番外編 山城進
お約束の番外編です。
俺の名前は、山城進。何所にでもいる様なゲーム好きの男子高校生だ。そんな俺が世界の変革を目の当たりにする事になるとは、人生は分からない物だ。
それは突然にやって来た。
『グリモワール・オンライン』世界初の没入型VRMMORPG。
グリモワールとは魔道書の事で、そのゲーム名前を聞いた時は魔法が飛び交う戦場や、魔道書を自分で作り出すシーンをイメージしていた。だから幸運にもベータ版のテスターに選ばれてキャラメイクをする際、真っ先に魔法職を選択したのだと思う。
ゲームとは言え間近に迫ってくるモンスターの攻撃は、俺の恐怖心を煽るには十分だった。魔法職だから良かったものの、接近職だったらパーティの足を引っ張る事請け合いだ。
そこそこ知り合いも出来たし、テスターとして正規版のスタートダッシュは大丈夫だろうと考えていたら突然インフォメーションが頭に響く。
≪8時になりましたのでイベントを開始いたします≫
≪イベント『隠滅のアリア』≫
≪ただ今の時刻を持ちまして、始まりの街にフリーボスが潜入しました≫
≪隠滅のアリアを探し出してください。なお、このイベントに失敗すると始まりの街が消滅します≫
「イベント…か」
ゲーマーとして直ぐに突撃したい衝動に駆られるが、空腹を感じる時間だから、一旦ログアウトする事にする。
再び、ログインするとまたインフォメーションが頭に響いてきた。
≪イベントが進行しました≫
≪プレイヤーが『隠滅のアリア』を発見しました≫
≪これより討伐イベントを開始します。『隠滅のアリア』を討伐してください≫
「イベントは進んでる…と」
始まりの町ではプレイヤーとアリアとの戦いが始まっていて、魔術やスキルの派手なエフェクトが敵の居場所を教えてくれる。
掲示板を確認すると回復アイテムの無料支援を有志の生産職プレイヤーがやっていたので、そこで回復アイテムを貰うとイベントボスとの戦いを開始する。
「アクアバレット!」
得意の水魔法でボスのHPを削る事にしよう。
♪
『隠滅のアリア』のライフゲージは、全部で五本あった。時々ランダムの様な行動をとるものの基本パターンが見えて来た。このまま簡単に倒せるかもしれないと淡い期待を抱いた頃、巨大なイカの化け物であるアリアは、皮膚を赤く変色させた。
「イカ…いや、タコか?」
形状はイカなのだが、色合いがタコという異色の組み合わせが成立した不思議生物が誕生した。
第二形態からのパターン変化は、ゲームではお馴染みのシチュエーションだ。プレイヤー達は慣れた様に後退を始める。
「全員が下がる訳には、行かないよな」
そう『隠滅のアリア』の目的は、始まりの町の破壊なのだ。
「ギヤャャャャ!!」
アリアの攻撃を何とか躱しながら、攻撃のタイミングを計る。
「シッ!」
一瞬人の声が聞こえたかと思うと、アリアの足が切り捨てられた。それも三本も同時にである。
「何者だ?」
気が付けばアリアの攻撃回数が、彼が現れてから減っている様な気がする。それだけヘイトを集めているという事だろうか?
「アクアバレット!」
彼に襲い掛かろうとする触手を魔術で押し返すと、男の元に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「少し余裕が出来た、感謝する」
何とも言えない言い草に少し呆れながら、忠告する。
「はぁ、回避盾は良いが連携しないと持たないぞ」
人の事は言えないっと内心考えていたが、何故かこの男に興味を持った。
「俺はサンガ。お前は?」