一人の傭兵
先の小競り合いでただ一人の生き残りとなったアレンは事の顛末を報告するため、雇い主であるレグナレス帝国軍本部に訪れていた。
レグナレス帝国死者百三十九名、ウラド王国死者百九十二名、生存者一名。
この異常に思われる数字を端的に報告すると
「ふん!忌々しい傭兵どもが!」
その捨て台詞とともに奥から恰幅の良い男が現れる。
「けっ、また出やがったか。椅子から一歩も動かない将軍さんよ?」
そうアレンが呟くと
「貴様がまた一人で生き残ったと言うのか?悪運の強い男よ。どうせ戦中はこそこそとどこかに隠れておったのだろう?」
「ま、そういうことにしとけばいいじゃねえか。そんなことはどうでもいい、金をさっさと寄越せ。」
アレンの言葉に、将軍と呼ばれた男は硬貨の入った皮袋を寄越す。
「さっさとこれを持っていなくなれ。お前のような参戦した戦は他に生存者が残らないなどという訳のわからんやつはもう雇わん」
「へいへい、わかったよ。ウチの団も潰れちまった。しばらくはこの銭で楽して暮らすわ」
アレンはそういうと軍本部の分厚い扉を蹴飛ばして出て行ってしまった。
「さてと、しばらくは山にこもってコイツでも振り回しながら狩りでもするか」
鎧や兜の類は一切付けず、ただ無骨な大剣に布を巻き背中に背負っている一人の傭兵は森へ向けて歩き出すのであった。