統括者の装備
ドワーフの国と名を打つだけあってか鍛冶師の数は多く、職人に対する鍛冶場の数が足りない程だ。それでも見習鍛冶師達の練習場所、国中を行き交う鍛冶師に提供される鍛冶場は確保されていた。
受付のおばさんに鍛冶場の貸出料金を払いながら不思議そうにしていると、国中を行き交う鍛冶師がどの様な存在なのかを教えてくれた。
職人としての拘りから自分の鍛冶場を飛び出して、素材を探しに旅に出た鍛冶師。
自分で打った斧の切れ味を試したくて店を飛び出した鍛冶師兼戦士。
武器と楽器の融合を目指して旅に出たハープ奏者兼鍛冶師。
おばちゃんは笑いながら「拘りが強いほど変人に磨きが掛かるのかねぇ?」と言っていたが、愛想笑いでやり過ごした。
受付をやり過ごし、借りた個人鍛冶部屋のテーブルに素材を乗せる。部屋を借りに来る前にレシピに書かれている素材は、クエストで稼いだコルで買い集めた。
レシピを取り出し、火の入った炉の前に腰を下ろす。高熱を吐き出す炉の中に『臭い水』『変色した土』『色あせた灰』『風の残滓』を投入する。
「ランクの低い順番にアイテムを投入する…『色あせた灰』から『臭い水』『変色した土』『風の残滓』っ…お!?」
色あせた灰 素材 ランク7 品質A
倒れたファイアーゼブラが最後の力を振り絞って、自分の尻尾を燃やした後に残る灰。
臭い水 素材 ランク8 品質B+
ウォーターバックが放つ水魔法の名残。不愉快な匂いがする。
変色した土 素材 ランク12 品質C+
アースリックスが放つ土魔法が乾いて変色した物。
風の残滓 素材 ランク15 品質A+
折れたトライデントエアービートルの角に風の力が僅かに宿った。武器防具に留まらず、様々な用途に利用される。
順々に素材を投げ入れると炉の火が大きく燃え上がり、時おりバチ、バチと炎が音を立てて弾ける。炎の揺らぎが収まり、火が素材を投入する前の状態に戻ったかと思うと炉の放つ光が黄緑色に変化してゆく。
「火事の前に炉の準備が費用なのは、面倒だったな。次は制作装備の選択だが…」
軽装、重装、魔法系から更に頭、胴、腕、腰、足、靴と細かい防具部位が分けられており、そこからアクセサリーも作らねばならない。
「俺の戦闘スタイルなら、軽装か魔法装備。接近戦を考えると軽装か…頭から作っていくか」
軽装の頭部防具は、サークレットと呼ばれるリング状の金属防具だ。使用する素材は、『統括者の鋼』を使う。この統括者の鋼は珍しいドロップ品では無かったが、発見される事が珍しいレアモンスターのドロップ品であった為に、統括者の鋼が大量に必要な統括者装備を作る上で一番の金食い虫になった。
統括者の鋼 素材 ランク20 品質C
全身を黄金で固めたゴールデンハムスターの肋骨。黄金を統括する鋼の強度を持つ事から、統括者の鋼と呼ばれている。
「…っんと!」
久し振りの鍛冶に悪戦苦闘しながらも出来上がった一品は、炉から漏れ出る光に当てられて鈍色に輝く。
「サークレット…完成っ!」
一直線を丸めた様なシンプルな形状をしたサークレット。額を覆う部分から上に向けてぽっかり開いたスペースと、そこから伸びる空色の直線。
必要な技能が鍛冶スキルだけであった事が幸いし、品質は期待した以上の出来になった。ダンジョンで装備品の交換がなければ続投で装備し続ける事になるので、出来が良いに越したことは無い。
幸先が良いと他の装備の制作に取り掛かるが、革や布を取り扱う皮革、裁縫スキルのレベルが低く品質の低下を招いた。幸いと言うべきか、品質の低下で影響を受けるのは耐久度だけであった。とどのつまり、壊れやすくなるが性能が落ちることは無いという事だ。
「んー…クエストで多少はスキルのレベルが上がってはいたけれど。あんまり結果は芳しくないなぁ…」
制作しているサークレット以外の防具は、全て革を素材として要求している装備。鍛冶スキルや道具スキルが補助の役割を果たしたと言っても、要求されているスキルレベルに届いていないのだから焼け石に水だ。
鍛冶場に缶詰になって数時間。
「ふぅー……出来たぁ」
レシピを見ながら手を動かしては、間違えてはいないかと動きを止める。小学生の頃に買ってもらったプラモデルを組み立てている時の感覚に似ていたが、かかる工数は比べるまでも無かった。
ウォーターバックの『臭い水』にファイアーゼブラの『色あせた灰』を混ぜてファイアーゼブラの革に塗ったり、ゴールデンハムスターの『統括者の鋼』にアースリックスのドロップ品である『変色した土』を混ぜて焼き入れたり、トライデントエアービートルの『風の残滓』の加工要求レベルが高かったりと自分で予想していたよりも時間が掛ってしまった。
完成した装備を並べながら、やはり品質の低下は免れなかったと独白する。
統括者のサークレット 頭 ランク5 耐久値2500 品質B
体力+10 精神+5 知力+15
古くは鉱山の統括者である領主が身分の証として身に付けた冠。額を覆う空座には、鉱山から産出された宝玉が鎮座する。
統括者のスケイルライトアーマー 胴 ランク5 耐久値5100 品質C+
