エルバは騙せない
一つの声が聞こえる、そこは真っ暗な、何もない空間だったが、その言葉だけは、ハッキリと聞こえた。
心地よい言葉ばかりだ、都合のいい、隠れ家を用意されているかのような、そんな言葉。甘える事は簡単だった、ただその言葉を受け入れ、身を任せるだけでいい、しかしそれが、自分そのものを消してしまう事になるとは、思いにもしていなかった。
チャラ神ことエイハブは、本来の姿である、長身で到底地毛とは思えない、染上げられた金髪の、細い目をした男の姿に戻っていた。
そしてエイハブは、自分の本当の姿を誰にも認知されていない事をいい事に、何かを企んでいる。
そんな事を、王宮から事態を早急に解決せよと言う理由で送られた、支援物を整理している途中、エルバと二人っきりになった時に聞かれた。
エルバの言う通り、チャラ神は元の姿に戻っている。何かを企んでいるかまでは言わなかったが、エイハブは隠し事がバレていた時のおきまりのセリフで、誤魔化した。
「えぇ!?エルバさん、僕がカエデちゃんが持ってたマジックアイテムだって最初っから気付いてたの!?」
「ええ、あなたがユイさんと一緒に院に訪れて来た時から。私は人やマジックアイテムを魂レベルで認識する術を持っておりますので、直ぐにエイハブさんがあのエイハブさんだと言う事が分かりましたよ」
「そ、そっかぁ…バレてたなら仕方ない。でも、他の人は気付いてると思う?特に、ユイちゃんとか」
「ユイさんですか?いえ、特には。お申し付け難い意識を向けておられたのは、確かな様ですが…」
エルバは苦笑いをしながら言った。チャラ神はその言葉に深く反応し、エルバに問いただした。
「で、なんて思われてるの!僕!!」
エイハブはエルバを壁まで押し、壁にエルバが背を付けると、顔の直ぐ横に手を置いた。
それはいわゆる、壁ドンのような状態だった。
エルバは戸惑いつつも、誤魔化した。
「そ、それはご本人の意思もございますので、私の口から言うのはちょっと…」
「そんな事関係ない!結局僕の事どう思ってるのさ!!?」
臨時の支援物資の置き場と化した聖堂の空き部屋で、エイハブの声が大きく響いた。
その瞬間、ユイが空き部屋へと戻ってくる。
「エルバさん、寮で受け入れられる人数と、寮で実際に暮らすロードピープルの名簿がまとまったから見て欲しいんだけど…」
チャラ神は口をぽっかり開けたまま汗をダラダラと垂らし、エルバはその言葉に応えた。
「では、後で目を通しておきます。その木箱の上に置いておいて下さい」
にっこりと笑うエルバ、しかしユイは言われた通り名簿を木箱の上に置いた後、逃げるように荷物置き場から出て行った。
ユイが扉を開け逃げ始めた時、チャラ神は自分の弁解を始めた。
「ちっ、違うよユイちゃん!?僕は別にそう言う意味で言ったわけじゃ!!」
ユイは扉を思いっきり閉め、その音が悲しくもチャラ神の心に響き、ユイの元に駆け出していたチャラ神の動作を止めた。
やっと解放されたエルバは木箱の上に置いてある名簿を取りに行き、顎に手を当てながら独り言を言った。
「やはりロードピープルを全員受け入れるには、もう一つの空き部屋とこの荷物置き場も居住スペースにしなければならないようですね…。エイハブさん、私達も戻りましょう。もう一度、支援物資の置き場と、ロードピープルの居住地を再検討します。院に戻りますよ」
「せ、せめて誤解を解いてからでも…」
「なりません、今は時間が一秒でも惜しいです。早めに来て下さい」
エルバは一人で先に院に戻った。チャラ神はエルバが部屋を後にした数秒動作を止め、急に真っ直ぐたち直して下を向いて呟いた。
「…僕も戻ろ」
院の待合室では、数個の長椅子を利用し、プチ会議室が設けられていた。
長椅子の各場所にネームプレートが置かれており、協力者はそれぞれ、自分のネームプレートの置かれた場所に、ネームプレートを退かしてから座った。
そして、腐っても軍人であるマリリンが、会議の司会を務めた。
「皆さん、お揃いの様ですな。んん、エイハブ殿。顔色がよろしくないですぞ、どうなされました?」
