一騎討ち
ククルの勝鬨から程なくして後方で爆発音が響き渡った。
それは魔の隊による広域殲滅魔術の陣が完成したことを知らせ、勝負は完全に決まった。
ほとんどの敵兵が霧散していくなか、一つ角の兜を被った男とその近衛兵であろう者達がククルとアレンに近付いてきた。
「おい、傭兵よ。中将を殺したのはどいつだ?」
剣は収めているが殺気に包まれている男がアレンに話しかけてきた。
「中将ってのはあの二つ角のやつか?あいつを殺したのはウチの相棒だ。」
「ずる賢い傭兵どもが!各々の武が足りないと見るや将を不意打ちとは、金の為に地を這い蹲る下賤の野郎どもだ!」
剣に手を掛けこちらを恨めしそうに睨みつけてくる男は装い、そして二つ角の男を中将と呼んだことから中将よりは明らかに身分が上の男であった。
恐らく貴族と呼ばれるものなのであろうその男は兜を外すと、コルを睨みつけながら叫ぶ。
「おい!貴様!戦に敗れたとはいえ、個として貴様らに負けるわけにはいかぬ!俺と死合え!」
勝鬨の元におり、この戦は決したものだと確信していたコルは目の前で起こっている事態を飲み込めずただ立ち尽くしていた。
「一騎討ちってやつか?あまり傭兵を舐めるなよ」
その視線に割って入ったのはアレンであった。
それが決して仲間であり相棒であるコルを守る為だけではないことにククルは気付いていたが、目の前の男は、百人殺しは何を思い闘うのか、それを知った上でも私はこれが欲しいと思うのであろう、と自問自答を繰り返しながらアレンを見守っていた。
「アケドニア連邦軍重装騎兵隊所属 マヤシナ大将だ」
「銀翼傭兵団 剣の隊 アレンだ」
お互いが短く名だけを告げると、剣を振りかぶる。
マヤシナと名乗る大将は、重装騎兵達を束ねる者として違いない実力を持っていることがククルにはわかった。
ハルバードを振り回すその膂力はアレンに引けを取らず、一方のアレンは敵の陣中で大剣を振り続けた疲労が残っている様子であった。
しかし、一騎討ちである以上劣勢になったからと言って止めることは出来ない。
命が死ぬ前に名が死んでしまうのだ。
アレンが徐々に追い込まれマヤシナが振るうハルバードを受けきれなくなり始めたとき、アレンの目つきがより一層険しいものになる。
「おい、隊長。俺は今まで何も考えずに剣を振ってきた。でもそれもここらが潮時だ。」
アレンはこの闘いを見ているククルに告げた。
すると大剣を背中に背負い直し、一見勝負を捨てているように見える体勢を取る。
ククルが何事かという表情を浮かべ、死合いを止めようとするがマヤシナは止まらない。
ハルバードを上段から振りかぶりアレンの脳天目掛けて振り抜く。
しかし、アレンの頭は割れない。
代わりにマヤシナの首が戦場の跡地となりつつあるこの平原に落ちるのであった。