決めごと破りの数時間
早朝、今日もキサツはカエデの部屋に行き、浴場に行こうと誘おうとしていた。カエデが泊まる部屋の前までつき、ノックをした。
「カエデさん、起きてますか?もし良かったら、また一緒に浴場へ行きませんか?もちろん、無理にとは言いませんが」
扉越しに話したとしても、部屋の中に声が届かないほど、この建物は防音性は良くない。
しかし、部屋に入ったとしても客の賑わう声が聞こえるはずのその部屋の中からは、物音ひとつ聞こえなかった。
昨日の事から、カエデはそれなりに早起きな方であると分かっていたのだが、物音ひとつ聞こえない状況に、キサツはまさかと思い、ゆっくりと扉を引いた。
「カエデ…さん?いますよね?」
それでも返事は無く、扉を開ききったキサツの目に、ある物が目にとまった。
「嘘…」
窓から朝の日差しが差し掛かり、そのテーブルの上でその人物を彷彿される赤い果実が、そこに置いてあった。昨日買った物も、ベッドの眠った後のシワ寄りも、跡形も無くなくなっていた。
「いっちゃったんだ…」
キサツはテーブルに置いてあったりんごを手に取り、それを持ったまま、部屋を後にした。
落ち込んだまま階段から降りると、カエデと共に降りてくるであろうと予想し、朝の挨拶を交わそうとしていたカルナやシーヤンが不思議そうな顔をしていた。断られただけなのなら、苦笑いしながら階段を降りてきそうなキサツが、残念そうな顔しかしていなかった。カルナとシーヤンは顔を見合わせ、カルナは肩を竦め、シーヤンは首を傾げた。
キサツは店主にだけその事実を伝え、苦笑いしつつ一人で浴場に向かう事となった。
「カエデさん、やっぱりいなくなっちゃいました」
「そうかい。旅人ってのは自由奔放だからね、仕方ないさ」
その言葉を聞きカルナは、昨日自分がある助言さえしなければ、申し訳なさで最後に顔を見せるくらいの事はしたのではないかと、顎に手を当て嫌な事を考えた。まだカエデと話していなかった他の店員も残念そうな声をあげ、店主の合図があるまで、店の仕込みの手を止めていた。
一方カエデとチャラ神ことバッグは、ある程度の物を詰め込んだ新しい大きめのバッグを担いで、街中を歩いていた。
どこか不満そうな顔をしているカエデに、チャラ神は聞いた。
「本当にいいの〜?このままだったら寝床も仕事も見つかりそうだったのに。それにキサツちゃんも、結構仲良くしてたみたいじゃなかったぁ〜?」
「良いんだよ。確かにあそこの人達は俺に良くしてくれる。良くしすぎてくれるって言っても良いくらいにな。でも俺が俺でいられなくなるような場所だったら、意味ねえだろ。俺たちの目的は、この世界でお互いの信頼を深めて、また元の世界に戻る事が目的なんだから」
やはり不貞腐れた顔で答えるカエデに、あえてチャラ神は何も言わなかった。それは昨夜チャラ神が心配していた事その物であり、カエデが出て行く理由を作った張本人であるから。もはやかける言葉を見つけられない程でもある。チャラ神は、カエデの言葉に従うしかなかった。
早朝の大通りには町民は少なく、路地裏を根城にしているロードワームや、自称冒険家の三流放浪者が所々いた。それを睨みながら出店の準備を続ける商人は数多く、睨む対象とは正反対に属するカエデにも、多くの視線がいった。
「とりあえずどうするか…チャラ神、何か良い案、あるか?」
「出来ればここから遠い場所の宿を借りたいね、あのお店の人にばったり会ったりしちゃったら、気まずいし」
「そうだな。とりあえずは、何も考えずまっすぐ歩くか…」
出店が左右に並ぶ大通りを直進し、念のため周囲の店も確認しておく。最悪今日はこの近辺の宿に泊まるかもしれないので、そのための下見だった。
しかしわざわざ大通りに店を構える宿屋は見当たらず、結局出店ばかりを見ていた。