「いえ…お気になさらず…」
チャラ神はそう告げ、気の抜けた片手をゆっくり上げた。
チャラ神が言葉を発したり動作を起こす毎に、隣に座るユイが少しずつ離れて行くのを、シート越しに感じていた。
しかしマリリンは、それを聞くと本当に何も気にせず、話を始めた。
「では、まずは状況整理から始めますぞ。現在、受け入れなければならないロードピープルの人数は62名、その内10名は既に市街地に設けられている、寮で生活する事が決まっておりますぞ。残り52名をどうするかが、今回の会議のテーマと言えるでしょうな」
マリリンがそう述べた後、商人や医師が手を上げた。そこでマリリンは、商人の方を指名した。
「荷物置きに使ってる空き部屋、それと似た様なのがもう一部屋あっただろ?あそこはどうなんだ?」
商人の発言に、エルバが答える。
「あの空き部屋はいくら広いと入っても、いざ居住スペースともなればそれほど大人数は住めません。12名が妥当な所でしょう。仮に支援物資を各居住地に分散し、現在荷物置きに使用している部屋を入れたとしても、24名までしか住めません」
その言葉に、医師が首を傾げた。
「やっぱりその人数になっちまうか…」
医師も空き部屋の利用を検討していたのか、エルバが話し終えると、黙り込んでしまった。
しかしその意見には、主婦である街民が反対する。
「いけませんよ!あの空き部屋の片方は、子供達の食事を作ったり、食べて貰う場所にしなきゃ!子供が一斉に食事にありつける、これも第一条件ではありませんか!!」
その言葉に、皆は再び悩まされた。しかしチャラ神には理解出来なかった。どう考えても、物置部屋の広さはたった12名しか生活出来ない部屋ではないと、思っていた。
そこでチャラ神は、一旦皆の人数計算の方法を聞いてみる事にした。
「皆さん、ちょっと気になったんだけど、人数計算ってどうやってる?僕には到底そんな少ない人数しか生活出来ない広さには見えないんだけど…」
チャラ神は立ち上がり、右へ左へ顔を向けながら聞いた。
すると予想もしていなかった言葉が、チャラ神の耳に戻って来た。
「だってそうだろう?ベッドを12個並べたら、それで終わりじゃないか。みんなもそうだろ?」
商人も立ち上がり、皆に同意を求めた。
その言葉にはチャラ神以外頷き、チャラ神がさぞ不思議な事を言い出しているかのような、混乱の顔を向けられていた。
しかしチャラ神の体内計算で言えば、部屋の広さはおおよそ縦7mの横12m、そこにベッドをどう12個並べるのかはチャラ神には分からなかったが、少なくともそれよりはるかに多い人数が生活出来る、必勝方を考え付いていた。
「皆さん、二段ベッドって知ってる?いや、知ってる訳ないよね。手っ取り早く説明すると、ベッドの上にベッドを置く。ただそれだけの事だよ」
「君、ふざけているのなら、少し黙ってくれないか?」
医師はそう言ったが、チャラ神自身は真面目その物。知恵がない事がこれ程までに悲しいのかと皮肉に思いつつ、お得意の現世知識を披露した。
「だーかーらー、家具屋さんに頼んで作ってもらうの。商人さん、あなたなら分かるよね?子供が寝る程度の二段のベッドなら、そう苦労する事なく作れるって事くらいは」
皆は一斉に商人の方を向いた。商人も、驚きを隠せない顔のまま、その言葉に答える。
「あ、ああ…木製の骨組みの上に、マットを置けば可能だ…柵を付ければ、落下も防げる…」
「ねっ?簡単でしょう?」
先程までの疑いが嘘かのように、皆は食い入るようにチャラ神の話を聞き始めた。そこでチャラ神は様々な事を、提案し出した。
「後、僕の頭の中には他の事もあってね。その名も折り畳み式テーブルに折り畳み式イス。二段ベッド二つを左右に置き、このテーブルとイス四つをセットとして考えよう。そのセットをあの部屋に入れれるだけ入れれば、総数6セット!4x6で総数24名が生活出来るって訳さ!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!その折り畳み式とやらは、どう作るか、知っているんだろうな!?」
