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王宮の者

パルドランド王宮。それは、貴族の存在しないパルドランドにおいて、唯一の名家と呼べるパルドランドの王家が住む宮殿である。


王宮では、パルドランドの全ての政治活動が行われている。

パルドランドは王国と言っても、絶対王政ではない。任徒と呼ばれる役職が存在しており、何かの政策を行う場合、例え国王が提案した政策だとしても、任徒がそれを承諾しなければ政策は行えない。その逆もまた然りで、パルドランドは近隣国からも政治の発展した国として有名だった。


当の任徒は皇鳳と同じく、公務職であり、一般人がそれなりの勉強をすれば成れる役職。

言わば国王と、代表の王国民が政治政策を行っているのだった。


そんな場所に、エルバは向おうとしていた。近隣国の王政とは違い、何かと王国民との距離が近いパルドランド王宮だが、もちろん入るには礼服を纏い、正当な理由を事前に手紙で伝え、王宮から発行される令状を持っていなければ王宮には入れない。だがエルバに限っては、皇鳳と言う職業柄、王宮に入る事を許されている。そんな理由から、他の協力者も連れず、エルバは一人で王宮に向かう事になっている。聖堂から王宮までは徒歩では時間がかかり過ぎてしまう為、エルバは荷馬車に乗った商人に、声を掛けた。


「すみません、お願いしたい事があるのですが、いいですか?」


「えっ、こんな小汚い商人めに、何のご用でしょうか。皇鳳様」


咄嗟の事に、戸惑いつつも商人は応えた。エルバは荷馬車に荷物がそれ程乗っていない事を確認すると、言葉を続けた。


「王宮の側まで、送って頂けないでしょうか。もちろん、お礼は致します」


「お礼?い、いやぁ…そんな滅相もございません、皇鳳様のお言葉なら、お送りする程度お安いご用ですわ。さ、どうぞお乗りになってくだせぇ」


商人はそう言いつつ、馬車から降り複数の木箱をはじに寄せエルバの座る場所を作った。そしてわざわざ、おそらく商品が入っているであろう木箱を地面に置き、馬車に乗る踏み台までも作る。

これにはエルバも顔を濁らせ、片手を軽くあげ断った。


「大切な商品が汚れてしまいます、お気遣いなく」


そう言いエルバは荷馬車に乗った。商人は慌ただしく馬車に乗り、馬を紐で叩いて走らせた。レンガの道が、馬車を小刻みに揺らした。


そんな中、エルバは商人に聞いた。時間つぶしと言う奴だ。


「あなたは近頃のパルドランドについてどう思いますか?敗戦後の不景気、近頃の暴動騒動、そして王宮の対象など、商人からのご意見を頂きたいのですが」


「どうでしょうねぇ。確かに戦争に負けてからの3年間、景気ってのは悪くなる一方で、遠方の町村との貿易も苦い数字が増えて来て、良い事はなかったですわ。しかも変な暴動騒動まで始まって、とうとうこの街も終わりなんじゃねえかって思うんですよねぇ」


商人は、エルバが皇鳳と言う職の事も忘れ、本音をベラベラと喋った。本来なら皇鳳にはお世辞でも幸福であると主張し、媚びを売るのがセオリーだ。

しかし商人も、それほど思う事があるのか、言葉を止めようとはしなかった。


「その異常な悪循環、原因は何だと思いますか?」


「やっぱり、戦争じゃないですかね。パルドランドは負けて、すごい額の賠償金を要求されやしたから。王宮への献上金が増えて、もう商売なんてやってられないっすわ。実はあっし、故郷の村に戻って農家にでもなろうと思ってるんです。この荷も、知り合いの商人に押し売りしようと思っとるんです。どんな値が付くかは、あっちに任せるつもりですけどね」


商人は木箱を一つ開け、その中身をエルバに見せる。中には高級そうな食器が入っていたが、実際は値など付けられないのだろう。いくら高級なものでも、需要が無ければ売れはしない。そんな苦悩を抱えた商人に、エルバはかける言葉が無かった。

エルバが思っている以上に、商人も苦労を強いられていたのだった。


「こんな時、カエデさんがいれば少しの慰めも出来たのでしょうけど、私には出来ませんね…」


商人は意味あり気な言葉を聞くと、下を向いたまま黙ってしまった。崇拝する皇鳳ですら不景気を抑えれないと言う事実を、強く叩きつけられたような感覚だったのだろう、ひどい皮肉になってしまった言葉をエルバは後悔した。


気まずくなり、荷馬車から通り過ぎるレンガの道を眺めているその時、エルバの目に見覚えのある白く長い髪の小柄な女性が、目に止まった。


「すみません!止めてください!!」


商人は気を持ち直し、皇鳳の言葉に従った。商人は皇鳳に無礼を働き過ぎた事をようやく自覚したようで、焦って弁解をするように振り返る。しかしそこには、エルバの姿は無かった。

