妹様冒険譚、その5
「楓」
「ん?」
学校から家に帰ると、リビングで寛いでいたお姉ちゃんに呼び止められた。
「今度さ、ぐりおらでイベントがあるでしょ」
「あー、うん」
ぐりおらはグリモワール・オンラインの略称で、誰が呼び始めたのか運営放送でも使われるくらいには浸透してしまった呼び名だ。
「楓、私と一緒にイベントいかない?」
「え?」
「β時は仁と一緒だったからね。今回は楓と回ろうかなって…流石に一日で終わるって事は無いだろうし、フレンド登録もしておきたいものね」
そういえばお姉ちゃんどころか、お父上たちともフレンド登録をしていない。
「う~ん、でも私もパーティーで遊んでるからなぁ」
姉さんは人付き合いが特に苦手だから、あまり友達がいない。信用できる友人が数名いると言い換えても良いけど、初対面の相手に自分から近づく事は絶対にしないのがこの姉である。
「パーティーって、尾音ちゃん達でしょう?」
「そうだけど?」
いつもの数人で固まってしまうのは人間の本能なのか、それとも気が付いていないだけで、私も人見知りなのだろうか。
「あの子たちなら、さすがに慣れたわ。家にも良く来るもの」
「ホントにぃ?」
「あんたこそ、お父さんや仁に早く慣れなさい。そうでなくとも元々従兄なんだから」
「そんなこと言われても無理だよ…面と向かってお兄ちゃん呼びなんて」
私と姉は元々この家の住人では無かった。
仁お兄ちゃんとは、いわゆる従兄関係で、藤堂秀臣は叔父さんだった。私たち姉妹のお母さんが藤堂秀臣の妹で、実のお父さんは婿入りだったから、名前はそのままだったけれど。
お爺ちゃんの家は老舗の和菓子店で、最初お父さんは弟子入りしていたのだそう。看板娘のお母さんと恋に落ちて、結婚してお姉ちゃんと私が生まれた。
私たち姉妹がこの家に引き取られたのは、今から五年前の事だ。お父さんとお母さんが、乗っていた車が爆発した。
――――即死だったらしい。
その時私たちはと言うと、姉は修学旅行で海外にいて、私は学校の行事で少年自然の家と言う処でテントを立てていた。
娘二人がいない間に、デートにでも行こうとしていたのだろう。二人は結婚してからも仲が良かったから。
「あんたねぇ、あれだけ懐いてて…正直、兄上呼びの方が恥ずかしいわよ」
「でも兄上は、ふざけて呼んでいる風に聞こえるでしょ?」
「引き取ってから五年もその呼び方じゃあ定着しちゃって、ふざけてるって言うより馴染んでるわよ」
「そ、そんな…」
初めて会った時は両親の事で泣き続けて、涙でボロボロになった酷い顔を見られたから、上手く話しかけられなかっただけなのだ。決して嫌っていたり、距離を取りたい訳では無い。
「まぁ、とにかくイベント初日は一緒に行動するわよ。私たちでパーティーを組んで行動しましょ」
「あ、う…えあ?」
「私の方もフレンド呼んで来るから、尾音ちゃんと椿ちゃんには楓から話しておくのよ?」
「えええぇ、お姉ちゃん!?」




