VSアースワーム
階段を上り切ると砕けた岩の欠片が散乱する一個の部屋が姿を見せる。
「この短時間で、広げたのか?」
まだ地下にいる可能性を感じ、ゴーストに周辺を探索させる。子豹は周囲の変化に鼻をクンクンと動かしている。
「いない?」
ゴーストが何の反応も見せずに戻り、周囲にモンスターの存在しない事を悟った。
考えてみれば生粋の生産職が、アースワームとの戦闘を生き延びる事ができるだろうか。もしかすると条件を整えてしまうと出現するタイプのお邪魔モンスターなのかも知れない。
「奇襲を受けて勝てると言えるほど、俺はまだ強くない」
この先を進むのに出現する条件が解っていなければ、先程の様に偶然に条件を満たしてしまう。まだ条件があると仮定した話だが、お邪魔モンスターとの遭遇を意図的に回避できるのなら、ダンジョンを進む上でかなり有難い。
「確か…つるはしを拾って壁を叩いんだったよな」
あの時に拾ったつるはしは、アースワームから逃げる際に投げ捨ててしまい既に手元にはない。そして周辺を見渡した限り、つるはしは見当たらない。
「見つけた時に改めて試すしかないか…」
その後はアースゴブリン三体の群れと遭遇し、一層目と比べて難易度が上がっているのを確認できただけで、つるはしを見かけることは無かった。
「第三層…つるはしが無いと実入りがない分、経験値だけに期待が募る」
望みを口にしてはみたが、ダンジョンに入ってから未だレベルの上昇はない。既に進化している以上、レベル一桁のゴブリンを倒した所で自身のレベルが上がることは無いだろう。
「お…つるはし」
三階層のグネグネと続く道を進む道中、打ち捨てられたつるはしが放置されているのを発見した。所々欠けている様だが、数回程度の使用で壊れそうには見えない。
つるはしをじっと見つめ、周囲や自分の状態を確認して壁に一振りする。すると再びあの声が響き、ガリガリと何かが近づいてくる。
「…トリガーは採掘ポイント以外でのつるはしの使用、もしくはダンジョン内で手に入れたつるはしの使用ってところか『起動』『ステップ』」
ジンの足元から突き上げる様に飛び出したアースワームをステップで後方に飛ぶことで躱し、隙だらけの胴体にダークランスを叩きつける。
「行けゴースト、黒子豹!」
召喚モンスターに戦闘の指示を与え、【呪魔法】でアースワームの能力を下げるべく呪文を唱える。
ゴーストが上手くアースワームの気を逸らしてくれたのか、飛び交うゴーストを喰らわんと身体を躍らせている。
「試してみよう【死霊術】…『ボーン・アサルト・リボーン』!」
地面から大量のスケルトンが出現し、乾いた骨の群れが一点を目指して波のように押し寄せる。一面が白一色なので白波とでも言うべきか、先に召喚した黒子豹は直ぐに白波に飲み込まれている。
「ギゥィ!?」
頭を振り回していたアースワームの腹を無数のスケルトンが攻撃する。
スケルトンは特に武器などを持っている訳ではないが、人、モンスターの骨であるスケルトン達は角や歯を武器の様に使ったり、中には体当たりを繰り返す個体もいる。
多様なスケルトンから次々に攻撃を受けたアースワームの驚声が響き渡る。
「はは…すごい威力だ」
これが【死霊術】本来の力である数を象徴する『ボーン・アサルト・リボーン』だ。【下僕召喚】では個体を一体一体召喚していたが、【死霊術】は集団を一体としてとして召喚する。一つの行動のみを忠実つに行うので、応用力は低いものの強力な効果が期待できる。
アースワームが激しく身体をくねらせ、骨の波を押し返そうと揺れ動く。
「…MPがキツイな『ダークピッド』!」
『ボーン・アサルト・リボーン』が持って行った威力に見合ったMPを取り戻すべく、アースワームへと真っ黒なスポイトを差し向けた。
「ダメか…いや、完全に効かない訳じゃないか」
アースワームに向けた放った『ダークピッド』ほとんどを弾かれてしまった。刺さった少数のスポイトから吸い出されたMPが、ジンに注がれるも二度目の『ボーン・アサルト・リボーン』を放てるほどの回復効果は得られない。
「スケルトンが足止めしている間に魔法で削るしかないか『ダークランス』『ダークランス』『ダークランス』」
アースワームが倒れるまで『ダークランス』と『ダークピッド』を併用した。途中乱入したモンスターにはヒヤッとさせられたが、黒子豹が対応してくれなかったら、魔法を使う暇がなくもっと時間が掛かっていただろう。
≪種族、職業レベルが上昇しました。種族、スキルポイントを獲得しました≫
「お、久しぶりのレベルアップか…」
魔法を連発した戦いであっただけに【闇魔法】を筆頭に使用したスキルの成長が見てとれた。ダンジョンの中で危険なのは間違いないのだが、目標は攻略という事もあって護衛を召喚したモンスター達に任せてステータスを振り分けた。