かわりに、数メートル離れた場所でエルバが女性に声をかけているのを目にした。その女性は、初めて見る白亜だった。


「カエデさん!」


「エルバ?どうしたのこんな所で」


「カエデさんこそ。お元気そうで何よりです、心配しましたよ」


カエデはごまかすように、指で顔を掻きながら言った。


「まあ、うん…思い詰めてても、何も変わらないかなーって思って。それでなんだけど、実は私、エーテル操作が出来るようになって」


カエデの自慢話が始まる途中、エルバはカエデの手を掴んだ。エルバにしては珍しく、力強い引きだった。


「お願いがあります、今から付いてきてください!!」


「えっ?でも今からやる事あって」


「店長さんには私からご説明しますので、お願いします!!」


実際はカエデのただの私情なのだが、エルバはそれも聞かず強引に馬車に乗るよう指示をした。カエデは戸惑いつつも、エルバに従う。


「まあ、なんか大事そうな事だからいいけど…」


エルバは荷馬車に軽々と乗り上げ、カエデは頑張って一人で荷馬車に乗り込んだ。途中、エルバが手を差し出して来たが、既に一部身を乗り上げていたので、その手は掴まなかった。

しかし足を乗せきれないカエデは、結局エルバに引っ張られ、なんとか荷馬車に乗る事が出来た。


「ふぅ、ありがとうエルバ」


「いえいえ、お安い御用です。すみません、もう大丈夫ですよ」


エルバは商人に声をかけたが、商人はしばらく唖然としていて動かなかった。人生で初めて見る白亜、最近街に現れたと言う噂は聞いていたが、まさか本当の事だとは思っていなかったらしい。エルバはその心を察し、商人の肩を叩いて言った。


「少し前、パルドランドに引っ越して来たカエデさんです。カエデさんはパルドランドの情勢に深い関心を持ち、景気の改善やパルドランドの抱える様々な問題に向き合ってくれていました。奇抜な発想で事態を解決する、まさに救世主です」


「救世主だなんてそんな。結局何も出来なかったし…」


「いえ!そんな事はございません!カエデさんの提案は、私と同じく意志を継ぐ者が現実にしようと頑張っております!カエデさんの提案した、寮も既にいくつかは稼働しておりますよ」


「本当に?よかったぁ、投げ出しちゃったけど、エルバがやっててくれたんだ」


「いえ、協力して下さる方々がいなければ、私は何も出来ませんでしたよ」


商人は、その会話を聞きつつ馬を再び走らせた。この二人が、パルドランドを救ってくれるのだろうと、心からそう思えた。

そして商人は、もう少し商売を続けようと、決意した。


「よーし、今日はお送りしたらそのまま家に帰りますわ!不景気だからって負けちゃいけねぇ、景気を言い訳にしちゃ商売なんてやってられない。あっしもブランドばかり扱う商売以外にも、いろいろ手出してみますわ!」


「いいですね、応援してますよ!」


エルバが商売に力強く言った。そこでカエデに一つの疑問が浮かぶ、馬車に乗って、一体何処に向かっているのだろうかと。


「ねえ、エルバ。今何処に行こうとしてるの?」


「ああ、言っていませんでしたね。王宮に向かっているのですよ、物資や金銭のお礼、とでも理由をつけましょう」


カエデは先程まで眺めていた一枚の新聞を思い出し、王宮がロードピープルの為に院に援助金を贈り、エルバはそれのお礼を言いに行くのだと、理解した。

予想以上にロードピープルの環境が良くなっている事を知り、カエデは喜んだ。


「じゃあ、最近ロードピープルを見ないのもエルバが頑張ってるからなんだ!よかったぁ、やっと夢が叶ったよ…」


カエデは胸に手を当て、ほっと一息吐いた。ロードピープルの為に努力をし続けていたカエデにとって、これ程嬉しい知らせは無いだろう。しかしエルバが現在抱えてる問題は、別の事だと言う事も知らずに。


「なので是非、カエデさんにも殿下や任徒の方々にもあって欲しいのです。ロードピープルを助けると言う、声を上げ始めたのはカエデさんですから」


「うん…でも、殿下は喜んでくださるかな…?」


カエデはそう言いつつ、泣いていた。エルバはカエデが涙脆いとは思っていなかったので、拍子抜けをした。カエデなら、喜ぶどころか次の事を考えていると、そう思っていたのだった。


「やっぱり、カエデさんも人間なんですね」


エルバは、そう小声で言った。ちょうどその時、荷馬車から王宮が見えはじめてくる。商人は馬を叩き、王宮の門まで走らせた。今まで以上に荷馬車が揺れ、エルバは座りながらも転げそうになった。


