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ヴァイス・ノイン・ブライダル  作者: あぼのん
第三章 シュバルツ・ドライツェン
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第7話 十三番目黒子は悪びれない

 土曜日。


 智君のお見舞いに行くために、朝8時に駅で待ち合わせをすることになった。

 時間になってもなかなか黒子は現れず、8時半を回る頃にようやくやってきた。

 こいつ、午前中の面会時間は10時から12時の間なんだから遅刻するなと言ったのに、やっぱりあまり乗り気じゃないらしい。

 俺の左手に座る黒子はスカートなのに大股開きで、気だるそうに座席に浅く腰掛けていた。


「おまえ一応女なんだから、と言うか、流石にその年齢で恥ずかしいからちゃんと座れよ」

「うっせー」


 大きな欠伸をしながらそう言う黒子。なんで眠そうなんだよ? おまえアンドロイドだろ。

 もうめんどくさいから放っておこうと思うのだが今度は俺の右手。

 白鷺さんはずっと、ソワソワと落ち着きない様子で月刊ムーのページをバラバラと捲っては鼻息を荒げている。


「し、白鷺さん、少し落ち着いたらどうですか?」

「なにがかしらっ!? 私はずっと落ち着いているけれど、一ノ瀬くんはこの私が楽しみのあまり夜しか眠れなかったとでも言いたいのかしらっ!?」


 夜に寝るのは正常だから大丈夫ですよ。


 白鷺さんがこんなにも興奮を隠しきれないなんて、滅多に見れないので貴重だなんて思ったものの。まあいつもよりちょっぴり頬が紅潮してぷるぷる震えているくらいなので、なんかトイレでも我慢しているようにしか見えないかもしれない。


 そんな俺達の目の前に座るのはヤンキー達を代表した二名。

 ヨシキ君とトシ君。俺にやたらと絡んできたトシ君とそれを制止したヨシキ君の二人が、あまり大勢で行くのも迷惑だろうからと案内をしてくれることになった。


「あ、あのぉ。それで、智君の容体はどうなんですか?」

「あぁんっ!? 智“さん”だろうがてめえっ!? 喧嘩売ってんのかてめえ?」


 俺が聞くと、トシ君が顎をしゃくり上げながらメンチを切ってくる。

 同級生だから親しみを籠めて君付けにしたんだけど、どうやらあまり気をよくしなかったらしい。

 そんなトシ君の代わりにヨシキ君が俺の質問に答えてくれた。


「最近は大分落ち着いてきているみたいで、昨日も俺達の呼び掛けに反応してくれて、それだけでも少し希望が湧いてきたっすよ」


 そう言うヨシキ君。


 なるほど、まあ1ヶ月ほど集中治療室に入るほどの重体だったらしいからな。

 10tトラックに跳ねられたのだ。2週間も生死の境を彷徨う大事故だったらしい。

 よく生きていたなと思うけど、黒子が居なかったら本当にやばかったみたいだし。命の恩人と言えば恩人なんだが……。


 目撃者曰く。この事故の原因は、どうも自転車で爆走中の智君がなにかに気を取られて赤信号の交差点に突っ込んでいったのが原因らしい。

 たぶん、居る筈のない時間に、居る筈のない反対車線を歩いていた黒子に目が行ってたんだろうな……。



「そんなことよりも一ノ瀬くん!」

「なんですか白鷺さん?」

「宇宙人との交信って、一体どのようにしているのかしら? なにか特殊な機械を使うの? それともテレパシーかしら? 手術の後遺症って言っていたからやっぱりテレパシーの類よね? どこと交信しているの? 別の惑星から? それとも、地球の近くに停泊している母船? もしかして、もう地球に降りてきている宇宙人とかしらっ!?」


 そう捲し立ててくる白鷺さんは、俺の吐いた嘘を真に受けて昨日からずっとこんな調子で色々と妄想しているらしく、夜中の三時過ぎまでLINEの着信が止まらなかったのだ。


 そんなこんなで医大病院前駅に着くと、病院まではバスで移動。医大前って名前の駅名なのに、全然前じゃないじゃんって突っ込みは置いといて。

 その間も黒子は制服の上に羽織っているスカジャンのポケットに両手を突っ込んで、つまらなそうに俺達の後をついて来ていた。


 10分ほどバスで移動すると、医療センター前で降りる。

 医大病院じゃなかったのか? よくわからないけどここでいいらしい。


 すると、バスから降りるなりトシ君が黒子に食って掛かって来た。

 電車内でもずっと不満そうな感じではあったが、どうやら智君との面会を前に我慢の限界に達したらしい。


「いい加減にしてほしいっす!」

「トシ、やめろ」

「いいや、やめねえっす! なんなんすかさっきから、黒子さんのその態度! たしかに、事故の直接の原因は黒子さんじゃないかもしれねえっす」


 ちなみにトシ君は2年生なので俺以外の人には敬語だ。


「でもやっぱり納得いかねえっすよ。智さんは、本気で黒子さんに惚れてたんすよ。それを、あんな……俺、やっぱり、納得できねえっすよぉぉ」


 言いながら泣き始めるトシ君を慰めてやっているヨシキ君は、彼が落ち着いてから後で行くから先に行っててくれないかと病室番号を教えてくれたので、俺達三人は先に智君の元へ向かう事にした。



「なあ黒子。トシ君の気持ち、少しは理解できないか?」

「さっぱりわからないな。正直こんな無駄な時間を使うくらいなら、ヴァイス・ノインの様子を見に行きたいくらいだ」


 その言葉に流石に俺もカチンと来て、文句を言ってやろうとすると。


「いい加減にしなさい黒子っ!」


 意外にも先に怒り出したのは白鷺さんだった。

 その剣幕に、なぜか俺までもビビってなにも言えずにいると、白鷺さんは続ける。


「なにが時間の無駄だって言うの! UFOコンタクティーと直接会えるのよっ! いいえ、場合によってはアブダクションされていたかもしれない。彼は事故による手術を受けていたんじゃなくて、宇宙人の実験台にされていた可能性だってあるのよっ! これから会いに行く人物はそんな貴重な体験者なのっ!」



 駄目だこりゃ。




 つづく。


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