皆の子
宴が開かれた翌日の朝。
アレンは若干重たいような頭を抱えながらも、顔を洗いにテントから出て行く。
「久しぶりとは言え、少し飲み過ぎちまったなぁ」
冷水で顔を洗い気を引き締め直そうとアレンが両頬を自分の手で叩き朝日を見つめる頃、銀翼傭兵団野営地で目覚め行動し始めているのはアレンだけであった。
と、自分で思いながらふと耳をすますと風切り音が林の中から聞こえてきた。
「これだけ狩れれば、シュードさん達に褒めてもらえるかな?」
林から出てきたのはコルであった。
朝から何をしているのか、その素朴な疑問から今日より「相棒」となる年端もいかない少年をアレンは観察してみることにした。
コルの手に握られているのは小さいが「魔物」と呼ばれるものであり、小動物のような形態をしているが少年が一人で狩れるようなものではなかった。
そしておかしな事に、コルの手で尾を持たれぶら下がっている元来動きの素早い魔物達の死体は正確に寸分の狂いも無く急所の一点のみを狙われて死を遂げていた。
「まさか。あれをアイツがやったっていうのか?」
思わず目を丸くするアレンは物陰に身を隠しながらコルを尾行するのであった。
「あっ!あそこにもホーンラビットが!今日はあれで終わりにしよう」
コルが一人で気を良くし呟くと身を低くしながら草陰に忍び寄る。
しかし、多少離れているとはいえアレンの目にはホーンラビットは見えない。
「毎朝やってれば、魔物の出る場所もわかるのか?」
と一人で考え込みながらアレンはコルをじっと見つめる。
すると、何故か獲物から目を逸らし辺りをきょろきょろと見回し始めたコルであったが革鎧の中からどこに背負っていたかもわからない弓を取り出した。
そしてコルが弓矢を射ると、鋭い風切り音とともに射られた矢はアレンの目には到底見えないほど遠い距離まで飛んで行く。
何秒か後、小さな呻き声が聞こえるとコルは走り出し林の中へ入って行くとホーンラビットと呼ばれる魔物を腕に抱えて持ち帰ってきた。
アレンはコルの弓の腕に見惚れ、すぐさまコルの元へ走り出す。
「コルよ。お前今の魔物は、どこにいた?」
アレンがコルに問うと、急に現れたアレンに驚きながらも
「あ、アレンさん!おはようございます!い、いえ、その辺にいたホーンラビットが弱っていたのでとどめを刺して捕まえただけですよ」
一部始終を見ていたアレンはコルが何故嘘をついたのか検討もつかず
「全部見てたよ。俺の目には魔物は見えなかった。コル、お前は見えた。そして、矢で射た。その魔物はどの辺にいたんだ?」
アレンが腰に手を当てながらコルに再び尋ねると、その様子にしまったという表情を浮かべながらコルは
「あ、あそこの木の下です。あ、あと僕が弓を使えることは他の剣の隊隊員には言わないでください。お願いします、アレンさん」
と林の奥深くにある木を指差しながら答えた。
アレンがその方向へ目を向けると
「おい、お前にはあの木の下にいる自分の靴ほどしか無い魔物が見えたのか?」
コルが魔物を見つけ、矢で射た距離はアレンが現在地からかろうじて木を視認できる程の距離であった。