名彫りのナイフ
カエデ達は、レストランについた。眠そうにしていたウーをおんぶしていると、ウーはすぐに寝てしまったが、レストランについたので揺らして起こす。
「ほら、ウーちゃん。レストラン、ついたよ」
「んー…レストラン…?」
目を擦りながらウーは答えた。しかし、どうやらレストランと言う言葉の意味を理解していなかった。
おそらく、1度もレストランと言う言葉を使った事がないのだろう。
「そう、ごはん食べる所」
「ごはん!!」
ごはん、と言う単語に過剰反応。ウーだけではなく、歩きながらうとうとしていたヴィヴィやサリッヂも、目を開いた。
「ごはん?」
「ごはんごはん」
「ごはん!!」
謎のごはんトークが始まったが、カエデは気にせず一旦ウーをおろした。そして店に入り、店の裏に通ずる開けっ放しのドアに一番近い4人席のテーブルに座り、誰か店員が来るのを待った。
話を聞いてる限りでは今日はキサツもシーヤンも非番らしく、カルナもまた、開店直後の店には、姿を現していなかった。
他の従業員を育てる為だと言う名目であろうその休みの実態には、果たして何割の意味が込め得られているのだろうと、少し意地悪な事を考えた。
するとそこに、昨夜カエデが共に働いた、ゆるふわウェーブのふわふわした風貌の女性従業員が、やってきた。
「カエデさん、その子達どうしたんですか〜?皇鳳様のお頼みで、お預かりされているんですか〜?」
顔見知り程度の仕事仲間が訪ねてきた。カエデは言葉を曇らせそうになりつつも、答えた。
「いや、実は今日保護したロードピープルの子達なんだ。えっと…テイマス、であってたよね?」
カエデは仕事中のキサツ達のやり取りをなんとか脳内再生し、その人物の名を当ててみせた。
「そうです〜テイマスです〜。でも、その子達はとても今日保護したロードピープルさんには見えないのですが、カエデさん、やっぱりそこまで人に尽くしちゃうお人好しなんですね〜」
ロードワームと答えなかった彼女に、カエデは感心した。クラスの女子っぽい連中より、はるかに親近感を感じた。
「やっぱりこのお店の人はいい人ばっかだなぁ。さっきなんて市場で、まるで今買って来た子供、みたいな話し方されたんだよ?本当酷いよね」
「そうですね〜、この街のお方は、不景気のせいかピリピリとした所がありますから〜。そう怒らないであげて下さいね〜」
「そりゃ確かに景気が良くないって話は聞くけど、正直あの市場の活気付きからは全然想像出来ないよ。まあ、とりあえず、これから何度か連れてくる事になるかもしれないから、よろしく。髪の長いこのオシャレさんがヴィヴィで、タキシードちゃんがウー。最後に恥ずかしくて顔を見れないのがサリッヂ。ほらほら、お姉さんに挨拶」
「こんばんは!!」
ヴィヴィとウーはしっかりと挨拶を言えたが、サリッヂは小声でしか言えなかった。しかし小声だろうと挨拶をしていた事には変わりなく、その声を聞いて、カエデは安心した。
「はい、こんばんはです〜。カエデさん、本当に良いお洋服をお選びになったんですね〜。本当は、どこかの家から誘拐してきたんじゃないかと、疑っちゃうくらいです〜」
「違う違う。とりあえず、人数分のホットミルクとナペ1つ。あっ、量は普通の1人前くらいでいいから」
カエデが指を立てて、忠告した。美味しい夕食に囲まれるのは幸せだが、料理を残すのはこりごりだった。
「かしこまりました〜、ナペ1つはいりま〜す」
テイマスは裏に戻り、カエデは改めて今後の事を考えた。
今日、他のロードピープルの姿を見た時よりも、カエデの思う年齢には程遠かった。ほとんどのロードピープルが4〜7歳くらいで、それ以上の年齢の子供は、何故か見なかった。
そしてもし仮に、明日本格的に学校の準備を進めるとする、しかしそこに集まるのは4歳から7歳の子供ばかり。
カエデは、仕事を教えるにはまだ若すぎると思っていた。
そんな悩むカエデを差し置き、子供達はテーブルの上に手を出し、じゃれ合いを始めた。テーブルのサイズから、到底お互いの手がとどくはずもなく、またテーブルを動かす程の力が子供達に見られなかったので、じゃれ合いは見過ごす事にした。
