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2.

「ちょっとお台所を借りるわね。あ、朝ごはん、私が作りますから」

 朔子は玄関から上がると、遠慮なくすたすたと奥へ進んでいく。勝手知ったる家なので当然とも言える。

「……あ、はあ」

 茂雄は曖昧に返事をした。

 朔子は茂雄の母親が亡くなってから、朝食を作ってくれるようになった。

 考えてみれば、毎日。一日たりとも欠かしたことがなかった。

 朔子が朝食を作ってくれている間に、茂雄は出勤のための身支度を整える。

「茂雄ちゃん、出来ましたよ」

 台所から朔子が顔を出す。今日は卵焼きと炊き立てのご飯に味噌汁。朔子が持参した漬物。バリエーションはそう豊富ではない。卵焼きが焼き魚に変わったり、時には洋風にハムエッグに変わったり、納豆が添えられる程度だ。

「いただきます」

 両手を合わせて食事を始める挨拶をすることは、母親に習った。朔子は自分では箸をつけることはせず、ただ穏やかに微笑みながら茂雄が食べる姿を見ている。

 時折今日の仕事に関する質問を差し挟んだりもするが、基本的に茂雄は静かに食事を終える。

「都ちゃんは、だいぶお仕事に慣れた?」

「はい……彼女は、とても有能です。何より、真面目です」

「それはよかった」

 朔子は先刻承知、とでも言うように余裕の笑みを見せる。

「広夢くんは無事に神主さんになれるのかしら?」

「ええ、講習を終えたそうですから、あとは承認状を発行してもらうのだそうです。彼はもともと家が神社ですから、そのあたりは大丈夫でしょう」

 朔子はこくりと頷く。

「都さんと同じく、広夢さんも真面目な子ですので僕は心配していません」

 茂雄は言いながら、何故こうも無愛想な言い方になってしまうのかと自己分析していた。どんなに心を込めたつもりでも、口に出してみるとひどく平板な印象になる。

 しかしそれについて、朔子に咎められたことはなかった。

「そうね……」

 答えた朔子は、何か考えているような眼差しだった。

 朔子の横顔を見つめていた茂雄は、ふと我に返って柱時計に視線を移す。

「そろそろ時間だ。ご馳走様でした」

 再び両手を合わせると、茂雄は立ち上がった。

──まるで食事のたびごとに、祈りを捧げているようだ。

 茂雄は流し台に使った食器を下げると、朔子に詫びながら急いで玄関を出た。食器は帰ってくるといつも綺麗に洗われていた。

 出勤先の「ミノワ不動産」までは自家用車を運転していく。

 茂雄は運転が嫌いではなかった。

 職業柄、お客を店の車に乗せて物件を巡ることが多かったが、その道中ですらも、運転を楽しんでいる節があった。

 正確に部位を動かせば、車の動作がそれに応じる。一連の規則正しい仕組みが茂雄は好きだった。運転している間は、他の思考が入り込む隙がない。その事実が茂雄の心を和ませるのだ。


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