「あははっ、エルバ何やってるの?」


エルバは笑われたくない相手に笑われ、苦笑いをして誤魔化す。もしカエデも転げそうになった時は、思いっきり笑おうと。

そして案の定、カエデは転げ、荷馬車の横の枠に、頭を強打した。





そんなやり取りの後、荷馬車は王宮の正門の前へと辿り着いた。エルバは商人に礼をいい、馬車から降りる。


「ありがとうございます、お仕事、頑張ってください」


「へへっ、次は店で会う事を、期待してますね」


最後にそう言い、商人は馬車を走らせた。

カエデは軽く手を振り、商人を見送った後、エルバに聞いた。


「で、聞きたいんだけどさ。エルバは皇鳳だから王宮に入ってもいいだろうけど、私はどうなの?問題でしょ」


「おや、パルドランドの事も、少しは勉強したようですね。カエデさんなら大丈夫でしょう、例え勝手に王宮に入ったとしても」


「そう言うもん?あっ、ついでに王国民登録もして行こう」


「それがいいです」


門番が躊躇いなく門を開き、二人に告げる。


「ご苦労様です!皇鳳様、白亜様!!」


「ほら、大丈夫でしたよ」


「ならいいんだけどさ」


二人は門を通り、宮殿までの長い道を歩いた。熟練の庭師がいるのだろうか、両脇の庭はとても丁寧に管理されていた。

アーチ状や壁のようになっている木々からは、飛び出す枝一本たりとも見つけられなかった。

王宮の入り口の前に、大理石で出来た彫刻の掘られた噴水があり、迂回するように進むと、一人の男が立っている。服装から、身分の高い人物だと言うことは、カエデでも分かる。

その男は、二人を歓迎した。


「良くお越し下さいました、白亜様。どうぞ、中へ。エルバ様も、どうぞ」


「なんかお金持ちって感じだね」


「いえ、彼は任徒の一人です。立派な格好が出来るのは、私と同じく仕事の時だけですよ」


「そうなの?」


そう話しつつ、宮殿の中へと入る。中には豪華絢爛なホールが広がり、赤い絨毯が中央の階段まで道を作っていた。絨毯の両端には、それぞれ同じ位置に王国兵が並び、カエデを歓迎する。

その光景に圧倒されつつも、カエデは階段を上がった。


「ねえ、王国民登録…」


スケールの違いに、戸惑いつつもエルバに聞いた。しかしそれにはエルバではなく、任徒の男が、元気良く答えた。


「王国民登録をなされるのですか!そうでしたら、後程他の者に登録書を持って来させます。その際、サインを頂きますがよろしいでしょうか?」


「モジワカラナイ」


「なんと…!!?」


働かずとも生活費が貰え、正式な居住地も手に入り、他にもいい事尽くめの王国民登録を今までしていなかった理由は、ただ単にカエデが文字を書けないからだった。最近はようやく読める程度にはなって来ているが、未だ自分の名前を書く事は出来ない。その様子を見たエルバが、懐から紙と万年筆を取り出し、カエデに見せる。


「カエデさん、こう書くんですよ」


「フルネームじゃなくていいの?」


「カエデさん、苗字をお持ちなのですか?」


パルドランドでは、王家か任徒や皇鳳以外、苗字を持つ者は少ない。かつてはある一定以上の身分が無ければ苗字を持つ事が許されず、条例が変わった現在でも、その名残りが残っている。その為、苗字を持つ事が珍しいと言う状況になってしまったのだった。


「うん、クリハラ カエデって言うんだよ。本当はね」


「クリハラ…やっぱりカエデさん、ハレガントル人だったんですね」


「確かにハレガントル風の名前ではあるけどさ、故郷の事とか全然覚えてないし、別にいいかなって」


任徒の男はその会話を聞き逃さなかった。かつて戦争に敗れ、パルドランドの白亜がハレガントルに連れて行かれてしまった際、白亜人は記憶を消されると言う噂を、聞いた事があるからだった。男は真剣な眼差しでカエデを見つめ、カエデに言った。


「白亜様…お願いがございます。どうか、国王陛下に会ってください」


「えっ!?」


突然の言葉に、カエデは動揺した。しかし何かを察したエルバは、男に同調するようにカエデを仰いだ。


「いいですね!カエデさん、せっかくパルドランド王国民になるんですから、国王陛下の顔も見て下さいよ。カエデさんは、陛下の民になるのですから」


エルバに言われると、カエデは自然と動揺が止まった。任徒が何を考えているのかは分からないが、エルバの言葉なら、聞き入れられそうな気がした。

どうも、読者さん。投稿主のブックです。

今回出て来た任徒と言う人たちですが、説明のタイミングが絶妙に下手で、読み返している途中、訳が分からなくなったブックさんです。

ここら辺の構成が下手ですね、直せと言われて直せるほど、ブックさんに腕はありませんが。

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