為にわざわざ徹夜までして、こんなドッキリを仕掛けたのか?


 おそらくこの人は白鷺さんの姉妹だろう。見た目はそっくりに見えるから、もしかしたら双子の可能性もある。


「ふふふ、白鷺さん。騙されませんよ。徹夜明けの頭で思考能力が低下しているからって、いくらなんでもそんな支離滅裂な話を信じるわけがないじゃないですか。大方この人は白鷺さんの姉妹で、俺のことを騙す為に一芝居打っているんでしょう?」

「なんの意味があってそんなことをするの?」

「こっちが聞きたいですね。なんの意味があってこんなことをするんですか?」

「意味……そうね、意味か……」


 俺の問い掛けに白鷺乃音は突然黙り込み、考え込んでしまった。


「と、とにかく! 一瞬驚きはしましたけど、いい加減もうこんな茶番は終わりにして帰りましょう」

「待ちなさい、一ノ瀬くん。まだ話は終わっていないわ」

「これ以上なにがあるって言うんですか? いい加減に……」

「言ったでしょ。彼女は私だって、その意味が」

「意味がわかりませんよ。白鷺さんがその眠っている子だって、どういうことなんですか? 白鷺さんは今目の前に居て、話していて、さっきまで俺と一緒に映画を見ていたじゃないですかっ!」

「なにをそんなに苛立っているの一ノ瀬くん?」


 そうだ、俺は何を苛立っているのか。

 こんなくだらない茶番に付き合わされたことに苛立っているのか? 白鷺乃音に騙されて、からかわれたことに苛立っているのか?


 いや、違う。そのどちらでもない。この異様な状況、現実に気付き始めてしまっているからだ。

 だいたい、こんな廃墟ビルの電気も通ってないような場所に、どうしてこんなまるでSF映画のセットのような設備が整っているのか?

 俺にドッキリを仕掛ける為だけに、こんな手の込んだことをする意味があるだろうか?


 本当は気づいていた。苛立ちながらもどこか冷静な部分があって、俺は気づいてしまっていたんだ。

 目の前で眠っている、白鷺乃音にそっくりな女性が人間ではないことに。


 確かに、精巧に作られてはいるが、やはりこれは人間ではない。

 俺は白鷺乃音の横に並ぶと遠慮がちにそのアンドロイドに触れてみる。肌の質も、髪も、唇も、それはまるで本物の人間よう。

 そして、機能が停止しているとは言っていたが、まるで生きているかのような温もりをその肌から感じた。


「信じられないのはわかるわ。でも、信用はして欲しい。私が嘘を言っていないということを」

「正直もういっぱいいっぱいですよ……」

「一ノ瀬くん、あなたなら信用に足ると思ったから、私はこれをあなたに見せたの」

「そんなこと言われたって、どうすればいいのか俺にはわからない」

「彼女を、助けてほしいわ」


 その場に座り込み頭を抱える俺に、白鷺乃音はそう言い放つ。


「助ける? なにを、どうやって? 出来るわけないじゃないですか。彼女を修理して動く様にしろとでも言うんですか?」

「いいえ違うわ」

「いったい俺になにをしろって言うんですか?」


 白鷺乃音も俺の目の前に座り込むと静かに話し始めた。


「7年前、あなたの両親が乗っていた飛行機に、私も乗っていたのよ」


 その言葉に俺は顔を上げると白鷺乃音を見る。彼女は酷く悲しげな瞳で俺のことを見つめると続けた。


「あの事故は、人為的な整備ミスによるものであると発表されたけれども、それは政府の作り出した嘘。本当はこの子達がこの時代に時空転移して来た時に生じた、重力磁場によって引き起こされたものだったの。そして、運悪くそこに飛行進路を取っていたのが、私達の乗っていた飛行機だったのよ」



 つづく。


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