カエデは初めて路地裏から大通りに出て来た時の事を思い出しながら、ある事を発見した。路地裏に続く細い道がある場所の近くには、誰も店を構えようとしていなかった。おそらく、ロードワームが路地裏から店の商品を盗もうとするのだろう、中には路地裏らしき細い小道の側に店を構える商人もいたが、大抵の場所が行き止まりの小道だった。
「ロードワームって言うのは、言わばホームレスより嫌われ者らしいな。日本のホームレスだったら、近付き難いのはあるけど、もはや誰も気にしないもんな。おまけにホームレスよりよっぽど数が多い。思ってたより、治安が悪い場所なんだな、ここは」
「だねぇ。ほら、早速あっちで捕まってる人がいるみたいだよ」
カエデとチャラ神は怒鳴り声をあげ子供のロードワームを叩く、中年くらいの男の商人を見つけた。子供は泣く事も無く、ただそれが終わるのを堪えているようだった。
「ひどいもんだねぇ…きっと日本ほど社会保障が充実してないんだろうね。親に捨てられたり、生き別れになったりして、仕方なくロードワームに成り下がる子もいるだろうに」
「…ファンタジーの世界じゃお馴染みだな」
カエデは少し迷った。商人に捕まったと言う事は、少なくとも店からの盗みは成立していないはず。未遂で終わっていたのなら尚更、厳重注意が妥当ではないかと酷い平和ボケをした思考から、くだらない事を考えていた。
「どうする?カエデくん」
ゲームでもカエデよりはるかにゲス行為の少ない善人プレイヤーであるチャラ神は、カエデを仰ぐように言った。
「仕方ないな…止めるだけだからな」
止めるだけ、と言ったのは、もし慈悲の心がカエデに恵みと言う行動をさせた場合、他のロードワームがうらめしそうに近寄って来る事が容易に想像できたからだ。
これがゲームのシナリオであれば、ロードワームは捕まっている少女一人で、主人公が商人を止め、お金を恵む単純なイベントで終わっただけなのにと、カエデは思った。
当の商人に近付くカエデに、周りの商人の視線が一層強く向けられた。近付くにつれ、獣のような強い刺激臭が増していったが、今更放っておく事も出来ず、カエデは商人に言葉を発した。
「なあ、捕まえたって事はどうせ未遂なんだろ?何も盗まれてないなら、それくらいで許してやれよ」
険しい顔をした商人は、カエデの方を向くと明らか表情を変え、カエデに言った。
「だけど白亜の嬢ちゃんよ。こうでもしなきゃこのガキ、また同じ事を繰り返すに決まってるぜ?ここで悪さって物をしっかり教えておかなきゃ、また店の物に手を出す。うちの店だけじゃない、他の店に手を出すかもしれないじゃないか。見てわかるだろう?だから、他の商人は止めようとしないし、気にも止めない。むしろ自分が受けた被害の事を思い浮かべて、いい気味だって思ってるはずさ」
カエデには商人の言いたい事も理解出来た、自分の物を盗もうとする人へ対する憎しみは、日本であっても1度は経験のある事だったからだ。しかし、カエデはそれだけでは解決しない事も知っている。カエデと商人の考えが違う、唯一の点だった。
「そうして満足するまで殴った後、2度とこんな事をするなって言うのか?その後、その子はこう考えるだろう、今日はこう失敗したから、今度はそこを失敗しないように頑張ろう、と。違うか?」
その商人は何かを思い出したかのように言葉を失った。その商人は、何度同じ顔のロードワームをとっ捕まえて叩いたかなど、正確な数を覚えていなかったからだった。
それは間違いなく、再犯を起こしている証拠、それ以上に、次から次へと小作な手を考え、陰湿な手口になって来たかを、その商人は思い出した。
手慣れたロードワームを育て上げたのは、自分たち商人だと言う事実を理解した瞬間、力が抜け、引き上げていた子供の両腕を、手放した。
「わざわざ白亜のお嬢さんがお慈悲を下さったんだ、もう2度と店にちょっかい出すんじゃねえぞ」
子供は話も聞かず、側の路地裏へと逃げて行った。
「あっ、せめてお礼ぐらい言ってくれてもいいのに」
チャラ神が不満そうに言ったが、カエデは冷めていた。
