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グリモワール・オンライン  作者: 灰猫
七つのダンジョン編
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五階層の番人

 扉の閉じる音が部屋に広がり、薄暗い部屋の奥から人影が躍り出る。

 緑色の肌に六つに割れた腹筋に二メートルを超えそうな大柄の体をし、その筋肉質の身体に見合った重々しい得物は見劣りしない。

「ゴブリンの上位種…ホブゴブリンとかいうヤツか?」

 ホブゴブリンは左手に握る棍棒を床に叩き付けると、侵入者を威嚇するように大声を響かせる。

 棍棒を打ち付けられた石のタイルは容易く打ち砕かれ、破片の下から土色を覗かせている。

「一対一…って訳でもないのか」

 ホブゴブリンの咆哮に呼応したのか、アースゴブリンがゾロゾロとホブゴブリン背後の暗がりから現れた。

「…ッガァ!」

 五階層の戦いはホブゴブリンの短い叫び声から始まった。

 棍棒を振り上げたホブゴブリンは、侵入者を迎撃せんと鈍重な足取りで威嚇するように足音を響かせた。ホブゴブリンが呼び寄せたアースゴブリン達はその足元を縫うように、小柄な体を活かして駆け抜けている。

 ゴブリン達を近付かせないと、魔法を放ち後ろに大きく飛び引く。

「『スロウ』…ッ!」

 戦闘エリアなのだからモンスターを召喚することはできるだろう。しかし、レベルの上では格下にあたるゴブリン達を相手に、召喚モンスターの手助けが必要になるようでは、この先に続くであろうダンジョンを抜けて最奥のボスとの戦いに打ち勝つのは難しいのではないかと考えた。

 鈍足の呪いで動きを鈍らせたゴブリン達が、大鎌の一振りで粒子に還る。

「ゴガッ!」

 順調に数を減らしていたアースゴブリンの姿に、漏れた安堵の息は、ホブゴブリンの呼び声で勇み足になってしまった。

「…増援か」

 ホブゴブリンが咆えると登場した時の様に、アースゴブリンが数体の群れで姿を表した。それはボス特有の能力なのか、失った手下を再びを呼び出して見せた。

「大本を叩かなければ無駄か…『パラライズサイス』ッ!」

 アーツの力を受けたデーモン・ビーターがホブゴブリンに振るう。大鎌を打ち払わんと棍棒を振り回すが、風切音に震える大鎌を捉える事はできなかった。

「ゴガァ!?」

 切られた事実に、ホブゴブリンが驚愕の声を響かせる。ホブゴブリンの右肩から入った刃は、力強く振り抜かれた。

 身体を痺れさせる斬撃は、ホブゴブリンに苦痛を与えず切り裂いた。

「ガァ?」

 重たい音が地面に沈む。

 身体を二つに分かたれたホブゴブリンは自分が増えたことになど微塵も気が付かず、疑問を浮かべるような顔を最後に残し粒子が舞った。

「…一撃か。どれだけレベル差があったんだ?」

 ホブゴブリンの消滅を見ていたゴブリン達は、ホブゴブリンの二の舞いはごめんだと思ったのか、我先にとある一点にに集まり、ボワンっと煙を上げると姿を消した。煙が晴れそこに残っていたのは、光りを放つ不自然な模様が描かれている。

「円…模様、魔法陣か?」

 【識別】は対象がモンスターでは無いので予想通り反応はなかった。【鑑定】もアイテム以外には使えないのだろうと思いながらも一応は試してみた所、意外な事に鑑定結果が表示された。


 転送陣

  異なる場所と場所を繫ぐ魔法陣の形をした扉。繋がる場所を知るのは、設置した者と飛び乗った者のみだ。


「転送陣…入ってきた扉も閉じたまま。次の階層への入り口か?」

 振り返り固く閉ざされた扉を眺めながら、1人言葉を口にした。

 この魔法陣は【召喚魔法】でモンスターを召喚する時に現れる魔法陣とは模様が違う。【召喚魔法】の魔法陣は、円の中に正四角形。これから呼び出すモンスターを模した象形文字の様な絵が魔法陣の中央に描かれている。それに対して転送陣の方は、いくつもの円が部分的に重なった宝尽くし文様に似ている。

「行ってみるしかないか…」

 戻ろうにも出口がないのだから、先に進むしかない。出来れば解毒などを含むポーションの補給に町に戻りたかった所だが、これからはもっと注意深く行動する事で間に合わせるしかない。

 転送陣の上に乗った。

 景色が流れるだとか、視界が真っ白に染まる様な派手なエフェクトは登場せず、ただドアの境を跨ぐように視界が変わる。

「第6階層か?」

 同じダンジョンとは思えぬ景色に、自然と足を止めた。

 ダンジョンの中にいるのは確かだが、どこに飛ばされたのだろうか。ダンジョンに入った時には湿気を感じる湿った空気が流れていたが、いま頬を叩く風は暖かな空気を運んでいる。

「…」

 ツルハシが落ちていたり、採掘現場をイメージさせられる階層が続いていた。では今はどうなのかといえば、測ったように均一に敷き詰められたレンガが天井、壁、床を形成している。

 辺りを照らしている小さな明かりはレンガの隙間に生息する苔が、壁を寝床にして疎らに存在するために光の届く範囲に統一性は無く、何も見えないような暗がりが一本道の上にいてもよく見えた。

 いつまでも立ち止まったままではしょうがないと、足に力を込めてダンジョン探索を再開した。

 進む足取りは軽やかだった。幸いにしてこの暗闇は、俺たちの故郷によく似ていたから。

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