職人
街に戻ると薬屋に向かう。
「いらっしやいませー」
盗賊クエストで仕入れたのと同じポーションを購入して、店を出る。
「ありがとうございましたー」
素材が多くなってきたので、インベントリの容量が限界に近い。
ポーションを含めても別の獲物を探すのは、この素材を処理した後にするべきだろう。
気になる素材もあることだし、生産ギルドで溶かしてみよう。
「ん?」
生産ギルドの前まで来たのだが、何か言い争うような声が聞こえる。
中に入ってみると、小柄で髭面のオヤジと子供の様に小柄な女性が受付前で言い争っている様だ。
「じゃから、鍛冶こそ至高の生産じゃ!」
「何言ってるの、金属を叩くしか能のない鍛冶師が!?」
生産の意見の食い違いだろうか。
個人的には、どの生産スキルも必要だと思うのだが。
「あ、いらっしゃいませ」
「何の騒ぎだ?」
すっかり顔馴染みになった受付のお姉さんに事情を聞いてみた。
「あー、はい。どちらの生産スキルが扱い難いかという話をしていらしたみたいでして、気が付いたらこの様な状況になっていました」
「んー?」
俺の感覚では一番簡単なのは、鍛冶スキルだ。その分、金属特性など知識や発想を求められる。
それと比べて、皮革は型紙をとったり工程が難しい。素材の数が多いのは、皮革スキルも同じだろう。
「ふむ」
静かになったなと思って振り向くとそこには、こちらの様子を伺うように佇む二人の姿が見えた。
「ふぅむ」
「むむむ」
「…何か?」
堪らず声をかけると二人は、ニヤリっと顔を歪ませる。
「何、ワシらの意見ではどこまで行っても平行線なんでな」
「君の意見を聞こうと思ってね…」
何か知らない間に巻き込まれていた。
受付嬢さんに話を聞いた報いだろうか。
「何が聞きたいんだ?」
「色々意見は出たが、いま議題になっておるのは防具じゃ」
「金属製より革製だよね!」
「金属製に決まっておろうが!」
「なんだと!?」
「何おう!?」
「………」
聞いた話とは随分内容が変わっているようだが、意見を求められたら答えねばなるまい。
「俺の戦闘スタイルから答えてもいいか?」
「もちろんじゃ」
「うん!」
「…俺の場合、接近戦と遠距離戦を両方行う。一人での戦闘が多いだけに、何でも対応できる攻撃手段が必要だったからだ。ここで俺の動きになるが、一人での戦闘となると被弾を出来るだけ減らす方向性で戦いを組み立てる必要がある」
「ふむ」
「へー」
分かってなさそうな反応は気になるが、話を続けよう。
「被弾を減らす方法は色々あるが一人で戦闘を行う場合、回避を選択するしかない。相殺や遮蔽物の利用をしたとしても、戦闘維持が難しくなるからな。回避を行うためには、動きやすい防具が必要だ」
「そうじゃな」
「うんうん」
防具の話になって、やっと元気になったのか相槌が入る。
「動きやすい防具となるとまずは軽さだが、いざという時に防御力が低くては心もとない。だから、部分的にガントレットなどの防具を金属にその他の防具は布製を使いたい」
「うん?」
「ん~?」
結局のところ両方必要なのである。
「なんだか煙に巻かれた気がするのう」
「釈然としないよ?」
納得はされなかったが、二人揃って頭を悩ませている。
どうにか、喧嘩は終わった様だ。
「もう、良いや。何だか面倒になっちゃった」
「そうじゃのう。そんな事より槌を振るいたいわい」
背の低い髭面の男が槌を取り出し、何かウインドウを弄っている。
「ふむ。丁度良い素材がないのう。お前さん何か持っておらんか?」
「この前市場で買って来た鉱石類とカニ素材ならあるが…」
「カニ…グランブルクラブかの。あれは鍛冶の分野じゃないわい」
「うちの得意分野だ!」
事の成り行きを見守っていた小柄な彼女は、元気良く声を上げた。
「そうじゃの。お前さん…皮革スキルの分野じゃろう」
「グランブルシザーの素材もあるぞ?」
「何!?」
驚くような事だろうか?
「…ふむ」
「…あー、分ってるよ。うちもやってみたいし」
「そうか、ならやってみるか?」
「ふふふ、望むところだよ」
なにやら二人の間で、不可思議な会話が成立している。
「えーっとね。うちら二人にその素材で、防具の製作を依頼してみない?」
「料金はマケて置くからの」
元々防具の生産は、俺には不向きな物だった。
生産プレイヤーと知り合う機会は、そうあるとは思えない。素材はそこまで高いものでもないし、試金石代わりに依頼するのもいいか。
「そうだな…防具は店で買ったばかりだが、性能が良い方がありがたい。是非頼む」
「よし来た。複合生産部屋じゃ!」
「あ、ちょっと…えっとフレンド送るね」
フレンドを受理して、名前を確認する。
「ああ、よろしくサコン。…変わった名前だな」
「あはは、さっきのがウコンね。双子なの…出来たら連絡するね」
「ああ」
サコンと別れの挨拶を済ませるとインベントリを確認する。
「生産に回す素材がなくなったな」
受付嬢さんが苦笑いしている姿が目に浮かぶ。
「気を取り直して、冒険者ギルドに行くか」
海が楽しみすぎて忘れていたが、グランブルクラブもグランブルシザーも討伐クエストが在ったかも知れない。
「ステータス操作も忘れてたっけ…」
ステータスウインドウを開いて、ポイントを振り分ける。
名前 ジン
性別 男
種族 夜郷族Lv7
職業 死霊使いLv7
HP 103
MP 78
筋力 23+10(33)
体力 20+10(30)
器用 25+9(34)
精神 20+9(29)
知力 20+7(27)
俊敏 20+3(23)
運 15
種族ポイント 0
スキルポイント 10
さっき防具の話をしていたせいか、つい俊敏に振ってしまった。残りは攻撃力不足を感じていたので、筋力に。
「あ、MP」
次に振る時は運を上げたいのだが、上手くMPが上がることを祈ろう。
 




