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グリモワール・オンライン  作者: 灰猫
七つのダンジョン編
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頂きに眠る

 コツ、コツとレンガを叩く靴の音が、不気味な静けさの中で響いている。

 地のダンジョン五階層を超えて以来、ダンジョンの内装は様変わりした。一面のレンガ模様は、視界の確保が容易なように見えて誤認の原因となった。規則正しく並べられたレンガ模様は通路の角を隠し、モンスターの存在を警戒できず曲がり角でモンスターに奇襲を受けた。

 五階層したの罠は数は少ないものの毒を用いる狡猾な罠で、ダンジョンに挑む冒険者をじわりじわりと追い込む。それが六階層以降となると冒険者に直接的なダメージを与える罠は鳴りを潜め、間接的で妨害や足止め、アイテム類の消耗を目的とした罠に切り替わった。

「うるさいな…この警報」

 けたたましく鳴り響く警戒音は侵入者の存在を周囲に警告する。

 警報を聴きつけて集まってきたのは、どこか見覚えのある石の小人達。その姿はデーモン・ビーターをの糧になった無数のゴーレムによく似ていた。対峙したゴーレム達はいくつかの種類があり、階を進む毎に姿を見せる種類が増えた。

 見た目通りというべきか、ゴーレム達がドロップするのは石材やゴーレムがモチーフになるアイテムと、レアドロップと思われる低レベル向けアクセサリー装備がいくつか。


ゴーレムリング リング ランク2 耐久値1200 品質C

 物理攻撃に因るダメージを0.2%軽減する。

 ゴーレムの頑強さをイメージして造られたが、粗雑な作りで効力が低い。


ストーンサークレット サークレット ランク1 耐久値800 品質C

 装備中石材系素材アイテムの獲得数が増加する。装備中の頭部装備不可。

 かつてゴーレムを作る為に多くの工夫が送り込まれた。このサークレットとはそんな工夫たちの幸運のお守りだった。


ロックカットアンクレット 足輪 ランク2 耐久値1000 品質C

 ステータスの俊敏を20%減退し、減退数値分の筋力を加算する。

 筋肉を求めるとある一派が嵩増しの為に生み出したアンレット。道具に頼る事は邪道と打ち捨てられた。


 アクセサリーの装備枠が1つ空いていたので、ゴーレムリングを身に付けた。他の装備は頭装備が付けらなければセット効果が無くなってしまうし、回避能力に注目し始めたばかりで俊敏を下げたくはない。

 そんなことを考えながら、ボソリと呟いた。

「…第十階層、ボス部屋か…」

 無機物相手ではネクロマンシーの出番はなかった。代わりにデーモン・ビーターを思う存分に振り回せたので、良い気分転換になった。

 ダンジョンの外で狩っていたゴーレムより小さいと言っても、その大きさは腰元までの個体や膝下程のものと様々であり、稀に広い部屋に出ると見上げるほどの大型が現れることもあった。

 ここまで進み地のダンジョンの評価は、コル稼ぎには向いていないが、警報によって探さずともモンスターが集まってくるので、戦闘スキルの経験値を稼ぎやすいダンジョン。

 もしダンジョンに来たのが初心者がパーティーを組んで挑むと仮定すると、モンスターの強さも程々で丁度いい難易度に思える。

 十階層のボスはやはりと言うべきか、一体のゴーレムが待ち構えていた。

「ギミックも有って、よりボス戦らしい戦いだった」

 背後でゴーレムが大きな音を立てて崩れ落ちる。

 デーモン・ビーターの振り抜きでどうにか切り伏せたゴーレムは、金属製の身体を活かした前へ前へと出るシンプル故に厄介な相手だった。このボス戦に仕込まれていたギミックというのは、ゴーレムに備わった機能や能力ではない。それはフィールドに仕掛けられていた。

 ゴーレムの巨体が闘うのに不自由しない広い空間は、侵入者である冒険者にとっても有利に働く。ゴーレムの移動速度は、さして早い物ではない。しかし、一歩で進む距離が10メートルを超えるのでないかと思う巨体の前では、一息つく距離を置くのも困難だった。

 いざ戦いが始まり魔法を叩き込みながら、ゴーレムと距離を置く為に走り出したのだが、ここで戦闘フィールドに仕掛けられたギミックが作動した。

 腕、足、頭。ゴーレムの身体を構成する汎ゆるパーツが、走り抜けた後から生えてくる。生えたパーツは直接的な攻撃だけではなく、こちらの妨害を目的とした動きもあり苦戦を強いられることになった。

