黒馬
銀翼傭兵団。
規模もククルが崇拝する団長とやらの素性もわからぬまま、森を抜けたアレンは優美な白馬とともに手綱を付けられている屈強な黒馬を見つけた。
「おい、まさかあれはお前の馬か?」
「そうよ、あの黒馬は私が団長に掛け合って連れてきたの」
しらっと答えるククルに、最初から勝てる見込みで来てたのかよ。と内心で憤りにも呆れにも似た感情を抱きつつ黒馬に乗るアレン。
その姿に一瞬ククルは立ち止まるが、白馬へと手を掛けると優雅な所作で騎乗した。
「やはり、その馬に乗れるのね」
「なんのことだ?剣を握れるようになったころから傭兵なんぞやってる。馬くらい乗れるさ。」
「その馬はブラッディホースのハーフよ。人を襲い、血を求める魔物のハーフ。あなたからは血の香りがするのかもね」
「なっ!なんて馬に乗せやがる!普通の馬でいいじゃねぇか!」
慌てて馬から降りようとするアレンであったが、こちらを振り向く馬の瞳はアレンの瞳の奥をじっと覗き込むように見ていた。
「こ、こいつは…俺と同じ瞳なのかもしれねぇな。生身の刀身みてぇな瞳をしてる」
「アレン、あなたにその馬をあげる。精々頑張って功績を挙げるのよ。じゃないと私の見る目を疑われてしまう」
そう言いながら後ろを振り返るククルは華奢で容姿の整ったエルフでありながら、アレンには歴戦の強者に見えた。