もしテーブルをガタガタと動かしてしまうような事があれば、少々説教をしようと思っていたのだが、安心した。
しかし、そんなカエデの事も無視して、チャラ神は子供達を怒った。
「ここは食事をする場所なんだから、遊んじゃダメ!!もしテーブルに料理が乗ってて、落としちゃったりしちゃったらどうする?勿体無いよね?」
それは優しくも、正しい説教だった。子供達は手を止め、すっかり黙ってしまった。
そのチャラ神の様子を見て、甘やかし過ぎるのも良くないと、カエデは反省した。
しかしチャラ神は、そのカエデの気持ちも、考慮していた。
「カエデくん、怒るのは僕が役目を引き受けるから、カエデくんはしっかり愛情を注いであげてよ。って言っても、カエデくんにはそれが出来ないから、勝手に変わりを引き受けてるだけなんだけどね」
「…悪い、エイハブ。助かる」
そんなやり取りの中、テイマスがホットミルクを持ち、会話に参加してきた。
「ですが、レストランは楽しく談話をする場所ですよ〜?おしゃべりくらいは、いいんじゃないですか〜?」
その言葉を聞き、子供達はカエデに様々な事を聞き始めた。それは今朝の質問責めに何処と無く似ていて、カエデはごまかすように片手でホットミルクを飲んだ。
「あっつ!」
想像以上に熱かったホットミルクをテーブルに置き直し、舌を冷ましていると、テイマスが付け上がった。
「お姉さんなら、熱いのくらい平気で飲めるんですよね〜?」
「いやでもさすがに限度ってものが!?」
そこまでアツアツには見えないが、猫舌のカエデには辛い物があった。カエデの言うホットミルクは、ぬるいミルクくらいがちょうどいいのだ。
潔く両手で少しずつちびちびと飲む。その様子を子供達が真似をし、カエデは恥ずかしさに押し潰されそうになった。
「あっ、そうだテイマス。すこしママさんに聞きたい事があるんだけど、呼んできて貰えない?」
「ママさんですか〜?わかりました〜」
テイマスは再び裏へと戻り、代わりに数秒後、ナペチリーニョを持った店主が、カエデの座るテーブルにやって来た。
「ほーら、おばさん特製のナペチリーニョさ。たーんと食べておくれ」
注文した通りくらいの量のナペチリーニョが乗った皿を、やや子供達側に寄せて店主は置いた。そして、カエデに聞く。
「で、なんだい。バイトの話なら、明日の6時から入ってもらうよ」
「いえ、そうじゃないんです。この子達の事なんですが、今日、私の部屋に泊めてあげてもいいですか?今日保護したばかりで、寮の準備もまだ出来てなくて。今日だけでいいので、お願い出来ませんか?」
店主はすこし困った顔をしていた。店主としては、構わないと思っているのだが、店としては、従業員の連れだからといい、易々とタダで泊める訳にはいかない。
そんな頭を掻く店主に、カエデは付け足した。
「お願いします、3人分の料金を払っても構いません。今日だけでいいんです」
「はぁ…あたしの負けだよカエデ。構わないよ、ただし、明日からは本当に料金取るからね」
「っありがとうございます!」
店主はそれだけを言い残し、店の裏側へと戻っていった。
食事はワイワイと続き、カルナが店に出始めた所で、カエデは会計を済ませた。
その会計を、カルナが担当した。
「その子達が、例の保護をした子供ですか?随分と身なりを整えましたね」
「うん。そうじゃないと、街の人たちはみんな嫌な顔をするから。彼女達も、コンプレックスを刺激されるのは、嫌だろうと思って」
「そうですか。ですが、今日奇妙な噂を耳にしたのですが、カエデは大丈夫でしたか?どうやら路地裏で、白亜とロードピープルが揉め事をしている、との噂があったのですが」
「あー…それ、多分私かな。同い年くらいなのかなー、やけに大人のロードピープル、あれは放浪者の部類なのかな?まあ、同年代くらいの人とちょっといざこざがあったんだよ」
「聞き覚えがありますね。何も、自分の身を案じて他のロードピープルを囮にする、そんな人物と伺っております。実際、私が見たと言う事ではございませんが」
「そう!それで偶々だったんだよ。その人がこの子達に私の所に行くように指示したらしく、最初はすごい怯えられてたんだ。あの茶髪女、いつか絶対取っちめてやる」