「勿論、僕がいた国からしたら、この程度常識だよ?」
「それ程文明の進化した国があると言うのか…!!」
商人は再び驚き、床に手を付いた。
やけに勝ち誇った顔をしているチャラ神をみて、ユイは薄っすらと笑った。
その後、チャラ神は商人と共に家具職人の元へ出向き、技術提供をエサに二段ベッドと折り畳み式のテーブルやイスの発注を取り付けた。そこに発生する代金は、暴動の復旧の資金として送られた、支援金の中から支払われた。
自分の活躍にご満悦のチャラ神は、仕事の終わりがけに一人一人に肩を叩かれ、声をかけられていた。
「あんたみたいな放浪者、他の商人に取られなくて良かったよ!あんたのおかげでウチまで儲けられそうだ!!」
「その時は、ロードピープルの為の募金もよろしく!」
「あんた凄いねぇ!まさか男の人が、キッチンの事にも詳しいとは思わなかったよ!それで今度、ファミリーレストランって言う店のやり方、もう少し私に教えておくれよ」
「はいはい、その時は是非おばさんの家で、お菓子でも用意しておいてね」
「…さっき、君の事をふざけているとバカにしてすまなかった。君の知識は正しい、本当にすまなかった」
「いやいや、こんなどうでもいい知識より、命を救えるおじさんの知識の方が凄いと思うよ」
個々に返答を終えたチャラ神は、三人を見送り、院の扉を閉めた。
そこで再び、エルバやマリリン、そしてユイからも、拍手を受けた。
「やはり凄いです、さすがはエイハブさんと、絶賛させて下さい」
「私も驚きましたぞ。あれ程頭のキレる君なら、是非とも我が王国軍の策士として迎え入れたい位ですな」
「ただのホモじゃなかったのね、出来るホモ」
最後の言葉には、さすがのチャラ神も突っ込んだ。
「ホモじゃないっちゅうに!!」
そんなやり取りの中、マリリンは言った。
「折角ですし、この後食事でもいかがですかな?きっと良い酒が飲めますぞ」
しかしエルバは、その誘いをすぐに断った。
「私は遠慮します。ロードピープルの子達の事もありますし、今日も私は子供達と支援物資のパンを食べようと思います。飽きがくる頃ですが、人を助けると言う身分上、私ばかり贅沢は出来ません」
「ほうほう?さすがは皇鳳。じゃあ僕達だけで行こうか、マリリンちゃん?」
「ちゃんはよして下され!これでも立派な19ですぞ!もうすぐ婚期も来るというのに、そのような子供同然の呼び方はやめて下され!!あっ、言われてみれば、まだ管理所の方の仕事が残っておりましたな!では、私はこれにて!!」
マリリンは逃げるように院から出て行った。最近女性からやけに逃げるように部屋から去られてしまうチャラ神は、物寂しそうな声で、呟いた。
「へっ?僕、何か悪い事言った?」
「問題大有りよ。ほら、なんならエイハブは今日私と食事、それでいいでしょ?」
「いで、いでででで!ユイちゃん?耳引っ張るのは、やめて欲しいかな〜?」
「うっさい!!」
そう言い、耳を引っ張ったままユイとエイハブも院を後にした。一気に静かになった院の中で、エルバは独り言を、呟いた。
「カエデさん、今なら、協力者もたくさんいます。保護の具体例も、かなり纏まって来ました。ですから、戻って来て下さい…子供達の事を一番考えていた、あなたの姿を、今の協力者の方にも見せてあげたいのです………」
物静かになった院に、臨時の聖堂パンドに集まっていた子供が数名様子を見に来ていた。長椅子に座り、頭を伏せるようにしていたエルバに横に、その子供が座った。
エルバはその子供に気付くと、頭を撫で、再び独り言を言った。
「今一番子供達の事を考えれるのは私です…だから今は、私が頑張り続けるほかはありませんね…」
一方ユイとチャラ神は、歩きながら話していた。話の出だしは、チャラ神が荷物置き場のの事を誤解だと言い出した所からだった。
そして今、ちょうどユイが折れた所だった。
「はぁ…もういいから。はいはいあんたはホモなんかじゃない。どう、これで満足?」
