スケルトン
早速スケルトンの召喚を試みる。
「『サモン』スケルトン」
「…」
初めての召喚なので最大数で召喚してみたのだが、召喚できたのは二体だった。
流石にスケルトンなだけあって、全身が骨だけで構成されている。骨格標本みたいな奴だ。武器は手にしているが、筋肉がないので頼りない印象だ。
「別のスケルトンを探さないとな…」
ややこしいが、クエストの収集アイテムをドロップするモンスターのスケルトンである。自分で召喚したモンスターは、倒されてもアイテムをドロップすることはない。イベントの時にポイントが、カウントされたのが異常事態なのだ。
戦場になった平原は広いが、平原なだけに視界が良好だ。離れたところで戦っているロックスとクロエが、この場所から確認できる。ロックスはともかく、光魔法を操るクロエは夜という事もあり、大変目立っている。
俺の他にもスケルトンと戦っているプレイヤーは結構いるので、迷惑にならない様に発光は抑えて欲しい所だ。
「いた…スケルトン、ゴブリンソーサラー行け」
視界が開けているので、新しい獲物を直ぐに見つけることが出来た。
折角なので今回は、スケルトン同士で戦わせる事にしよう。召喚しただけで戦わせないのは、MPの無駄に他ならない。
前衛が二枚とあって、戦況は安定している様に見える。前衛のスケルトンが、敵のスケルトンを抑えている間にゴブリンソーサラーが、敵のスケルトンにファイアーボールを使って安定したペースでダメージを稼いでいる。
「…手を出す必要が無さそうだな」
ゴブリンソーサラーで気が付いたのだが、召喚したモンスターにもスキルが存在する様だ。ゴブリンゾンビには、何もなかったから気が付かなかった。
ゴーストはMP吸収と弱い呪魔法が使える様だ。スケルトンは剣術と状態異常発生率減少(中)と書いてあった。ゴブリンソーサラーは、ご存知の通り火魔法である。
「…三体目討伐完了。全てのスケルトンが、亡者の骸(頭)をドロップしてくれるわけじゃ無いし、気長にやるしかないな」
他二人のドロップ状況にも因るのだが、今回はドロップが多ければ多いほど資金が出来るので、狩れるだけ狩っておきたいのだ。
「ふむ。召喚モンスター達も各自撃破に充てるか…」
召喚したスケルトンの戦闘能力も確認できたし、別行動させるには丁度良い頃合いだろう。
俺自身のスキルレベルを上げる為にも、召喚モンスター達に戦闘を任せておくのは勿体ない。取りあえずの目標としては、種族、職業、スキルレベルを上げるのが目標だ。スキルは満遍なく使って行こう。
♪
約束の三十分が経過したので、集合場所に戻ってきた。
ロックスとクロエは俺が到着するよりも早くから、集合場所に戻ってきていた様だ。
「すまない、待たせた様だ」
「いえ、お気になさらずに」
クロエはロックスの言葉に、短く頷くだけで答えてみせる。
「ドロップはどうだった?」
「私が入手いたしましたのは4つでございます」
「…私は7つです。アンデットとの戦いは聖騎士が得意とするところですから」
二人だけで11個のアイテムを集めたのか、つまり22000コルだ。俺が集められたのは、五個だったので合計16個の32000コルになる。
「俺は5個…16個だな」
「それでは、これから港に?」
まだ連携の確認が取れていないが、精神に疲労感を感じる。
「今日は、もう良い。もう戻らないと」
「ではギルドで報酬を受け取った後は、宿屋に参りましょう」
そういえば、今まで宿屋に行ったことが無かったな。ログインしたらHPが1になっている事が、常なので態々宿に泊まる必要性を感じないのが原因だ。宿に泊まる事に因って、HPMPが最大値まで回復する。これは時間経過でも徐々に回復するので、俺個人にとっては本当に宿が必要ない。
しかし、今は住民である彼らがいる。二人を無視するのは気が引ける。
宿を取らない訳には行かないだろうな。
「そうだな。さっさとギルドで用事を済ませよう」
「「はい」」
全員で移動していると何度かスケルトンにも遭遇したが、納品するアイテムが増えただけで被害は無かった。
「はい、それではクエスト完了です。報酬の5万コルになります」
「報酬額が増えてないか?」
「はい、ジンさんが受けたクエストの他に治安維持の為に国から常設クエストが出ているので、その分の報酬を加算しました。常設クエストの内容は、スケルトンの討伐とゴブリンの残党狩りですね」
国内にアンデッドモンスターが蔓延っている状況は、国側としてもあまりよろしくない。それも戦争の後であることから、国外への体裁も悪い。少しでも早く解決したくて、国からクエストが張られるのは納得できる。
「そうか」
報酬の5万コルを受け取る。
後ろで待機していたロックス達に振り返る。
「宿に行く」
「はい、ジン様」
「宿屋はこちらです。ジン殿」
クエストの報酬は、どうするかとロックスに相談したら「戦闘は案内の仕事に含まれているので、私たちは必要ありません」とクロエにやんわり断られてしまった。
これまで宿屋に行った事は無かったが、マップには宿屋の場所が表示されている。その場所に向かってゆっくり歩いていれば宿にたどり着く、マップとは便利な機能だ。
カルセドニーの道は、外に近い道を除いて歩きやすい石畳になっている。歩く度にコツコツと聞こえる靴の音が心地良い。
「…着いたな」
外装は石材と木材が主に使われていて、生産ギルドと同じ様な印象を受ける。掲げられた看板には、地図でよく見るベットのマークが刻印されている。
宿屋に入ると一階の部分は、食堂を兼ねている様だ。
「らっしゃい。泊まりか飯か?」
随分と愛想が悪い店員だ。
前髪は大きく後退して、頭皮が見えている。そしてドワーフではない様だが、身長がかなり低いように見える。
「泊まりだ。先に飯にするがな」
「泊まりか…何泊だ?」
「一泊だな、気に入ったらまた泊まるさ」
「ふん。一泊飯付きで200コルだ。三人で600だな」
「ジン殿、我々は城に戻りますので宿は不要です」
「…わかった」
200コルを支払うと、食堂に向かい席に腰を下ろす。
「あれ?」
「まぁ、ジンさんですわね」
隣の席から聞き覚えのある二人の声が聞こえた。