「そんな事が起こるのはゲームの世界だけ、実際死に物狂いで盗みをしてる身からしたら、助けなんて知った事じゃないんだろ。あいつが勝手にやった、それだけだと思うぜ」
「そ、そうだよね…ファンタジーって言っても、すべてが夢の世界って訳じゃないもんね」
チャラ神は明らかに不機嫌なカエデにそれだけ応え、その後黙った。しかしその直後、背後から誰かの声が、カエデに向けられた。
「さすがは白亜、と言った所ですね。何者にも慈悲を向ける、良い心がけです。商人が子供を虐めていると聞いて急いで飛んできたつもりでしたが、どうやら一足遅かったようですね」
振り返ると、カエデの着る白亜の服の男性版のような服を着た、あからさま身分の高そうな若い男性が立っていた。手には、大事そうに分厚い本を抱えていた。
カエデは初め何者か理解出来なかったが、周りの商人達が騒ぎ出し、理解した。
「エルバ様だ…!なんでこんな場所に」
「皇鳳様が!?ど、どこにお見えに!?」
「エルバ皇鳳様、あぁ、まさかこんな場所でお目にかかれるなんて!!」
「あなたが…噂の皇鳳様?」
カエデが疑問の意を唱えると、その好青年は、優しい声でええ、とだけ返事をした。それと同時進行で、先程まで子供を叩いていた商人が急に慌てだした。
「皇鳳様!こ、これには訳がございまして!!」
「ええ、分かっています。あまり褒められる事をしていたようには見えませんでしたね。ですが、あなたは既に白亜の方にお叱りの言葉を受けている、私の口から、改めて言う事もございません」
「申し訳ありませんっ!皇鳳様ぁ!!」
カエデはようやく面白そうな人物を見つけ、正気を取り戻した。怪しい笑みを浮かべつつ、カエデは皇鳳に話しかけようとしたが、さきに言葉をかけてきたのは皇鳳だった。
「直接白亜の方とお会いするのは初めてですね。初めまして、エルバと申します。よろしければ、この後お時間を頂けませんか?是非ともあなたのような良き心の持ち主と、お話してみたくなりまして」
「こちらこそ、皇鳳様。時間ならありますよ?たっぷりと」
そう言いエルバとカエデはしばらく先の中規模の通りと交差する交差点で曲がり、側の喫茶店へと入った。
その店は本来の開店時間では無かったが、あまりの異形なペアの来店に、急遽開店を余儀なくされた。しかし通常営業時間はまだ先であるため、他の客は入れなかった。一種の貸切状態になり、店員らは壮絶な開店準備を迎える事となった。
しかし皇鳳はその様子を見て、お構いなくとだけいい、カエデの方を向いた。
当のカエデは、店員に誘われるように、同じく落ち着きが無くなっていた。
すると皇鳳はカエデの片手を手に取り、何かを念じるように祈りのような事を始めた。そうされるとなぜか、落ち着きを取り戻し、普段のカエデがようやく戻ってきた。
「白亜は、とても周囲に影響されやすい生き物です。それは白亜人であるあなたも例外ではありません。街中の苛立ちや、ここにきての慌て様に、心当たりがありませんか?」
「はっ!?言われてみれば確かに…皇鳳様ってやっぱりスゲェ!!」
「私はただあなたの中にあるエーテルに干渉しただけです、変わった事はしていませんよ」
人のエーテルに干渉する事自体が変わった事であり、奇行とも言えると感じたカエデであったが、それを言葉に出すのは失礼だろうと、言葉を止めた。
そこに緊張しながらやって来た、おそらくこの店で一番若いであろう年齢の少女は、エルバとカエデの前に、恐る恐る紅茶を置いた。
「そっ、素朴な物ではございますがっ!ぜ、ぜひご賞味ください!!」
その初々しさにエルバは再び笑い、爽やかな笑顔を向け、ありがとう、と優しい声で答えた。店員は顔を真っ赤に染め、そそくさと逃げて行ってしまった。
「し、失礼しましたぁ!!」
その姿を最後まで見届けるエルバ、その様子は若干犯罪的な空気がしたが、おそらく皇鳳としての普通の対応だろうと予想し、無礼な思想を懲らしめた。