「満足もなにも、元々ホモなんかじゃないからね!もう勘違いなんてしないで欲しいよ!!」
「どうだか。勘違いするような状況を作ったのはあなたなんじゃない。それで勘違いされてああだこうだ言ってるなんて、私から言わせてみれば自業自得よ」
その言葉を言われると、チャラ神は黙ってしまった。
少し言い過ぎたかと心配したユイだが、ある事を思い出し、チャラ神に聞いた。
「ねえ、そう言えばあんたお金とか持ってるの?自慢じゃないけど、私1ゲルも持ってないわよ?身なりは一応良くし続けてきたつもりだけど」
「ご安心を!カエデちゃんのお財布から少しばかり猫b………お借りしてますから!!」
ユイはチャラ神に細い目を向けた。今朝は偉そうな態度を人に向けていた癖に、自分の不都合な事があればすぐに黙ったり誤魔化したりするのかと、ユイはため息を吐いた。
「はぁ…いちおう聞いておくけど、あんたとカエデってどう言う関係なの?って言うかカエデってあれでしょ?私が蹴っ飛ばしたあいつ。あんたとあいつがどう言う関係だって言うのよ」
素朴な質問を、チャラ神に向けた。チャラ神はニヤけながら顎に手を当て、ユイに聞いた。
「仮に恋人だったとしたら…どうする?」
「妄想恋愛おつ」
「ちょっ、そんなぁ!?僕の冗談じゃん!冗談くらいスルーしてよ!!」
「キモいのよあんた。いちいち叫ぶし、幼稚だし、その割に顔は良くて背も高いのにウザいし。プラスポイントを全てマイナスアビリティで消してどうするの?」
チャラ神は通常会話でアビリティと言う単語を使う人を初めて見たが、そこはスルーしておいた。ただ単に自分のゲーム脳が反応しているだけで、そこまで問題視する点ではない。
そこでまた、ユイはチャラ神に聞いた。
「ねえ、じゃあお店はどこに行こうと思ってるの?私、ナペチリーニョが好き」
その言葉が、うかつだった。その後ユイはあの時ナペチリーニョが好きと言わなければ良かったと、酷く後悔する事になった。そう、三十分後くらいには。
「ナペチリーニョがお好み?ふっふっふ、ならねぇ…」
チャラ神は不適な笑みを浮かべ、歩き始めた。
ユイは特に気にせず、チャラ神について行った。
数分歩くと、チャラ神は見覚えのある店の前で止まった。そして自信満々に言った。
「ここです!ナペチリーニョが置いてある店なんて、ここしか知らないからね!!」
「はぁ!?あんた本気で言ってるの!?ここにはね、私がついこの前蹴っ飛ばしたカエデだって居るし、昔からの私の因縁の相手もいるのよ!?それ知ってて、わざとやってる!?」
「大丈夫だって、メガネの力は凄いんだよ〜?」
「えっ、ちょっ!!」
チャラ神はユイの手を引き、店に入った。
「すいませーん!二名なんですけどー!!」
チャラ神の声に反応し、店の裏から出て来たのはカエデだった。
しかしチャラ神が言う恋人にしては、やけに他人行儀だと、ユイは不思議に思っていた。
「いらっしゃいませ!ただいま二名様用テーブルが空いておりませんので、カウンター席でもよろしいでしょうか?」
「うんうん、全然構わないよ〜。いいよね?ユイちゃん?」
「え、ええ」
ユイはチャラ神に隠れながら答えた。
二人はカエデに案内された通りカウンター席に座り、慣れたようにチャラ神は注文した。
「んじゃあ、ビールとナペチリーニョ1つ。ユイちゃん飲み物は?」
「ほ、ホットココアで」
「ビール1つとホットココア1つ、それとナペチリーニョ1つですね?かしこまりました!ママさん、ナペ一つ入りまーす!!」
チャラ神はしっかり働くカエデの姿に見とれ、そのチャラ神をユイが叩いて呼んだ。
「ねえ、ねえ!ちょっとどう言う事!?まさか知り合いって言うのは嘘!?あんた本当にただのストーカーだったの!?」
店員に自分の姿を隠しつつ、チャラ神に聞いた。しかしチャラ神は曖昧な答えしか返さず、逆にユイの指摘を始めた。
「まあ、あっちは忘れちゃったんだと思うけどね〜。それよりユイちゃん、そこまで自分の姿を気にしなくていいと思うよ?何たってメガネは正体を隠す最大のアイテムだからね〜。その証拠に、キサツちゃーん!!」