「茶色の髪?それは本当ですか?」
「えっ?本当、だけど」
やけに食いつきのいいカルナは、エプロンを外し、たたんでカウンターの下棚に置いた。そして裏にいる店主に、言葉を向けた。
「すみません、店長。すこしカエデさんの連れて来た子達の面倒を見る事にしたので、すこし離れます。もう少し客が増えて来たら呼んでください」
「分かった、ほらあんたら!今日はカルナがいないと思って精一杯働きな!いっつもカルナに頼ってるその根性、今日という今日こそは叩き直してやるんだからね!!」
店主の怒鳴り声はカエデの耳にも聞こえた。カルナは店主にも頼られ、本当にいいバイトリーダーなんだなと、再び感心していた。
「ではカエデさん、すこし場を変えましょう。カエデさんのお部屋でよろしいですか?」
「うん、構わないよ」
「お姉ちゃんのお部屋?」
「そうそう。今度はシャワーもしっかりお湯でるし、シャンプーとかもあるから今度はしっかり体を洗いなよ?さっぱりするから!」
「うん!!」
階段を上がり、一行はカエデの部屋に入った。
子供達は休む間も無くシャワールームに突撃し、閉めたドアからも、楽しそうな声が漏れて来た。
その間に話を済ませようと、カルナはテーブルの椅子に腰をかけ、カエデはベッドに座った。
「まず何から話しましょうか。少々混み合った話になると思うので、少々の心構えはしておいてください。まずは、茶色髪の人の話からしましょう」
「うん、分かった。じゃあまず私から、何か追加の情報とか、言った方がいい?」
「ええ、出来ればそうしてください。その一部始終をみていたエイハブさんも、お願いします」
「えっ、僕?」
カエデの横に置かれた、雷親父立候補バッグは戸惑った。その流れて、チャラ神も話を始めた。
「そうだなぁ…まず最初の状況としては、誰でも入れる建物の中に、その人が居たんだよね。でもその建物は院の物で、それを告げたらあっさり出て行こうとしたんだよね?」
「そうそう、それでそいつ口ぶりから歌路地のボスっぽかったんだよ!他の奴にも使わないよう言っておくって!」
「そのカエデさんと年の近い茶色髪の女性は、ロードピープルの頭のようだったんですね?」
「うん。でもそもそも話した事はそう言う事じゃなかったから、止めたんだよ。でもその人、何と勘違いしたのか、突然身売りがどうとか人数を集めるとか、そう言いだしたんだよね」
「身売りをするつもりなら、子分を集めるので自分は勘弁してほしい、そう言う事ですか?」
「そうだったよね?カエデちゃん」
「うん、そんな感じ。でも私達は奴隷業者じゃなくて、院でロードピープルを保護活動をする人だって言ったんだけど、ね」
「カエデちゃん、それで投げ飛ばされてどっかに逃げられちゃったんだよ!!」
「そう!それで腰を強打して、すこし休んでいた所あの子達が来た。だから私達が保護をした、と。その後は、あの子達を街民と同じくらいの立場にしようと、必死だったかな」
「その心配なら、少なくともこのレストランに来ているお客さんはロードピープルとは思っていなかったようですよ。テイマスも言っていました、たった1日で、これ程変化をさせられるカエデさんは天才だと。同時に、ひどい出費をしたのではと、心配もしておりました」
「うっ…確かにいまのあの子達の身なりは服装頼りな事はあるけどさ…」
「でも、納得出来ました。おそらくその茶色髪の女性は、私の知っている人物と同一人物です」
カエデは立ち上がり、テーブルに手を乗せカルナに言い寄った。
「それ、本当!?何か知ってるの!?」
カエデの質問に答えたカルナは、とても淡々としていた。
しかし、その内容は、とても暗い、井戸の底のような話だった。
「以前、キサツが店長自身が買ってきた子だと言うのは、お話しましたね?そして、店に来た当時は誰も寄せ付けようとはしなかったとも」
「ああ、聞いたけど、なんで今その話が…?」
「これはキサツが私に、初めて心を打ち明けてくれた時の事です。自分はかつてロードワームだったが、一人の友人と一緒にいれたから幸せだったと。そして自分が売りに出されたのは、その友人の手によった物だったとも。その友人は、キサツの年の一つ下の茶色髪の女の子だったそうです。親っていた人物に売られ、誰も信じられなくなっていたと」
