朝の鐘
コルの目はアレンにも捉えることのできない距離を視認していた。
「相棒。そいつも黙っていた方がいいのか?弓の話と」
「は…はい。誰にも言わないで欲しいです」
そう俯きながらコルが告げると
「わかった、誰にも言わねぇ。傭兵ってもんはみんなそんなもんだろ。最後の切り札ってやつもありゃ言いたくない過去ってやつもある」
「あ、ありがとうございますっ!」
「そろそろ飯じゃねぇのか?シュードのとこにそいつを持ってってやれよ」
小さく頷くとシュードの元へと走って行ったコル。
傭兵という生き物は過去も未来も人にはあまり話さない生き物だとアレンは考えている。
だが、昨日の宴を通じて銀翼傭兵団の隊員は背中がこそばゆくなるほど熱く夢も生い立ちも語っていた。
アレンにとって目的は何なのか?目標とは何なのか?これからの傭兵生活の中で果たしてそれは見つかるのだろうか。
その思いがふつふつと湧き上がっていた。
朝日も完全に上りきったころ、野営地に鐘が鳴る。
「随分とやかましい音だな。こんな音を鳴らさねぇと、朝飯を食いに来ないのか?」
呆れながらもアレンが口にすると、一斉にテントから隊員たちが飛び出してきた。
その中には慌てて鎧を着けるもの、帯剣し始めるものなど朝食を食べる準備をするにしては物騒過ぎた。
「おはよう、アレン。戦よ。支度をして。」
すでに戦支度が整った様子のククルが現れた。
昨日乗っていた、白馬に跨りアレンを見下ろす姿は剣の隊 隊長そのものであった。
「戦?そんな急に始まるってことは、攻められてるってことだろう?」
「えぇ、そうよ。厄介なやつらね、アケドニアからわざわざ私たちを仕留めに来たのよ。」
「おいおい、北で何やらかしてきたかわかんねぇけど面倒なこったな」
アレンは呆れた顔を一つ見せるが、薄ら笑いを浮かべているその口元からは鋭い犬歯が覗いている。
「隊長、始めはどこにいりゃあいい?」
「アレン。あなたは最後方でコルとひとまず待機よ。」
「一番後ろにいればいいのか?」
「えぇ、あなたのパートナーはコル。あの子は若過ぎる。できれば危険な目に合わせたくない。剣の隊隊員は皆その想いよ」
「そうか。わかった。"始め"は最後方にいる」
「えぇ。銀翼傭兵団は今回敵を魚鱗の陣で迎えるわ。剣の隊は第一陣よ」
「わかったぜ。隊長さんよ。」
アレンにとって銀翼傭兵団での始まりの戦が始まる。