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ヴァイス・ノイン・ブライダル  作者: あぼのん
第一章 白鷺乃音
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第6話 白鷺乃音は繰り返す

 どうしてこうなった?


 自宅のマンションに着くのだが、俺はこの異常事態に思考が追い付かない状況だ。

 なぜ、自分の部屋にクラスメイトの女子が居るのか? しかも、夜の20時を廻っている時間だ。

 それだけでも意味がわからないってのに、その人物があの白鷺乃音だと言うのだから、もしかしたらこれは夢なのかもしれない。

 そう思って自分の太腿の部分を軽く抓ってみるのだが。


「いた……」

「ん? なあに?」

「あ、いえ、なんでもないです……」


 痛かった。


 ていうかどうすんだよこれ! なんか俺んちで「未知との遭遇」を見るとか言ってるけど、既に未知の世界に遭遇してるよ!


 白鷺さんはあのあと自宅に電話をすると、どうやら母親らしき人と2~3分話をしただけですんなり外泊を認められたらしい。て言うか……泊まるの?

 そして、うちにはVHSを再生するビデオデッキはないと言うと。

「ちょっと待ってて」と言って、レンタルビデオ屋の中に戻り5分くらいして出てきた。

 その手には大きな袋が提げられていて、中にはビデオデッキがあった。

 どうやら店主に借りたらしい、一体どんな交渉をしたのだろうか? 謎である。


「と、とにかく、ビデオを見るなら早く見ましょうか」

「そんなに待ちきれないくらい楽しみにしていたの? でも、まずはお夕飯にしない?」


 そう言えばまだ夕飯も食べていなかったな。

 どうしようかと思っていると、部屋のドアをノックする音が聞こえる。


「し、白鷺さん、ちょっと待ってて貰えるかな」


 俺はドアを慎重に開けると外に居る人物が見えないように、サッと廊下に出た。


「チヒロっ! ピザっ、ピザ取ったから! あの子美人ね! 彼女なの? ねえ、彼女なんでしょっ! お姉ちゃんにも紹介しなさい、ねえ!」

「ち、ちげーよ! 単なるクラスメイトだよ!」

「単なるクラスメイトをこんな時間に家に連れてくるわけないでしょ! 向こうの親御さんにはちゃんとご挨拶したの? お姉ちゃん、今日はこれからお仕事だからっ! お仕事だからああっ!」


 仕事だからなんだよ。なに、にやにやしながらハイテンションになってんだよ。


「ああああああ、チヒロにも遂に彼女がぁぁぁぁ。お姉ちゃんのチヒロが取られちゃうよお! あぁぁぁああああんっ!」


 突然号泣しだす姉のことを、いいから早く仕事に行けと家から追い出すと、俺は自分の部屋に戻るのであった。



「お母様? ご挨拶しなくていいかしら?」

「ああ、あれは姉ちゃんです。ピザを注文してくれたって言うから」

「あらそうなの。ご両親は? いつお戻りになるのかしら?」


 その言葉に俺は一瞬動揺する。


 別に両親のことに触れらたからというわけではなくて、こういう時にどう答えていいかわからないからなのだが。

 親が亡くなったのはもう7年も前の事だ。

 そりゃあ、たまに思い出して寂しくなることもあるけれど、今ではすっかり立ち直っているし、いつまでも引き摺っているわけではない。

 それでも、事故で同時に両親を亡くしたと言うと、大抵の人が申し訳なさそうな顔をして気まずい雰囲気なる。

 なにより、俺のことを可哀相な子、といった目で見てくるのがどうしても慣れなかった。


「その……いないんだ親。7年前に飛行機事故で……」


 白鷺乃音からは目を逸らしながら俺は言うのだが、しばらくの沈黙の後、彼女の方から口を開く。


「そう……」

「あ、すいません。なんか暗い雰囲気になっちゃって」

「いいのよ。気にしないで、私も似たようなものだから」

「え?」


 言っている意味がわからず俺は彼女の方を見ると、いつものように無表情のままではあるが、どこか愁いを帯びた様な瞳で、白鷺乃音はバラエティ番組の映るテレビ画面をじーっと見つめていた。



 ピザが届くまでの間にビデオのセットを済ませる。

 そしてピザが届いたら、食事をしながら映画鑑賞を始めた。


 あの、天才スティーブン・スピルバーグ監督の代表作の一つであるこの映画。

 派手なアクションシーンはないが、1970年代に制作されたとは思えない程の撮影技術で、現代のCGにも見劣りしないものであると感心する。

 ラストの、デビルズ・タワーから飛び立つマザーシップのシーンなどは圧巻の一言だ。


 2時間強の映画を見終える頃にはピザも食べ終え、満腹感と程よい疲労感からか俺は少しウトウトし始めるのだが、なんとか最後まで見ることができた。


「おもしろかったですね」

「ええ、本当に……。この映画は現代であっても目を見張るものがあるわ」


 いつもなら宇宙人達は人間を拉致して研究し、地球侵略をする為の情報収集をしているとか言いだしそうなものだけど。

 なんだか感動した様子で白鷺乃音は放心状態にあるような、そんな感じがする。


「映画も終わったし、まだ日付も変わっていないから家にまで送ります」とも言いだせずに居ると、白鷺乃音はリモコンを手に取りビデオテープを巻き戻し始めた。


 あ、そうか。ビデオテープは返却するまえに巻き戻して返すのがマナーだよね。

 なんて思っていると、なぜか白鷺乃音は再生ボタンを押して、もう一度頭から映画を見始める、


「あ……あの、白鷺さん? 一体……何を?」


 俺が呆気にとられていると、白鷺乃音は悪びれもせずに言い放った。



「なにって? もう一回見るのよ」



 冗談でしょ?



 つづく。


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