「それって…」
「そしてその時キサツは、初めてのお給料で買った物を見せてくれました。持ち手に名前の刻まれたカランビットナイフです。その刻まれた名前の主を殺す為の物と、キサツは言っていました。しかし4年も昔の事ですから、今はどうしているかわかりませんが」
カエデは、キサツと買い物に行った日の事を思い出した。護身用に、とすこしだけ見せてくれたカランビットナイフ。その時テューカに夢中で気にもしなかったが、その物を取り出す手付きが、妙に慣れていたと言う事も。
「…ひとつ聞きたいんだけどさ、この街って、女性が武器を携帯する程、治安の悪い街なの?」
「いえ、一般的にダンジョンと呼ばれる、自然の広がる場所とはかなり離れた内陸ですから。冒険者が少ないと言う事から、治安はさほど悪くありません。護身用に何かを携帯する方が、珍しいとは思います」
「…そっか」
カエデは確信した。その茶色髪の女性は、数年前にキサツを裏切ったばかりか、未だ同じような事を続けている。その確かな証拠が、ヴィヴィ達、保護された子供達だ。
カエデは初めて、パルドランドで怒りを覚えた。
「お姉ちゃん、タオルー!!」
その場にタイミングよく子供達が出て来た。ずぶ濡れの体でカエデに飛び付き、カエデは困り果てるも、準備して置いたタオルで飛びついて来たウーを拭いた。
「もー、お姉さん服着てるんだよ?おまけにここベッド、濡らしちゃダメでしょ」
「えへへ〜、ごめんなさいっ」
釣られてカエデも笑顔になり、カルナもタオルを1枚取り、ヴィヴィやサリッヂの体を拭いた。
「後で宿に備え付けてあるパジャマを持ってきます、今日はこの子達にそれを着せて寝かせてください」
「ごめんカルナ。ほらみんな、カルナお姉さんにありがとは?」
「ありがとー!」
カルナはうっすらと笑い、2人を拭き終えると部屋を後にした。そしてすぐに、子供用のパジャマを持って戻ってくる。
「こんな物しかございませんが」
柄が何となくピエロっぽいそのパジャマを、一人一人に渡した。それに着替えると、子供達はベッドに飛び乗り遊び始めた。
「では、私はそろそろ仕事に戻ります。カエデさんも、今日は疲れがあるでしょうし、早めに寝てください。それでは、これで」
「あっ、いろいろありがとうございました!!」
カルナは、部屋を後にした。
階段を降りる音が少しずつ小さくなり、それと同時にため息をついた。
「…ふう、じゃあ俺もシャワー浴びてもう寝ようかな。チャラ神、悪いけど、すこし子供達の様子を見ててくれ」
「はいは〜い」
チャラ神に子供達を任せ、カエデはシャワーを浴びた。そしてシャワーを浴び終え、自分もパジャマに着替えた頃には、もう既に、みな眠っていた。
「…寝ちゃったか」
「うん、カエデくんがシャワーに入って、本当にすぐ。疲れてたんだろうね」
「でも疲れてるかたって言っても、そのまま倒れるように寝なくても…風邪引くぞ?」
そう言い、カエデはすこしばかりウーやヴィヴィの位置を変えたが、多少持ち上げても、全く目を覚ます気配が無かった。
「本当だ、相当疲れてたんだな。この様子じゃ」
しかし今更のようにある事に気付く。自分の寝る場所が無い。小さなベッドの中央に堂々と3人とも寝かし付けてしまった状態では、自分の入る場所が無い。かといってまた動かすというのは、起こしてしまうかもしれないので、やめておいた。
「仕方ない…」
カエデは椅子に座り、テーブルに体を倒した。学校でよくやっていた、カエデの必殺技だ。
「風邪ひかないでよ?」
チャラ神が心配してそう告げたが、その時にはカエデも眠りに落ちていた。
「やれやれ…」
チャラ神はそうとだけつぶやき、眠る4人の顔を、遠くながら眺めていた。
どうも、読者さん。投稿主のブックです。
前回ロリコンではないと言いましたが、少しばかり追記を。
私はロリコンではありませんが、慕ってくれる存在はかなり好きです。ワンコとか、もう最高です。
ですので子供が慕ってくれているなら、間違いなく私はデレデレします。
だからブックさんはロリコンでは無いのです!!