「素直で純粋な、いい子ですね。将来はさぞ素敵なレディになられる事でしょう。道を踏み外さず、元気に育って欲しいですね」
「そうだな、あんな純粋な子、今のご時世珍しいもんだろ」
皇鳳につられ、急におじさん臭いセリフを言ってしまった。
「そうおっしゃる貴女も、とてもお優しい心をお持ちのようですが。まるでお言葉使いで、その心を隠していらっしゃるようで、見ていてとても可愛らしいですよ」
カエデは微かに照れながら、良くも恥ずかしい言葉をベラベラと喋れる皇鳳に、関心した。しかしそんな世間話もその程度にしておいて、カエデは早速本題を持ちかけた。なぜ、わざわざ開店もしていない店に入ってまで、何を話そうとしているのかを。
「んで、皇鳳様に聞きたいんだけど。なんでわざわざ俺なんかを誘ったんだ?白亜だからって理由は、悪いけど聞き入れないからな」
「エルバとお呼び下さい。皆さんは私が偉い存在かのように褒め称えますが、私も列記とした人間です。身分の違いが心の言葉を遮るのは、良くない事だと、私は思うんです」
人間、と言う割には、聖人っぷりが滲み出ているが、あえてカエデは突っ込まず話を進めた。
「じゃあ、エルバさん?俺と話をしたい理由ってのを、教えてくれないか」
「それはですね…貴女の言った言葉が、私の教えた言葉より、とても優れていたと思ったからです。私とは違い、理想だけを言うのではなく、現実を見続けても尚、人々を正す言葉を出せる、貴女の強い心に感動してしまいました。そしてなぜ、あのような言葉が言えるのか、聞いてみたくなったと言う事です。…これでは、理由になりませんか?」
「なるほど、理想しか言えない、ね。まあ確かに俺は現実的な事を例えて、あの商人を止めたけどさ。でもあの言葉だけであのロードワームが改心したとは思えない、結局はその場しのぎにしかなってないだろ?」
「確かにそうかもしれません。彼らロードピープルも、生きる為に必死ですから」
エルバはロードワームとは言わず、わざわざロードピープルと言った。聖職者に向けあるまじき発言をしてしまったと悔いたが、もう遅かった。
「ですが貴女は、本当は商人の方にこう言いたかったのではないでしょうか?生きる方法を否定するなら、別の生きる方法を教えるべきだ、と」
カエデは目を見開いた。それはカエデが本心から、先程の商人に言いたかった本当の言葉だった。
しかし、あまり善人ぶりすぎると、白亜には理解出来ない問題だったと拒絶され、止める事すら出来ない事を、恐れていた。その事を、文字通り心を読まれたカエデは、エルバの気持ちをようやく理解した。
エルバはただ、平等に分け与えるエーテルと同じように、身分格差の無い、平等の世界を目指しているのだと。そして、それは白亜であるカエデにしか出来ない事なのだと、告げているようで。
「エルバ、実は俺、仕事が無くて困ってたんだ。…良かったら、一緒にこの街を良くしていかないか?」
「ええ、是非!貴女ならそう言ってくださると信じておりました」
「どうだか、また心を読んだりしたんじゃないか?」
「これからお互い、疑い事は無しですよ」
そしてカエデは、その瞬間から聖職者補佐の肩書きを手に入れ、エルバもまた、新たなパートナーを見つけ、胸を踊らせていた。
発展の遅れた廃れた街の復仇なら、おそらく日本の社会保障を参考にすれば上手くいく。記憶も繫ぎ止め、仕事も手に入れ、地位もお金もついてくる。これ以上カエデに取って良い話は無い。
一生とは言わないが、少なくともカエデがこの世界にいる間は、エルバのパートナーでいようと、心に誓った。
そして今、一番心の許せる人物の元へ戻る事も、許された気がした。
「では早速ですが、院に戻って当面の目標を立てたいので、ご案内しましょう」
だがカエデはその言葉だけは断った。記憶を繋ぎ止める術が見つかったら、まず初めに何をするか、心に決めていた事があったのだ。
