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グリモワール・オンライン  作者: 灰猫
七つのダンジョン編
165/168

大部屋

 ダンジョンの一室は、骨の群れに呑み込まれた。小部屋を拠点として使っていたアースゴブリンを始めとした四階層のモンスターは、ネクロマンサーの呼び起こした死者の群れによって蹂躙された。

 白骨の群れに捕食されたモンスターは、ネクロマンサーの邪悪な力により、群れの一部として産み落とされる。

 小部屋を難なく突破し、部屋の奥に進む。道なりに続く幾つかの部屋も、鉱木こうぼくに支えられた坑道に仕掛けられた罠ですら足止めにならない。

「…」

 操る骨が罠に掛かる。先の毒矢をはじめ、落とし穴や警戒音アラームを響かせるモンスター誘引の罠。

 モンスターとの戦いで減り、トラップを踏み当てて減る。しかし、数は減れども倒したモンスターはネクロマンサーの邪悪な魔力に縛られて蘇り、死者の参列に加わり数を戻す。

 【ネクロマンシー】が如何に強力なスキルといえども、スキルを使用するにはMPという代償を払わなければならない。

 毒による蓄積ダメージが発生している間は、可能な限り傷を負うような行動は避けたい。その為に【ネクロマンシー】に因るアンデッドに、戦闘や罠の処理を任せていたのだが、用意していたマナポーションが無くなれば、デーモン・ビーターかピーターの杖で近接戦闘を強要される事になる。

「…ゴク」

 もう何本目になるのか。飲み干し、空になったポーションをインベントリに投げ込む。

 ジャリッと足元の砂を踏みつける音が、やけに耳に残る。点在する採掘ポイントが、同じ場所を通っている訳ではないことを教えてくれるが、ずっと同じ岩肌の通路を見せられているからか不安に侵されている。

「階段…か?」

 時間にしては短い間の出来事であった四階層ではあるが、初心者を想定しているであろう階層でリスポーンを覚悟させられた四階層は、とても長い時間苦しめられたような感覚を自覚する。

「この先が五階層か…」

 操っているアンデッド達は階段を前に静止し、カラカラと音を立てて崩れ落ちた。

宿主プレイヤー専用なのか?」

 アンデッドは素材に戻らず、そのまま粒子に帰った。階層移動ができないのか、それとも活動に時間制限があったのか、いずれ調べる時間を持つべきだろう。

 戻らない素材を少しだけ惜しみながら、五階層へと足を踏み入れた。

「お、新しいプレイヤーだ!」

 階段を下りると、和やかに談笑を楽しむプレイヤー数組が屯していた。

「あれ一人じゃね?」

「ソロなんだろ」

「キョロキョロしてるし、初心者なんじゃね?」

 他のプレイヤーがジンを肴に会話を広げる中、当人は周囲見渡して状況を指し図ろうとしていた。

「あ、最後尾はこっちです!」

 ポニーテールの女性プレイヤーが、右手を上げて声をかけてくる。

 最後尾と言われて改めて見てみれば、グループ単位で列になっている様に見えた。

「すみません。教えるのが遅くなってしまって」

 大人しく最後尾に並ぶと、人の良さそうな微笑みを向けながら小柄な女性が謝罪をした。

「いや…謝るような事じゃない」

 列になっていると察せられなかったのは確かだが、列に並ぶかどうかは自由意志なのだ。ただ休んでいるだけかもしれないし、普通は声など掛けないだろう。

「ところで」

「はい?」

「これは何の列だ?」

「え?」

 知らないまま列に並んだが、いらない物の為に待たされると言うのは遠慮したい。

「ダンジョン…あ、もしかして初心者さんですか?」

 手をパタンと閉じてから、右手の人差し指で天井を指しながらポニーテールを揺らす。

「…ダンジョンに入ったのは初めてだな」

「えっとですね。他のダンジョンは分かりませんが、ここ地のダンジョンでは五、十、十五と五階層刻みでボスモンスターが配置されていまして、この列はそのボスと戦いたいパーティの順番待ちなんです!」

 もしかしてアンデッドが入れなかったのは、他のプレイヤーに迷惑をかけない様に配慮された結果なのだろうか。

「私が思うにですね。ギルドに併設された酒場のように、冒険者同士での意見交換のために作られた空間かと」

「空間?」

 女性は興奮気味にまくしたてた。

「掲示板がネタバレ御用なのは周知の事実ですから、ダンジョンのモンスターだとか罠の種類なんかの情報は直接人に聞くしかありません。つまり、話ができる場所を用意したのではないかと!」

「なるほど?」

 適当な相槌でやり過ごしていると、女性のパーティメンバーらしき男が見かねた様子で女性に声をかける。

「長々と話してんじゃねーよ。迷惑だろうが…」

「ぱ、パジャンさん!」

「装備を見てみろ。俺達みたいなレザー装備より上等そうな金属鎧だ。初心者じゃねーよ」

 女性はバッと擬音が浮かびそうなほど俊敏に自分の装備と見比べると、顔を赤くしてうつむいた。

「ううっう」

「アンタ、コイツが迷惑かけたな」

 男が頭を下げようとするのを止めた。

「いや、ダンジョンの初心者であるのは確かだ。参考になった」

「そうか?」

 二人からダンジョンについて教示を受けながら、ボスの待つ大部屋が開かれる時を待った。

 ボス戦前に毒の状態異常を解除するポーションを売って貰えた。事前に用意しておくものだと驚いた様子だったが、快く売ってくれた。相場より高いのは時価であり、彼らにも必要な物資であるのでむしろ安いくらいだとも思った。

「あ、わたしたちの番です。それでは失礼します」

 ペコリと一礼すると二人は他のパーティメンバーと共に、木製の大扉を潜ってボスに挑みに行った。それから数分立つと扉の色が変わる。

 戦闘が終わり、侵入可能となった合図だ。

「…行くか」

 五階層を守るモンスターを倒し、六階層に向かう為に扉を潜る。チラッと振り返った背後では、何組かのパーティがこちらをジッと見ていた。

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