撤退の殿
天幕でそんなやり取りが行われているとは露知らず、アレンは剣の隊 最後尾で待機中。
前線ではククルが白馬を駆けながら重装騎兵達を機動力で攻め立てていた。
ククルが率いている剣の隊五百人と、シュード副長が率いる五百人。
剣の隊は隊を二つに分けそれぞれ重装騎兵達を分断し闘いを進めているが、エスカーがいる天幕からは戦況は一目瞭然であった。
「やはり、シュード副長では厳しいか。隊を一つに再編させ、斧の隊と合流させましょう」
アリエフスキがエスカーへと進言する。
しかし、エスカーはその場から全く動かない。
「いや、アリエフスキよ。ククルに任せるさ」
天幕では鷲のような目をしたエスカーが戦況を見つめる。
エスカーもまた、百人殺しとククルに呼ばれていたアレンの実力をこの目で見たいのである。
一方最前線の剣の隊、隊長のククルは焦っていた。
アレンに詳細は告げていなかったが前回の戦、北国戦線と呼ばれた戦場で副長の一人を亡くしていたのであった。
「くっ、思う通りに敵を挟撃できないっ!シュードの隊も押され始めてる、何か策を考えないと…」
ククルは重装騎兵達から距離を取ろうとするが、ここが好機と敵が攻めこみ始める。
シュード率いる隊はさらに押し込まれ、死者も出始めている状況であった。
「おい!シュード!そろそろ、やべぇんじゃねえのか!?」
最後尾にいたアレンはククルから譲り受けた、黒馬に乗りながら前進側へいるであろうシュード副長へ叫ぶ。
「アレン!コルを連れてさっさと撤退だ!」
シュードが前方より必死の形相で叫びかえしてくる。
それほどまでにアケドニア連邦軍重装騎兵達は進軍してくる。
しかし、追い込まれ撤退を続けているシュード隊の中で一人前を向き続ける男がいた。
その男は黒馬に跨り、金髪の少年を後ろに乗せ大剣を構える。
「シュード!コルは借りるぜ!俺の相棒だ!一人突っ込むような真似はしねぇ、二人で突っ込んでくるぜ」
撤退を続ける部隊に背を向ける新入りの傭兵は、天幕から見下ろすエスカーにとってやはり苛烈で強引に見えた。