表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/26

プロローグ


赤いトタン屋根と緑色に塗られた外壁は、ずいぶん前から経年変化でくすんだ色合いになっていた。少女は古びた洋館の軒先に立ち、壁を撫でていた。華奢な少女の手が壁に触れるたびに、家も少女に寄り添うように呼吸をし始める。

 壁の色は薄汚れたようになっていたが、少女は壁を塗り直すつもりはなかった。

「アメリカンカントリー風」などと評され、その趣味を持つ人に稀に好まれることもあったのだ。だから少女はこのくすんだ緑色を家の持ち味だと思うようにしていた。

 この家が建てられた一九六〇年頃には洋風建築は大変モダンだとされていたが、洋館の周囲はどんどん開発され、瞬く間に新興住宅地になり、洋館だけが時代に取り残されてしまった。

 さほど広くはない庭には、オリーブの樹とワイルドに枝が伸び放題のミモザが植えられている。

少女はこの庭の手入れを日課としている。二、三日放っておくだけで伸びてくる雑草を摘み取り、ミモザに水をやる。十五、六歳ほどにしか見えない少女が日焼けも厭わずに夕方まで庭仕事をし、オリーブの木陰で一休みする。

──このオリーブの樹にハンモックを吊るしていた住人さんもいたなあ。

 空に向かって伸びをしながら、少女は懐かしく思い返していた。


あまり知られてはいないが、家には家霊かれいと呼ばれる一種の精霊が宿るものもある。古い家ほど家霊が宿る傾向が高く、ふらふらと古い家の周りを散歩すると家霊に出くわすことが多かった。その際には失礼のないようにお互いに丁重に挨拶を交わすが、それだけですうっと空気に溶け込むようにすれ違う。たまに気の合う家霊が見つかれば、双方の家を行き来した。

 少女はこの古い洋館に宿るやや落ちこぼれ気味の家霊なのだ。


「この頃借り手がつかなくてね」

少女は家霊仲間と立ち話をしながらため息をつく。顎のあたりで切り揃えられた艶やかな黒髪の少女はしかし、口を開けばどことなくおばさんくさい。

「うちもよぉ」

手招きのような仕草で返すのは、ふっくらとした体型の中年女性だったが、少女とはうまが合うのかしょっちゅう話をしにやってくる。彼女は日本の田舎風の、古民家に宿る家霊だった。

「徳を積みたくたって、積めないわよね」

「ほんといやんなっちゃう」

二人は事あるごとに「世知辛い世の中」「若者の古民家離れ」などと年寄りらしい会話を交わし、お互いの身の上を嘆くのだが、不思議とどこかほんわかしているのだった。

「思い切った値下げが必要かもね」

友人の家霊と別れた少女は、玄関先の靴ぬぎ石に腰を下ろして先程の会話を思い出していた。

──値下げかあ。

「それも仕方ないのかな」と少女は呟き、夕闇に包まれてきた空を見上げた。

そのときふと人影が近づいてきたのに気付き、少女は息を潜めた。

新しい住人との出会いに胸を高鳴らせながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