市場
「ふむ」
掲示板をそっと閉じる。
「市場か…」
生産者掲示板の素材入手方法に、俺が知らない物があった。
クエストの報酬で金はあるし、装備も整えたい。
「防具は…皮か鉱石だよな」
盗賊戦で残存HPの管理が、難しいのは良く分かった。
欲しいのは、全身分の防具と杖。
「生産専門のプレイヤーに頼んだ方が、良いかもな」
所詮レベル1の生産スキルだ。
スキル上げは、後からゆっくりやっても良い。
具体的にどんなものが良いという要望はないし、初期装備以下の性能じゃなければ良いかな。
「…市場ですか?」
場所が分からなかったので、受付のお姉さんに聞いてみる。
「ああ、手持ちの素材が少なくてな」
「まぁ、素敵です!」
生産の増加を望む受付嬢は、目を輝かせて俺の手を取る。
「最近は、本当に生産に勤しむ冒険者の方が増えて嬉しい限りです。そもそも国における生産と言うものは……す、すいません。つい興奮しまして」
「それで、市場の場所は?」
「はい、素材の取引と言いますと珍しいものは直ぐに輸出されますので、恐らく露店の事ではないかと。露店は広場で開かれている事が多いので、そちらに向かってみては如何でしょうか?」
露店か…確かにプレイヤーがある程度まとまって露店を開けば、市場の様に見えるかもしれない。掲示板の情報なのだし、比喩が飛び交うものだ。
「広場の場所は?」
「えーっとですね」
広場の場所を聞くと生産ギルドを後にする。
すれ違うプレイヤーが、チラチラとこちらに視線を向けている。
いや、すれ違うプレイヤーだけでは無い様だ。
掲示板で目に入ったのだが、β時のイベントがPVとして流れているそうだ。イベントボスに最後の攻撃を仕掛けるシーンをわざわざ外したりはしないらしい。
「…β時代と同じ外見だからな」
広場に近づくにつれて、威勢のいい声が聞こえてきた。
確かに市場と言って差し支えない数の露店が並んでいる。
どう見てもフリーマーケットの様相である。
「鉱石、武器、防具…人がいれば種類もあるか」
基本は素材を探して、良さそうな装備があれば買ってしまおうか。
市場の中を歩き回る。
色んな種族を眺めるだけでも面白い。
生産が得意な種族がビットとドワーフなのだが、どちらも最大身長が低い。
現実とアバターの落差が酷ければ、システム側が調整しているだろうが平均的に低いのは変わらない。
夜郷族は身長の関係はないが、恐らく才能が特化している種族の彼らには及ばないのではないだろうか。そうなると皮を専門にする種や道具を得意とする種族もいる可能性がある。
このまま剣や槍といった戦闘スキル特化は、魔族が思い当たる。
「あ、この木材ください」
「まいど」
買い物を進めながら、種族について考え続けた。