「悪いけど、今すぐは無理。一度戻りたい所があるんだ。見ての通り、荷物も沢山あるから」
「そうですか?では、私もお供しましょう」
「ああ、出来ればそうしてくれ」
そして2人は例のレストランへと向かった。突然の皇鳳の来店に、またもや開店前の店が慌ただしくなった。そこに店主が現れ、カエデに言った。
「あんた、もうどっかいっちまったかと思ったら、聖職者になったのかい!!」
「はい、最悪仕事を見つけても、住み込みになるかもしれないと覚悟してたんですけど、その心配も無くなりました」
咄嗟に思いついた嘘だったが、我ながら完璧だと自賛していた時、後ろにいたエルバがクスッとわらった。やはりこの男、人の心をしょっちゅう覗いているらしい。
そんな悪趣味な同僚をある意味後ろ盾にして、ある人物を探した。キザな逃げ方をしてしまい、一番迷惑をかけたであろう、その人物を。
するとタイミングよく浴場から戻ってきたキサツが、目を丸くして店の前で驚いていた。
「あっ、キサツ!昨日話した通り、仕事探したんだよ。そしたらびっくり、皇鳳様とばったり会って、流れで聖職者補佐官になったんだよ!これで今日から、私も立派な職業人!!」
キサツは涙を零しそうになり、指で涙をぬぐいながら、もう片方の手で、カエデを抱きしめた。
「おかえりなさい…カエデさん」
「ヒューヒュー、お熱いね〜お二人さん!!」
茶化し上手のチャラ神が調子に乗り、カエデがチャラ神を勢い良く叩いた。その様子を見ていた人物は、一斉に笑い出し、チャラ神がまた余計な事を言い出した。
「カエデちゃ〜ん、そろそろ抱きしめられて、熱くなって来たんじゃないの〜?ほらほら、あのセリフあのセリフぅ〜」
今度ばかりは叩かず、カエデはキサツの耳元でつぶやいた。
「キサツ、顔近い」
「体も近いですよ…」
「百合かにゃ?」
シーヤンも茶化すが、キサツはそれを聞き入れなかった。それからしばらくしても、キサツはカエデを離す様子がなく、さすがに何かがおかしいと思い、ようやく解放された後、こっそりカルナに聞いてみることにした。
「カルナさん…聞きたい事があるんだけど、一ついい?」
「何ですか?仕事に支障が出ない程の短い話なら、お答えしますが」
「キサツってさ、昔何かあったとか、何か知ってる?出来れば口を滑らせないように、教えて欲しいんだけどさ」
カルナは改めて手を止め、カエデの手を取り、ついでにそばにあった台拭きを取り、遠くのテーブルを拭きに行くふりをしてカエデを店の端まで連れてきた。そこでテーブルを拭きながら、小声で答えた。
「実はキサツは店長に奴隷商人から買い取られた経験があるんです。あの子が店に来て日が浅い頃は、誰も寄せ付けようとせず一人で黙々と仕事をするような子でした。ここからは私の予想ですが、仕事仲間や友人に強い執着を見せる事から、おそらく過去に友人に裏切られた経験があるのではないか、と私は考えています。予想に過ぎないと言われれば、そこまでですが」
その言葉は、カエデにとってとても衝撃的だった。そしてカエデは悟り、誓った。これから自分がやろうとしている事は、大切な友人のような悲しい悲劇を背負う人を、一人でも少なくする重要な事、そしてキサツの前では、良き友人であり続けようと、心に決めた。
どうも、読者さん。投稿主のブックです。
かつてこの話を書いていた時のあとがきが残っていたので読み返していたのですが、この話を書いていた時はニコニコで書いていたけど、読み返してみると気持ち悪い、とか書いていました。
今の私から言えば、最初から作品自体が気持ち悪いからね!? と、突っ込みたくなります。
設定にケチをつけるのは勿論、もっと波乱万丈が起こってもいいのでは? と思ってしまいます。
でも悔しいですが、こんなとんとん拍子って読んでて楽しいんですよね、私はもっと暗い作品が好きなのですが、数年で考えも変わるもんですね。
創作で言う、気持ち悪いは誉め言葉とはこの事なのでしょうね。