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爆ぜる戦闘員K 作者:ゆぞぅ
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 病院で検査を受けたあと、二人して真っ暗な家に帰った。
 紗穂里はレストランに電話を入れ、風呂の準備をし、晩ご飯を作った。弟の手前、気丈にふるまっていた紗穂里だったが、二人で食卓につくころには、(せき)をきったように涙をあふれさせた。自分の誕生日が今日じゃなければよかったのに……と何度も繰り返すのだ。
 姉ちゃんのせいじゃない、ぐらいのことも言えず、洸太郎は黙ってぐじぐじと泣いた。これからのことなんて考えられなかった――。

 その日から五日が経ち、
 ジルバ財団と国家安全部の合同捜査が、一つの区切りをむかえた。
 現時点で負傷者の数は八十二名。死亡者は身元が確認されている者だけで二十六名にも及ぶ。その数にゾンタ教団側の者を加えないというのが、報道機関の通例である。
 昼のワイドショ―でも、この惨状は連日伝えられている。本日のスタジオのモニターには、道路などの修復作業の様子が映っている。
 額の広くなりすぎたアナリストは、女性ばかりを狙っていたという目撃証言から、独自の考察を述べている。そして、戦闘が起こった場面での避難行動に、さらなる迅速化を呼びかけて、しめくくった。
 街の声としてインタビューに応じた人は「またか」「怖いわよねぇ」ていどにとどまっていた。当事者になるか、よほど近隣で起こった事件でもないかぎり、みな実感がわかないのだろう。

 メインキャスターの呼びかけで中継画面が切り替わり、合同葬儀の模様が映し出された。
 モザイク処理をほどこされたその画面のなかで、紗穂里と洸太郎は親族席にいた。二人とも学校の制服を着てうつむいている。ほかにもちらほらと学生服を着た参列者がうかがえた。紗穂里たちと同じような境遇にある子は少なくない。
 テレビでは放送されなかったが、犠牲者のほとんどはジルバーカノンの凄まじい威力で蒸発していたらしい。
 遺体のない葬儀。遺骨のない帰宅。火葬場へいくこともない。霊柩車は一台も見当たらない。

「ジルバレンジャーの対応はどうでしたか? 街中での破壊兵器使用についてはどう思いますか?」
 そとで待ちかまえていたレポーターが、特設斎場から出てくる遺族に群がる。
「ねぇキミ、悲しいよね。ゾンタ教団になにか言ってやりことがあるよね?」
 洸太郎はそれに無視をきめこんだ。子供だと思ってなめているのか、肩に手をかけてくる人もいたが、揺すってはずした。
「ご愁傷様です。ひと言もらえないですかね。亡くなられたのは、お父さん? お母さん?」
 とにかくまっすぐに歩いていった。帰る方角はこの際どうでもよかった。
 だが、紗穂里のほうが、顔の前に複数のマイクをつき出されてとまってしまった。普段はポンポンと口をついて出る小言も、今やすっかり鳴りをひそめ、(しお)れた百合のようにうつむいている。
 ハァ。「なに、ボケっとしてんだよ」
 しかたなく思い、洸太郎が戻ろうとしたとき、レポーターの輪から紗穂里を救いだしたのは、恵三(けいぞう)叔父さんだった。父、圭一郎の弟にあたる人だ。紗穂里の肩をだき、ぐいぐいとひっぱってくる。

「ほら、洸太郎くん。紗穂里ちゃんと一緒に、先に帰っていてくれよ。あとのことは、ぼくがやっとくから」
「あ、うん。――姉ちゃん、早く家に帰ろう」
 紗穂里の反応は極々薄いが、目があうとうなずいてみせた。

 恵三は、昨夜から柏原家に泊まっている。
 母方に近しい親族はいない。たしか父に弟が一人いたはずだ、と洸太郎が以前きいたことを思い出し、アナログの電話帳をめくったのだ。そのなかに、柏原、と同じ苗字があったので、紗穂里に確認してもらって連絡をとったしだいだ。

 この叔父にはお年玉をもらった記憶もなく、どこ住み? どころか、名前もこのときにはじめて知った。
 紗穂里によると、父とは昔から折り合いが悪かったらしく、姉が生まれる前から疎遠になっているそうだ。しかし、そこは兄弟。ちょっと調べてわかったのなら、呼ばないわけにもいかない。
 ふさぎこんでいる姉と、家で二人きりという状態に堪えかねるというのが、正直なところだった。最後に父と視線をかわしたとき、お姉ちゃんを頼んだぞ、と言われたような気がしている。しかし、なにをどうしていいのかがわからない。
 健常なときの姉は、叩くはわめくは自分の屁を嗅いで笑う。すぐ怒るが生来あかるい性格なのだ。外面(そとづら)だけはお(しと)やかな姉のこと、他人がくれば無理にでも復活するはずだ。

 そうしてやって来た恵三は、父とはあまり似ていなかった。
 背は高いなと思ったが、父ほどではない。ぶよっとしていて全体的に丸い印象をうけた。玄関から入ってきた瞬間に眼鏡のレンズがくもり、上り口で蹴つまずいて転んだ。ちょっとおもしろい人だ、と洸太郎は思った――。


 帰宅して着替えをすませた二人は、ひと言も話さないでダイニングテーブルについていた。
 紗穂里はキッチンやリビングに目をむけて、両親の幻を懐かしんでいるようだった。こらえ性のない洸太郎が、おずおずと口を開いた。
「なぁ、姉ちゃんメシどうする?」
 ややあって紗穂里がやっと洸太郎の顔をみた。両手で自分の頬をバシッとはさんで言った。
「うん、ご飯にしよう」立ちあがった。
 少しうれしかった。お米を研ぐぐらいは自分にもできるので、やろうと思った。紗穂里がしばらくなにもしようとしなかったので、この三日くらいのあいだで、やるようになったのだ。

「洸太、叔父さんが帰ってきたら、まずお風呂に入ってもらおうと思ってるんだけど、ここはいいから、あんたはお風呂の準備してよ」
 風呂にかぎらず掃除全般に気のりがしない。部屋の片づけも母親にがみがみと言われてからやるタイプだった。
「叔父さん、着替えは持ってきてんのかなぁ?」小さな抵抗をみせた。「まぁ父ちゃんのを着てもらえばいいか……」
「それはダメ!」
 洸太郎が驚いてキッチンに目をやった。一瞬だけ目があったが、紗穂里のほうが流しに向きなおった。
「どうみたって、お父さんと叔父さんとじゃサイズが合わないんじゃない?」
「それもそうか」じゃぁどうすんの?
 洸太郎はしぶしぶ風呂へむかった。
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