終わりの刻
そしてその夜。
剣の隊の皆はそれぞれ眠りにつき、遊撃隊の者たちは手にしたバッジを握りしめて床についた。
今まで亡くした戦友とこれから自分が歩んで行くであろう栄華の道を思いながら夢を見た。
一日が終わり、次の一日が現れるころ。
ちょうど真夜中と呼ばれる刻にそれは起きた。
ぞろぞろと剣の隊の天幕から出てくる者達。
それは優に三百を超える人数であった。
剣と鎧を身に付け、宴の後とは思えぬ機敏さで飛び出して行く隊員達。
それに気付いたのは、酒を飲まぬコルだけであった。
「ちょ、ちょっとみんな!どこに行くんですか?」
寝惚け眼で眼を擦りながら天幕を飛び出したコルは、ある男を見つける。
シュードだ。
「シュードさん!何か命令でもあったんですか?それなら、隊長を起こさないと!」
何か非常事態が起こっているであろうことは把握したコルがククルを起こしに行こうとする。
しかし、シュードはそれを制した。
「コル!お前は若い!それに腕もある。どこかの軍へ行けば登用されるだろう、今は逃げるんだ」
シュードが今しがた発した言葉の意味がわからず、狼狽するコルであったがその超人的な目はあるものを捉えていた。
火矢である。
シュードのはるか後方に火矢が無数に見えたのだ。
これが意味する所、それは何かはわからない。
だが、シュードは逃げろと言った。
その後方には、火矢を構えた者達がいる。
そして、この状況で皆を救える可能性があるのは己一人であるということ。
「敵襲だー!!!!剣の隊、起きてくれー!!」
力一杯のコルの叫びと共に、天幕には一斉に火矢が降り注いだ。
コルの叫びに次々と天幕から飛び出てくる隊員達であったが、わずかにその動きは遅かった。
飛び出して来た者達が火矢に討たれる。
悲鳴と戸惑いの声が木霊し、男達が伏していく。
「あ、あ、みんな…」
コルはそれ以上言葉を発することが出来なかった。
さっきまであんなに笑い合っていた仲間達が、討たれる側とおそらくは討っている側で分かれているのだ。
仲間達が殺し合っている。
その事実は幼いコルには酷過ぎた。
「こ、これは…どういうことなの!シュード!?」
ククルがその場に現れた頃には、すでにその夜襲は限りなく成功に近い成果を残していた。
しかし、襲撃にはどんなものであれ目的が存在する。
敵兵力を削ぐ。
陽動としての襲撃。
そして、敵隊長格の闇討ち。
この状況からは考えるまでもなく、シュードが起こしたであろう襲撃の目的は敵隊長格の命であった。
「隊長…すまない。しかし、こうするしか無いんだ。これ以上隊の皆を傷つけたく無い。大人しく殺されてくれ…」
シュードが出した声はわずかに震えていた。
そこから全てを察したククルは剣を収める。
「みんな、逃げて。彼等に何の事情があるかはわからないけど、私の命さえあればきっと追っては来ないわ」
どこで何の、ボタンを掛け違えたのだろう。
ここから夢に向かって羽ばたくのではなかったのだろうか。
色々な想いが巡り巡る中、ククルは命を捨てることを選択した。
なに、すぐに殺されることは無いだろう。
どこぞに連れて行かれ少々痛い目にあうくらいであろう。
部下の、家族の命を救うには天秤にもかからない程の小事である。
ゆっくりとシュードの方へ向かい歩を進めるククル。
その目の前でシュードの後ろにいた者達が突如として爆ぜた。
何か鉄塊で頭を叩き割られたように見えたその光景はククルにとっては見たことがある光景だった。
もちろん、シュードにとっても。
「何があった…コル、あいつらに見覚えはあるか?」
目の前に現れ、部下や同僚であった者の頭を叩き割ったアレンは顎で後方にいる火矢を放って来た者達を指す。
「は、はい…あれは…弓の隊です。それに、シュードさんや弓の隊が単独でこんな策を打つはずがありません…」
「シュード。お前達が何をしたいのかは知らねぇ。ただ、俺の仲間達は残り全員生きて逃がす。そして…ククルも渡さねぇ」
「アレン。お前のその力は大き過ぎるのさ…それだけだ。それだけなんだよ。」
シュードの手は強く握られ血が溢れている。
この夜は、忘れられない夜となった。
そして、銀翼傭兵団から「剣の隊」が消えた夜だった。