チャラ神は唐突にキサツの名を呼び、ユイは逃げ出そうとしていた。しかし逃げようとするユイの手をしっかり掴み、一歩一歩とキサツが近付いて来る。もうダメかもしれない、ユイはそこまで思い詰めた。
しかし、キサツは平然とチャラ神と話し始めていた。
「エイハブさん、今日もいらしてくれたんですね。ありがとうございます。所で、今日はお連れさんがいるようですが、そちらの方は?」
「んふふ〜、僕の彼女〜」
その言葉だけは許せなかったユイは、思いっきりチャラ神を殴ったが、その動作のせいでキサツと目があってしまった。急いで顔を逸らすが、キサツは何も言う事なく、あくまで従業員としての対応をした。
「どうも。…やっぱり違うじゃないですか、エイハブさん。どうせお仕事仲間なんですよね?」
「ばれちゃった?あ〜ばれちゃったら仕方ないか〜」
「ご冗談は自分の事だけにしてくださいね。それでは、私はこれで」
「あっ、ちょっと待った!それで僕と同じ名前のマジックアイテム、あの後どうなった?確かこの前、急に喋らなくなったそうじゃん?」
「ああ、今シーヤンが肩に掛けてる、あれですか?」
キサツは遠くで客に料理を出しているシーヤンを指差した。シーヤンの腰には、やや小さめの革製のバッグが下げられていた。しかしそのバッグには何一つ不自然な点は無かった。
「やっぱ変化無しかぁ…ごめんね、仕事中に呼び止めちゃって。お会計の時、キサツちゃんへのチップも入れちゃおうかな?なーんて!!」
「是非そうしてください。では」
キサツはそう言い残し、仕事に戻った。ユイは一度裏に戻るキサツを見続けていたが、最後に裏に入る前に気付かれ、にっこりと笑顔を向けられた。
「これで分かった?それが今の君の姿であり、これが今の僕の姿なんだ。気にする事はない」
ユイは安心と同時に、ある事が脳裏に過ぎった。
それは初めてユイがカエデと出会った時、その腰には奇妙なマジックアイテムアイテムが下げられていた。
先程キサツに話した事も、全てユイ自身に聞かせる為に話したのだと、ユイは確信した。
そして再び、人の関係を崩してしまった自分を恨んだ。
「これが見せたかったって言うの…?あなたも、また私に謝らせようとするの!?何なのよあんたは!人の事助けてやるみたいな感じで近付いてきて、結局は自分が傷付いたからその鬱憤ばらしにここまでして!!そんなに私が憎いなら、素直に私が憎いって言いなさいよ!!あなたとカエデを突き放した私に!さぁ!!」
「ちょっ、ユイちゃん落ち着いて。別に僕たちは、君を苦しめたくてこの場に連れて来た訳じゃ…」
「達って…グルだって事筒抜けじゃない」
ユイは再び立ち上がり、数本あるいてチャラ神に言った。
「…帰る」
「えぇ!?帰るって、どこに?それに、まだご飯食べてないでしょ?」
「寮の一階、管理人室も設ける予定みたいだから、今日はそこに泊まる。…院で仕事が出来るのは確かに嬉しいけど、やっぱり私はあなたが大っ嫌い。…じゃ」
「あっ!ホットココア!ホットココアくらい飲んでってよ!!」
ユイは店から出て行ってしまった。しかしエイハブは注文したにも関わらず店から出る事は出来ず、ユイを追えなかった。寮の管理人室に泊まると言っていたからまた後で探してみよう、チャラ神は、そう思っていた。
「何やってるんだい、追いな。男だったら」
料理を持って来た、店主がチャラ神に告げた。チャラ神は、この店主なら、後日来た時に必ず今日の料金を払うように言われる気がしたが、躊躇う事も出来ず、ユイを追った。
エイハブの脳裏に、カエデに言われた言葉が過る。
「後はお前に任せる。アウターゲートの事もよろしくな」
エイハブが人の姿に戻る前、最後にカエデに言われた言葉が、早く、もっと早くと、脚を動かした。
どうも、読者さん。投稿主のブックです。
前回から冒頭に書いているものですが、あちらはカエデの心境を少しずつ書いていこうと思ったので、書き加える事にしました。
まだカエデの心境などは、詳しく書いていませんが、今後冒頭の変化にも、期待していただけると幸いです。




