未使用『リンクス』の行き先?
ログアウトして、時計を確認する。
最近は時計ばかり気にしている気がするんだ。
なんでだろうな。
「仁ー!」
「何!?」
「ご飯出来たよー」
相変わらずな姉さんの雑呼び出しに苦笑いしながらも、一階に降りて行く。
「いただきまーす」
今日の晩御飯は、お好み焼きでした。
♪
受付を素通りして、研究所に入り込む。
昔は止められて注意もされたものだが、今では日常の風景となりつつある。
すっかり見慣れてしまった研究所の中をゆっくりと進む。
学校より通いなれた父さんの研究室に入った。
「おお、仁来たのか?」
「ああ、うん」
俺の姿を見つけた父さんが、驚いた様に声を上げた。
「確か今日からイベントだろう、お前がゲームを置いて研究所に来るなんてな…。何かあったのか?」
「いや、別段特別な事じゃないよ。ちょっとコレが余っちゃって…」
俺は持ってきていた『リンクス』を取り出す。
「これは…『リンクス』だな。余ったって?」
「実はさ…」
手短に事情を説明する。
「ああ、引継ぎ要素か…。別に初期スタートでもとは行かないか…」
「さすがにな。後になって分ったんだけどβテスター特典の称号もあったみたいでさ」
「ほう…あったコレか。『絶望を乗り越えし者』…ふむ」
モニターに映し出された掲示板を見ながら唸り声を漏らす。
「全ステータス+1は凄いな。種族ポイントが、7ポイント分じゃないか!」
「小説で有名なVRゲームだからな。『アライン』は高いし、デスゲーム風作品の影響で手が出しにくかったらしい」
「夢の新技術なのにな…」
「俺にとってはそうだけど、一般ユーザーにとっては未知の領域なんだろうさ」
実際に二度もVRゲームをモデルにしたデスゲームの作品が、大ヒットしたのが災いしたとも言える。あ、片方は少し違うか。
「それで『リンクス』なんだけど…」
「別にバイトを雇っても良いぞ?」
「それで良いの?」
「元々脳波計測のモニターとして協力を依頼する形を取っていたからな。予定通りの人員が確保できなくて、モニターの募集を新たにかけると言うのは珍しくないんだ」
俺としては誘う相手もいないし願ってもない事だが、こちらの一存で取り寄せておいて申し訳ない気持ちになる。
「『リンクス』については貸出。バイト料は…期間が決まってるから定額かな?」
「期間?」
「長い間モニターをする訳にもいかないからね。まずは一か月プレイして貰って、続けるかどうか聞こうかと思う。というより、一か月おきに聞いて行こうと思うよ」
確かにゲームだけを年単位でさせる訳にはいかない。
この条件なら学生の応募も可能だし、こぞって応募してくれそうだ。
「今月中からは無理だろうし、仁の友達を連れてくるならその間にね」
「友達ね…」
いないんだが。
「わかった」
「それから、仁は普段アッチでは何をしてる?」
「あっち?」
学校の話だろうか?
「『グリモワール・オンライン』で普段何してる?」
「ああ、ゲームの話か。学校の話かと思った」
「それはそれで聞きたいけどね?」
学校について話すことは、本当に少ない。
精々テストの結果や表彰の有無ぐらいではないだろうか。クラスメイトとは距離を置いているので、最近の流行などは知らない。
「何をか…戦闘したり武器作ったり?」
「普通にRPGだな」
「一応、アクション体験型MMORPGだからな」
モンスターを倒すのが一般的なRPGという物だと思うのだが。
「折角のVRなんだから、戦いばかりじゃ勿体ないだろう?」
「まぁ、そうだな」
俺も時間が許してくれるなら、一日中釣りとかしてみたい。
「こっちは母さんと一緒に農家プレイを楽しんでいる。私は動物を入れて、畜産にチャレンジしてみたいのだがな。中々ログインする時間が難しくて、NPCを雇わないと難しそうだ」
「へぇ、NPCって雇えるのか…」
「ああ、今は土地の購入が先だな」
土地も買えるのか…装備よりも先に拠点を確保しておいた方がよかったかな?
「俺は取り敢えず、普通にゲームをプレイする積りだよ。気に入った場所を見つけたら、そこに家でも建てようかな…」
「ああ、色んな楽しみ方をすれば良い。その為のゲームなんだからな」
その後、礼を言って別れると直ぐに家に帰った。
楽しみなイベントの始まりである。