体力+40 俊敏-10 打撃ダメージ軽減(小)
鉱山にでの落石を受け流す為に作り出された希少金属の鱗に覆われたスケイルアーマー。
統括者のライトガントレット 腕 ランク5 耐久値2900 品質D-
筋力+10 体力+25 器用-10 俊敏-5 火属性耐性(小)
ファイアーゼブラの革を下地に統括者の鋼を装甲としてコーティングしたガントレット。火の粉を払いのける力がある。
統括者のリザードベルト 腰 ランク5 耐久値3600品質D+
体力+5 器用+15 精神+5 知力+5 運+8
嘗て幸運の導き手と言われた魔物の似姿を模したベルト。
統括者のボトムスケイル 足 ランク5 耐久値3600 品質E+
体力+5 器用+10 精神+10 知力-15 打撃ダメージ軽減(小)
鉱山での移動し易さと安全性を兼ね備えたボトムス。腰から膝まで伸びた金属製の鱗が装備者へのダメージを軽減する。
統括者のロングブーツ 靴 ランク5 4000 品質F
体力+5 器用+10 俊敏+15
風の装備を参考に坑道内で素早く安全に行動する為に考案された。素早く動け、風の力で空気を確保する。
品質の低下で大幅に性能と耐久値を低下させた装備もチラホラあるが、今までの装備と比べ物にならない性能を持っている。
これは装備を作ってくれたウコン、サコンの腕が悪いのではなく、素材やレシピの恩恵をガッツリ受けている結果だ。
「装備、装備…ん?」
≪統括者シリーズの装備を確認しました。称号を授与します≫
≪称号『鉱山の統括者』を獲得しました≫
≪称号『鉱山の統括者』は統括者シリーズの装備品を装備している場合に限り有効になります≫
「あー、セット装備効果か!」
どうして防具名にまで執拗に統括者が付いて来るのかと思っていたら、セット装備効果を適用する為だったのか。
「…セット装備効果なら悪い事は起きないだろうし、さっさと装備するか…許容できないデメリットだったら装備を外せば良い訳だしな」
今まで装備して来たアクセサリーは共存が出来るから、残したい装備も無い。
「あっと…ポーチは腰装備だったか。まぁ仕方ない」
ポーチは戦闘中にポーションを使用が可能になる装備。回復魔法などがあれば良かったのだが、取得条件が厳しいのかツバキちゃん以外にスキルを持てっいる人の話を聞いたことが無い。
「さぁて、どうなったかな…ステータス!」
名前 ジン
性別 男
種族 夜行族Lv3
職業 ネクロマンサーLv3
HP 232
MP 180
筋力 40+20(60)
体力 40+90(130)
器用 40+25(65)
精神 39+39(78)
知力 40+12(52)
俊敏 33
運 40+8(48)
種族ポイント 0
スキルポイント 30
グリモワール 収録の魔道書 (グロノス)
武器1 フィルカーズ・サイス
武器2 ピーターの杖
頭 統括者のサークレット
胴 統括者のスケイルライトアーマー
腕 統括者のライトガントレット
腰 統括者のリザードベルト
足 統括者のボトムスケイル
靴 統括者のロングブーツ
アクセサリー 旅人のマント
アクセサリー 地竜の腕輪
アクセサリー
「うわぁ」
基本ステータスに+して(合計値)と表記される。装備で増えたステータスはHP、MPに影響を与えることは無いし、別段筋肉がムキムキになる訳では無い。このステータスの+は筋力なら攻撃力に、体力なら防御力に加算される。
「もしかして、みんなこんな性能の装備を持っていたのか?」
元々の種族の特性でどんな攻撃を受けても一撃死になってしまっていたから、防具が後回しになっていた。このレシピを手に入れたのは、闘技大会の前だった。もし大会で勝ち進んでいたのなら、勝利の可能性は殆どなかっただろう。
「股や脇、関節部位に鱗がないのは助かったな。落石の衝撃を流す性質上、一部の鱗は固定が変わってて、毛が逆立つみたいに鱗が可動するからなぁ」
もし内股にでも鱗があったなら、ただ歩くだけでも不便していただろう。鉱山の統括者ならば貴族や豪族であっただろうから、馬に乗っての移動も考慮されたのかも知れない。
改めて装備した統括者シリーズに目を見やる。
先程まではパーツ単位で見ていた物が、全ての装備した上で全身を見ると印象がまるで違う。
額を覆う空座を頂く銀の輪を突き抜ける空色の円。
両肩から肘まで伸びた金属製の鱗に包まれた柔軟な外装《鎧》。
関節の動きを阻害しないよう金属の装甲を盾の如く纏った戦士の手袋
上下を隔てる鈍色の大蛇
銀色の鱗に覆われた死角外の守護者
風を呼び風を纏いながらも染まらぬブラウンの支柱
全ての装備を纏った姿は全身の殆どを鱗に覆われ、その一枚一枚が水面が波打つ様に光を反射する。
「身動ぎしただけで音が鳴るのはデメリットかな…でも代わりに高い防御力がある。進化前なら怖くて装備出来なかったところだ」
ダンジョンの場所が分かり、装備も整った。これで心御なくダンジョンに挑む事が出来る。
貸し鍛冶場を後にすると、その足のままダンジョンのある王都クロバクを目指した。