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ヴァイス・ノイン・ブライダル  作者: あぼのん
第四章 一ノ瀬チヒロ
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第3話 一ノ瀬チヒロは目撃する

「いい? 皆の意識を一つに集中して。誰か一人でも、こんなことは下らないとか、どうせ宇宙人なんていやしないとか、そんなことを考えてる人がいたら決してUFOは現れないわ」


 白鷺さんの説明に、皆真剣な顔をして頷いている。

 グラウンドの中心で参加している全員が手を繋いで円になると、UFOを呼ぶ儀式が開始される。

 電池式のランタンを輪の中心に置いて、まるでキャンプファイヤーの様にそれを囲む。

 どんなUFOに来てほしいのか、具体的な大きさや形は事前に白鷺さんのレクチャーを受けた。

 今回はイメージしやすいように、誰もが知っているアダムスキー型のUFOを呼び出してみようと言うことになった。アダムスキー型UFOの説明は省かせてもらうけど、簡単に言うと皆が想像するUFOの大体がそれだ。


「目を瞑ってイメージして、UFOの形を、頭の中に、ゆっくりと、ゆっくりと……」


 まるで催眠術にでも掛かったように、皆目を瞑って白鷺さんの声に合わせるようにゆらゆらと揺れ始める。


「今日は中秋の名月ね。真っ暗な空に浮かぶ月が綺麗な夜。そこに現れるのは、もう一つの光り輝く物体。別の惑星からやってきた飛行物体よ。ほら、現れたわ。皆目を開けて見上げてみて」


 言われるままに目を開けて空を見上げると月がとても眩しく見えた。

 辺りはとても静かで、虫の鳴く声が響き渡っている。


 すると、誰かが声を上げた。


「あれ、今動いた!」


 その指差す方へ視線をやると、皆がどよめき始める。


 確かに何か丸い光が上へ横へと動いているように見える。

 飛行機でも、ヘリコプターでも、ドローンでもない。

 あれは紛れもなく未確認飛行物体! UFOではないかと歓声があがると、フッとその光は消えてしまった。

 皆が、今のはなんだったのかと思い思いのことを話始めるのであった。



「一種の群集心理を使ったトリックだね。白鷺君、君には人心を操る才能があるんじゃないかい?」

「ふふふ……。そうかしら? 皆の思いが一つになって、それがUFOを呼んだのよ。それでいいじゃない」


 佐藤君の言葉に、白鷺さんはそう言ってミステリアスな笑みを浮かべるとと輪から離れて行くのであった。


 そんなレクリエーションを終えると、いよいよ本格的な部活動が行われる。

 俺も天文部の人達に混ざって秋の星座なんかを教えて貰った。

 有名どころで言うと、アンドロメダ座やうお座や牡羊座、カシオペア座なんかがあって、天体に全然詳しくない俺でも名前くらいは知っているものが沢山あった。


 星の説明を聞きながらこうやって星空を眺めていると、広大な宇宙に飛び出してきたような気持ちになってきて、この大きな地球よりも、更に大きな惑星があって、それらが全部入っている宇宙というものがあるなんて、人間ってのはとてもちっぽけな存在なんだなとか、変な感傷に浸ってしまった。


 夜が更けてくると少し肌寒くなってきて、俺はトイレに行きたくなったので校舎内に入って行った。

 そういえば、白鷺さんの姿が見当たらないなと思っていたのだが。トイレからの帰り、通り過ぎようとした教室の中から人の話し声が聞こえてきた。



「ごめんなさい。私には、あなたの気持ちに応えることはできないわ」


 それは白鷺さんの声だった。

 教室のドアの隙間から覗き込むと、白鷺さんの姿が見えた。

 そしてそこには、佐藤君の姿もあった。


 これはひょっとして……。


「そ、そうか。そうだよな、ははは。すまない、急に変なことを言ってしまって」

「いいのよ。人が誰かを好きになるということは、とても自然なことなのだから。そして、その思いを相手に告げるということ。それがどれだけ勇気のいることなのか、理解はしているもの」

「君はいつもそうやって冷静なんだね。宇宙や、星の話をしている時も、僕はそんな君に憧れ、尊敬して。そんな君と議論をするのが楽しくて。ずっとそうやって話をすることができたらと思ったんだけど……」


 やっぱりそうだったか、佐藤君は白鷺さんのことを……。


「ごめんなさい。でも、宇宙人の話だったらいつでも大歓迎よ。これからも、遠慮なく話してきてほしいわ」

「ありがとう。白鷺君」


 そう言うと、少しだけ一人にしてほしいと佐藤君が言うので、白鷺さんは教室を後にするのであった。


 覗き見していたことを見つかるわけにはいかないので、俺は慌てて廊下の奥に隠れると息を殺して白鷺さんが通り過ぎるのを待つ。

 どうやら、校舎内は暗かった為にばれずに済んだようだと安堵していると、すぐ隣から誰かの溜息が聞こえて、俺はうっかり声を上げそうになってしまった。


「ま、松山さん?」


 そこに居たのは副部長の松山さんだった。


 声をかけると、彼女は急にポロポロと泣き出してしまったので、何事かと思い別の教室へと移動した。


「ど、どうしたの松山さん?」

「ごめんなさい。私……。わかってはいたけれど、やっぱりはっきりと答えがでちゃうと、どうしても我慢できなくて」


 どうやら松山さんも、今のシーンを覗き見ていたらしい。ということは……。


「松山さんは、その……。佐藤君のことが好きなの?」


 俺の質問に、少し照れ臭そうにすると松山さんは小さく頷いて、そしてまた泣き出してしまう。


「ご、ごめん。なんか俺、こういうの慣れてなくて、その、デリカシーがなくて」

「ちがうの、一ノ瀬君の所為じゃないの。私は、佐藤君が白鷺さんのことを好きなんだってずっと知っていた。私なんかじゃとても敵わない美人で、宇宙の知識だって、佐藤君があんなに楽しそうに話をできる相手なんて白鷺さんくらいだった」


 松山さんは、堰を切ったように話し始めると、もう止まらないくらいに涙を流しだす。


「それなのに私は、佐藤君が白鷺さんにフラれて、ホっとしたの。彼の気持ちはわかっていたのに、よかったぁって思っちゃたの。私、最低だよね……」


 どうしてだろう……。どうして、こんなにも胸が痛むのだろうか?


 いや、本当はわかっている。


 俺は、彼女の気持ちが痛いほどに理解できてしまったのだから。



 つづく。


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