劣勢に慣れた男
「良い面した奴らばかりだったな。死線をくぐり抜けてる。そんな面してたぞ」
アレンは野営地の中を歩きながらククルに話しかける。
「そうね。でもあなたなら隊長達には勝てるわ。間違いなくね。」
切れ長の目をこちらに向けながら笑いかけるククルはさらに続けた。
「聞かせてほしい。先の戦のこと」
「先の戦?」
「あなたが百五人、斬った時のことよ」
剣の隊が野営をしている場所まではまだ距離があるということなのか、先の戦のことを尋ねられたアレンは
「この前だけじゃねぇよ。」
端的にこう答えた?
「え?どういうこと?」
目の前の男に益々疑問が生まれたククルが立ち止まる。
「この前の戦だけじゃねぇ。俺のいた傭兵団は弱小ばかりでね。いつも劣勢になっちまう。だけど、俺はここにいる。ただそれだけのことさ。」
尋ねたこととは違ったような返事が返ってきて、ククルは頰を膨らませた。
「違う。あの剣術、体捌き、そしてあの苛烈さ。そして多対一になってからの動き。普通の傭兵じゃないわ。」
「まぁその辺は後にして、とりあえずは隊員達に挨拶させてくれよ」
と話を変えたアレンに違和感を覚えつつも目の前にある野営地の一角にはためく、おそらく鷲の羽根であろうものと片手剣が交差する旗を見てククルは告げた。
「まぁ、後で聞かせてもらうとして、着いたわ。剣の隊よ」
その言葉に立ち止まったアレンの前には素振りをする者、なにやら試合を行なっている者、またその試合に賭けでもしているのであろう酒を飲んでいる者達がいた。
「姉さん!お帰りで!?」
耳を赤くしているククルを見つけた酒を飲んでいる傭兵達がそそくさと動き始めたが
「ユッキ、サジ、オド。あなた達は今日は飯抜きよ」
ククルの一声により、がっくりと肩を落とすのであった。