開戦
夜が明けた。
日の出から一刻ほどで山岳地帯の中で向き合う両国軍勢。
レグナレス七万、ウラド十二万の両軍が向き合うその光景は圧巻であった。
レグナレス軍中央に布陣するのは大将軍ハルベルトであり、ウラド王国にとって宿敵とも言える男である。
戦場となる山岳地帯はウラド王国領域であるため地形を把握していることで彼らの士気も高かった。
ハルベルトは一際高い場所より「小鳥の将」と呼んだ銀翼傭兵団 団長の姿を探すが、総勢六千の兵を抱えるそれなりに大きい所帯であるのにもかかわらずどこにいるのか全く分からなかった。
「全く。逃げよったか小童め」
あの目は偽りだったのであろうか、ただの向こう見ずな阿呆であったのであろうかと思いを巡らせるハルベルトであったが、目の前でウラド陣営が動き始める。
両軍が国境に沿うように一直線に横並びで対峙しているが、こういった戦には必ず第一陣はどの軍か、といったものが付き纏う。
貴族の我儘であったり、功を焦る若い将軍であることもあるが、昨日エスカーが見せた目はそのどちらでもない、初手で戦を決めに行くような、そんな覚悟を秘めた目であった。
「レグナレス帝国よ!今一度問う!我はウラド王国将軍マーキール!下劣な侵略者達よ、皆殺しにされたくなくばここより去れ!」
中央で一際目立つ赤鎧を纏った偉丈夫が現れ、マーキールと名乗った。
「我が赤槍の血サビとなりたいのならかまわん!捻り潰してくれよう!」
宣戦の狼煙をあげたウラド王国に対し、ハルベルトが立ち上がる。
「喚くな、童よ!儂に勝てると思うてか?これは小競り合いでは済ませぬ。ウラド王国滅亡への狼煙としてくれるわ!」
軍議で見せた好々爺のような表情から一変して、レグナレス帝国一の戦闘狂とも呼ばれるハルベルトの本性が現れた。
実際にハルベルトは、大陸の雄とも呼ばれるレグナレス帝国の力を持ってすれば、大陸の統一も可能であると考えている。
大陸統一が先か、己の天寿が先かそのようなことを近頃考えてしまうのは歳を取り過ぎてしまったかと考えている程である。
「レグナレス帝国軍よ、儂の子達よ!目の前の敵をただ屠れ!」
「侵略者どもめ!ウラド王国軍よ!憎きレグナレス帝国軍を捻り潰すのだ!」
「「全軍っ!突撃ー!」」
レグナレス帝国ハルベルト大将軍とウラド王国軍マーキール将軍の号令が響き渡り、木霊として山岳地帯に響き渡る。
しかし、その木霊は全員に届くこと無くかき消されてしまう。
ハルベルトより見て左側の最奥で、魔術によるとてつもない爆風が吹き荒れる。
その場で砂煙が晴れた頃に広がっていたのは、まるで敵陣の中に放たれた矢のように敵を斬り進んで行く黒馬に跨り、身の丈以上の大剣を振るう苛烈で強引な一人の傭兵であった。