 ゴーレムという近接戦闘に向いたモンスターであったことを踏まえても、適正レベルであっても勝利には魔法が必須だったのかも知れない。

 ボスが倒れた事で再び魔法陣が現れ、光りを纏い周囲を照らした。逡巡することなく飛び乗り、先の階層へと飛ばされた。

「岩肌…洞窟か?」

 綺麗なレンガ模様から一転、壁にいくつかの松明が燃えている以外には、露出した岩肌ばかりの殺風景な空洞が広がっている。

「後は…進めるな。帰り道とかか?」

 もしかしたら進行不可領域《不思議な壁》に阻まれるのかと思ったのだが、予想に反して進めてしまった為に、真っ直ぐ前進するだけの一本道を振り返り歩き始めた。

「帰り道なら退路になるだろうし、退路の確保が損になることはないだろう…」

 スタスタと歩みを進め、やがて青空が小さな円の中に描かれているのに気が付いた。駆け寄り外の様子を見ようと覗き込んだ。

「外…っで、ここは山。ずっと壁の中で忘れてたけど、ダンジョンは山にあるんだったな」

 顔を出して周囲の様子を上や下に動かして確認したところ、この穴蔵はアクアヘイアウの中腹から少し上に位置している様だ。

 ここから飛び降りれば外に脱出出来るのだろうかと、しばらくボーッと景色を眺めていたらゴゴゴゴと地の底から唸り声が響き、ダンジョン全体が揺れているかのような振動を伝えた。

「なっ、なんだ!?」

 慌てて外に伸ばしていた首を引っ込めてると、辺りをキョロキョロと見渡す。

「なっ!?」

 首を出して覗き込んだ穴の左側から、ドロドロとした赤い液体が勢い良く山肌を焦がしながら熱風を生み出している。

 あまりの光景に自身の体力《HP》が熱の煽りを受けてジリジリと減少を続けている事にも気が付かずに、目を見開いてそもままの格好で思考が停止した。

 数分後ある疑問が頭を過ると自然に体が、全速力で踵を返して出口を求めていた。

「まさかこの洞窟ッて!」

 理性が最悪の事態を予感して、地面を蹴る足に力が籠もる。

「溶岩の噴出口かァ~!!」

 ボス戦前の待機場所以外では他のプレイヤーと出会わないインスタントダンジョン形式だったのも、広いエリアを対象に仕掛けが施されているなら納得だ。最初はアースワームとの戦闘で他のプレイヤーに迷惑が掛からない様にだとか、モンスター寄せの警報に巻き込まない処置と思い込んでいたが、それは全てダンジョンの仕様だと意識を逸らさせるダンジョンの罠だったのだ。アースワームがダンジョンの壁を破壊していたのは、溶岩洞を作ったモンスターですよーという前フリであり、考えてみればヒントはあったのにっとなっていたのだろう。

 とにかくこの階層を攻略するには、転送陣に飛ばされて向いていた方向に進むしかない。もしかしたら、ショートカットできる道があるかも知れないが初見に分かるわけがなかった。

「『クリムゾンサイス』!」

 ボケ~っと無駄な時間を過ごしてしまい洞窟を駆け抜けている間にも、遠慮なくモンスターはやって来る。ヤドカリのようなモンスターの脇を、すり抜け座間にアーツを放ち、撫で斬りの一線を刻む。脚を止めるわけにも行かず、モンスターを確認しないままに走り抜ける。

 いつこの洞窟に溶岩が流れ込んでくるか分からない未体験の恐怖心が体を蝕む。

 幸いにして溶岩道と思われるこの洞窟は、枝分かれどころか分かれ道もない一本道。そのお蔭で道に迷って余分に時間を失うこともなかったが。

「…分かれ道かッ!」

 流石に全てが一本の道とは行かなかった様だ。片側の道を少し覗き見ると表面が溶けた様な、黒く滑らかな岩肌を晒している。2つに別れた通路の右側はしだいに膨らみ、拡がった洞窟は訪れた冒険者が10人は入れそうなほどの広い空間が形成されている。

 そんな空間の中央には、冒険者の関心を否が応でも引き付ける金色の装飾で飾り付けられた宝箱が物欲を刺激し続けている。

「罠、だろうな…」

 そう一言呟きながら、後ろ髪を引かれつつも分かれ道の左側に向かった。

 それからはもう遠慮はしないとばかりに、次々と分かれ道が時間を奪うべく合われた。体を石で覆った蟻型のモンスターが現れては移動を妨害するので、蟻の巣という言葉が頭の中をグルグルと巡っていた。

 幸いと言うべきか、最後まで溶岩に呑み込まれることはなかった。

 溶岩が流れ出る排出口が洞窟の中に複数存在していた。ある曲がり角で流れている溶岩が見えた時には、タイムアップが来たのかと思って流石に死に戻りを覚悟した。

 実際は噴火が近いという合図だったのだが、ジンには溶岩がせり上がって来ているとしか認識していなかった。

 「…地のダンジョン最後のボスか」

 長い蟻の巣を連想させる迷路をどうにか突破したジンは、分厚い金属製の扉の前で呟いた。

 初めて発見されたダンジョンと云うこともあって、全階層が二十を超える様な事はなかった。掲示板をサラッと眺めた限り、ボスが待ち構える階層を含めれば全十二階層。アリの巣迷路が時限ギミック(溶岩のせり上り)で精神的に疲労した分、実際の階層以上にダンジョンに居たような気がしてくる。

 ポーションで不足した体力と魔力を補充すると、扉に向かって足を動かす。

 鉄扉を開き、その先へと進む。

「……っ」

 視界に入ったソレに自然と足が止まる。

 視線の先には全身を赤い鱗に覆われた怪物モンスターが静かに眠りに付いていた。

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