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爆ぜる戦闘員K 作者:ゆぞぅ
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「あぁ腹へった……」
「もう、洸太はそればっかりなんだから。さっきもなにか買ってもらって食べてたくせに」

 少し前をゆく姉弟に、母の紗希子(さきこ)が微笑んでついていく。
「洸ちゃんてば、いつのまにかお姉ちゃんと同じくらいになっているのよね」
 隣を歩く夫の恵一郎(けいいちろう)は腕時計をちらちらと気にしていた。
「そうだな」
――身長の話だってこと、ちゃんとわかって返事しているのかしら?

 三月に入り、街の空気は日に日に和らいできている。ほんの二週間前とはうってかわって、人の波がずいぶんと穏やかだった。やわらかな街灯のもと、家族四人がいっしょに歩いていることに、紗希子は感動すらおぼえていた。
 柏原(かしはら)家の大黒柱は、誰もが知っているような会社の広報部長で毎日忙しい。夫が家族のために遅くまで働いてくれることには感謝しているし、収入だって申しぶんない。唯一の不満といえば、四人がそろって食卓を囲めないこと。いつも夫だけが欠けていること。紗希子は結婚する前から、一家団欒(だんらん)というものに明確なビジョンをもっていた。
 それで一計を案じ、紗穂里(さほり)の十四歳の誕生日にかこつけて、誰にも相談しないで展望台レストランを予約した。たまの休みはずっと家でごろごろしている夫を引っぱり出すには、こうでもしないと無理なのだ。

 夫は契約という言葉に敏感なだけあって「だってもう、テーブル予約しちゃいましたもの」は効果があった。
 それでも家を出たときには不機嫌なようすをみせていたが、紗穂里が自分へのプレゼントを選んでいる姿をながめているうちに、やっと直っていったようだった。今さらながら、父親なんだと思い出したのだろうか。
 そのデパート内で、洸太郎がふらりといなくなるというハプニングがあって、レストランを予約した時間まであまり余裕がない。

「急いだほうがいいな」また圭一郎は腕時計に目をやる。
 現実に引きもどされた紗希子は、夫の腕をとって言った。
「少しくらい、いいじゃないですか」
 妻よりひと回り年上の圭一郎は「よさないか。子供たちの前だぞ」
 子供らの前だから? だからなんだと?
 そのへんに考え方の違いがある。これが世代間ギャップといわれるものなのか、ただ、圭一郎がそういう性格なのか。――そのどちらでもあると理解しているので、なごり惜しそうにしながらも、紗希子は甘えた腕を離した。
 今夜は気まずい雰囲気をつくってはならない。このままで――。いつもより贅沢な食事を家族四人で囲み、とりとめのない話に笑いあうのだ。

「お姉ちゃん、洸ちゃん、ちょっと急ぎましょうよ」
 二人が歩きながらふり向いた。紗穂里はうなずいたが、洸太郎が立ちどまった。
「なんか、揺れてない?」洸太郎は小首をかしげて足元を気にしている。
 すぐ脇の車道を大きな車が通れば、揺れくらいは感じるものだが。

「どうしたの、洸ちゃん」
 静かにと言えば騒ぐ。急げと言えばとまる。お姉ちゃんはしっかりしているほうなのに、どうして洸太郎はこうなのだ。
 それを夫に相談すると「男の子はそれぐらいほうがいいじゃないか」と、少しズレた返答をする。まったく会話のない夫婦もいるらしいから、それよりはマシかと思うようにしているのだが、まともに取りあってくれないのは、やはり腹がたつ。
――学校からの呼び出しに応じて、毎度毎度、頭を下げているのは私なんですけどね!
 ふつふつと不満を沸きたたせながらも歩みをとめてみると、あら、ほんと……。

 それは四人が共有するものになる。
「なにこれ?」紗穂里が不安気に父の腕をつかんだ。
 四人はあたりを見まわした……が、これといって周囲に反応はない。
 道路工事? 地震? 紗希子はそのどれとも違うと思った。

「おかしい。ここから離れよう」と言ったのは、圭一郎のほうが早かった。夫の焦った顔を見るのは、洸太郎の出産のとき以来だったかもしれない。
 移動しはじめると、すぐに地鳴りがした。もはや疑う余地はない。今度はほかの通行人の反応をみるまでもなかった。

 なにかが近づいてくる!

 それはいっきに立っていられないほどになった。同時に方々で悲鳴があがった。タイヤが鳴く音についで接触事故があいつぐ。ゆるやかに暮れていった街は、(せわ)しい夜に様変わりした。
 ぐちゃぐちゃになっている車列をさらに掻きまわすように、アスファルトの一部が盛りあがった。突き出てきたのは、巨大なドリルだった。
 誰かが叫んだ。「ゾンタ教団だ!」
 ゾンタ教団の名が通行人の口から口へと伝播していく。

 近くにいた車を、キャタピラが踏みつけて破壊した。地中車両が全貌をあらわにした。
 その地中車両の後ろ扉から、戦闘員が続々と降りてきている。黒地で縦に朱のラインが二本入ったコスチュームは教団の証だ。途中、地中の穴からはじき飛ばされるようにして出てきたのは、異様な姿をした改造人間だった。全身のいたるところに、三角定規のような突起物がある。頭部も三角だ。

 圭一郎が指さして叫んだ。
「紗穂、洸太、あっちへ走れ!」
 紗穂里と洸太郎は群衆の一部となって走り出すも、押され、つんのめって転んだ。洸太郎はすぐに立ちあがったが、紗穂里がそのまま丸まってしまって、悲鳴をあげながら両手で頭をかかえた。
 圭一郎が、ぐいっと紗穂里の腕をつかんで引きおこした。そして洸太郎に真剣なまなざしを送った。
「洸太、いけるか」
 初めて見るような父の表情に、力強くうなずき「姉ちゃん!」と声をかけて手を引っぱった。
 なんとも足元がおぼつかない紗穂里がまた転びそうになる。
「なにやってんだ姉ちゃん!」とふりかえって、あげた目に飛びこんできたのは、父の後方で、母が戦闘員に口をふさがれ、引きずられていく光景だった。
「うわー母ちゃんっ!」

 その声に、圭一郎はハッとなってふりかえった。そして、噴火するように怒り、なにか叫びながら戦闘員へ突進していった。
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