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ヴァイス・ノイン・ブライダル  作者: あぼのん
第二章 ヴァイス・ノイン
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第7話 ディフェクトラヴァー

 レオナにとって、彼女と過ごす毎日は色とりどりな日々となった。


 お手伝いロボットRBT‐800。レオナは彼女のことをイリヤと名付けた。

 彼女の取り巻く世界全てに美しい色彩を取り戻し、色のなかった人生が光あふれるものと変わった。

 いつしかレオナは彼女に惹かれていることを自覚すると、その思いを告白しようと考えた。

 普通の高校生らしく、デートに誘ってそこで告白をするか。レオナは張り裂けそうな胸の鼓動を抑えながら、徹夜でデートプランを練ったのだが。


 翌朝。


「申し訳ございませんレオナ様。私には、そのお誘いを受けることはできません」

「どうして? 僕の事が嫌いなのかい?」

「いいえ、決してそのようなことはございません。ただ……。私はメイドロボにございます。人間であるレオナ様とデートなどしていたら、レオナ様が周りの方々に笑われてしまいます」

「なんだ、そんなことを気にしていたのか。僕は構わないよ。誰に笑われようと、僕は君のことを」

「私のことを?」


 うっかり口を滑らしそうになりレオナは黙り込む。

 今、彼女に愛を告白してしまっては、徹夜で考えたデートプランが台無しになってしまう。

 怪訝顔で自分の顔を覗きこんでくる彼女に、レオナは愛想笑いで返すと、デートの日取りを明日に取り付けて学校へと行くのであった。



 翌日。


 レオナは朝早く目覚めると身支度をする。

 今日は彼女に告白をする一世一代の特別な日だ。

 絶対に失敗することはできないと気合いを入れて髪を整えて、前もって買っておいた小洒落た服に身を包むと、ソワソワしながら彼女が現れるのを待った。


 玄関に現れたイリヤは見慣れた格好をしていた。

 いつもと変わらないメイド服に着用する彼女が、自分にはお洒落をできるような服はないと申し訳なさそうな顔をするのだが、レオナがその服装が一番似合っているよ笑うと、彼女も笑顔で答えた。


 普通のティーンエイジャーのするデートを、その日は一通りこなした。

 映画を見に行き、昼食を取った後はショッピング、レオナは何かプレゼントしようとするのだが、彼女がロボットである自分がプレゼントを頂くなどと恐れ多いと遠慮するので、半ば強引に帽子を選んで彼女にプレゼントした。

 その間、店内に居た客と店員はずっとレオナ達に、なにかおかしな物でも見るかのような視線を送っていのだが、レオナはそんなことは気にも留めなかった。


 そして夕方、今回のデートプランの総仕上げである。

 若者達にも人気のデートスポットで、ショッピングモールにある巨大な観覧車、そこでレオナは彼女に告白をしようと決めていた。

 彼女と自分の分の乗車券を購入して戻ろうとした時に、レオナは誰かに呼び止められた。


「あれ? レオナ君? こんな所でなにしてるの?」


 数人のクラスメイト達であった。

 とはいっても、レオナにとってはクラスメイトも泥人形のような姿で、誰が誰だか判別もつかない。なので、名前も碌に覚えていないので、レオナは適当に返事をする。


「や、やあ、偶然だね」

「レオナ君もこういう所に遊びに来るんだね。誰かと一緒なの?」


 なぜそんなことを聞いてくるのか? 学校に居る時には、それほど話しもしないクラスメイト達がなぜか今日に限ってやたらと絡んでくることに、レオナはやきもきし始めるのだが。

 その時そこへ、レオナが戻って来るのが遅いのでイリヤが探しにやって来た。


 それを見たクラスメイト達は、突如大声で笑い始めて、レオナと彼女のことを嘲笑し始める。


「おいおい! おまえ、おかしな奴だとは思っていたけど、まさかロボットとデートをしていたなんてな」

「ちょっとやめなさいよ。悪いじゃない」

「ははは、手術の所為で頭までもおかしくなったって聞いていたけど、これはけっさくだな」


 レオナはなるほどと、そこでようやく理解した。

 こいつらは、めずらしく学校以外で自分を見つけたものだから、ちょいとからかってやろうと近づいてきただけなのだと。


「行こう、こんな奴らの相手をする必要なんてないよ」

「レオナ様……」


 彼女の手を握りその場から立ち去ろうとしたその時、クラスメイトが彼女のことを侮辱する言葉を放った。


「お手伝いロボットにも枕営業の機能がついてるんだな!」


 その瞬間、レオナはクラスメイトにつかみかかると、その場で殴り合いの喧嘩となるのであった。




 デートは散々な結果で終わってしまった。

 結局、彼女に告白することもできず、警備員に捕まり大目玉をくらう羽目になってしまった。


 家まで戻る道すがら、彼女はずっと黙り込んだままだった。

 レオナも何も言えずに、その日はそのままお互いの部屋に無言で戻るのであった。




 その夜、RBT‐800は報告書を纏めるとそれをメールに添付して送信した。


 自分の胸の内に湧きあがる不思議な何か。


 これがなんなのかわからなかった。

 ずっと胸の真ん中がズキズキと痛むような感覚。ロボットである自分が、痛みを感じる筈もないのに、そう表現する他ない、そんななにかがずっとモヤモヤと胸の内に残り、レオナのことが頭から離れず、なにも手につかないのであった。




―― これはプログラムのバグなのでしょうか? 私の胸に湧き上がる、この不思議な何かが、バグらせているのでしょうか? 教えてください、ドクターイチノセ ――




 つづく。


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