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あおい歳月  作者: 福永護
第一話「神様も知らない」
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01.あおいとみさき

 つまらない自分語りになるのかもしれない。だけど、けれど私はそれを語ることでしかこの絶望に近い感情に打ち勝つ事が出来なかった。あの子はこの事を責めるだろうか。もし、あの物語のキャラクターのように未来を読み取る事ができたら、過去へ連絡する手段があれば、この顛末はまた違うものになっただろうか。いや、それはない。世の中というのは上手く出来ているもので、私がその事象を観測した時点でいくら過去を変えようとその結末は変わらない。変わるということはそれを知る人物が誰も居なくなるということだ。私にはその度胸も力も無い。悲しいけど、この自分語りはただの妄想だ。

 



「ねぇ」

「なに?」

「あおは将来の事どう考えてる?」

「なに、急に真面目な事言って」

「いーから!」

「まだぼんやりかなぁ十五歳って中途半端だよね。大人なんだか子供なんだか…。バイトはできるから責任は伴われる。でも周りは子供扱いしてくる。そりゃ反抗したくもなる」

 わたしはいつもこうやって彼女の質問をはぐらかす。彼女はそれを聞いて少し不思議そうな顔をする。いわいる言葉遊びだ。だが今回は少し違った。

「違う、もうちょっとちゃんと考えて」

 真面目な顔で私に詰め寄る。これまであまり見ない表情に少し頭をひねることにした。

「…分からない。っていうのが本音かな。今はこうやって本を読んでそれなりに授業を受けて学生生活をおくっている。その鞘に収まってるだけで十分に感じちゃう。甘えかもしれないけど、私は本を読みながらまだ将来を模索してるんだと思う」

 精一杯だった。夢と言っても本に関わる仕事がしたいとぼんやり思う程度で、そのことに関しては彼女と何度も話した。それでもなお聞くということはそれ以外の答えが欲しいということだろう。

「そっか…あおにも分からないことがあるんだね…」

「そりゃ神様じゃあるまいし」

「神様は…何でも知ってるのかな…」

 普段は明るい彼女が見せた珍しい表情ばかりが記憶に残っていて、私はこの言葉の意味を考えようとしなかった。これが秋の長休み、言わいるシルバーウィークでの出来事だった。



 それから半年後、春休みも終わろうとしているある日。私こと、白坂葵が友人だと呼べる数少ない相手である東条美咲の訃報を聞くことになった。死因は頭を強打したことによる脳挫傷。現場は彼女の通う学校だ。…自殺だった。警察は彼女の周辺を調査し、成績不振を苦にしてのものだと結論づけた。葬儀は密葬の後、学校関係者やメディア向けに大規模な告別式が行われた。

「葵!」

「なに?」

「行くでしょ?美咲ちゃんち」

「あー、お通夜だっけ」

 母親が部屋にやって来て言う。表情は暗い。この時私がどんな顔していたかなんて知りようが無いが酷い有様だっただろう。

「恵美から電話があって人が少ないうちにお別れしておこうって。私はお父さんと一緒に行くけどどうする?」

 東条家とは幼稚園の頃からの付き合いだった。当然両親も仲がよく、特に母親同士は年も近かったせいか相当仲が良かった。

「うん、向こうの家だっけ?…歩いていけるし制服に着替えて一人で行っとく、なんか持っていくものある?」

「そういうのはコッチでやるから早く行ってあげて。美咲ちゃんも会いたがってると思うし」

「そうだね…」

 部屋の戸をそっと閉める音を聞くと部屋着から数日袖を通していない制服に着替えた。

 通夜と身内向けの告別式まで私達は参加した。学校側が幾らか出資して行われたお別れ会と題された表向きな告別式はニュース映像で見るだけだった。私と美咲は別の高校に行ったため、知らない顔が何人も映っていた。さすがにこの中に居るよりや東条家の皆さんと一緒の方が気が楽だ。

 東条のおじさんもおばさんも辛いなか、私を気遣ってくれた。一人っ子だった私達はまるで兄妹の用に両方の両親から子供のように接してもらってきた。娘の変化に気がつけなかった。一番悔しいのは彼らだろう。家族葬は重い雰囲気のなか進行されていた。淡々と進み、家の近い母方の祖父母はわんわん泣いて、実家に居るおばさんの妹が慰めていた。

 東条家へ歩いている間も、箱に入れられた美咲と顔を合わせた時も。告別式の会場から帰る時も。私は涙というものを流すことが無かった。あぁ、突然身近な人を失った時ってこうなんだなと、実感しただけだった。冷たいと思われるかも知れないが今回のことで納得出来ないことが多すぎて私の心中は美咲の死を悲しむどころじゃなかったのだ。

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