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グリモワール・オンライン  作者: 灰猫
七つのダンジョン編
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クロバクの冒険者ギルド

 大きな両開きのドアを開けば、冒険者たちの賑やかな声で満たされた冒険者ギルドの中を見渡せる。

 部屋の奥に並ぶ、三人の受付とカウンター。カウンターの向かいに立て付けられた掲示板には取り残された数枚の依頼用紙が張り付けられている。

「この時間にしては、ギルドに冒険者が残っているものなのね」

 ギルドを見渡した母が、ぼそりと呟いた。

「もうお昼を過ぎているのです。依頼を終わらせた冒険者がギルドにいても不思議ではないのです」

 そんな母の何気ない疑問に答えたのは、小柄ながら冒険者の一人である妹の楓であった。

「それじゃあ、私はダンジョンについて聞いてくるわね」

 姉の固定パーティメンバーの一人で、ロクに人と話が出来ない姉に変わってパーティの交渉役を務めるユンは、返事を求めず一人早々と受付に進んだ。船旅に飽き飽きしていた様子のヤッパ―もユンの後ろをついて歩き出す。

「わ、私たちは座って待ってようよ…」

 持ち前の人見知りが遺憾なく発揮された姉のナナは、ギルドに併設されている酒場の丸椅子にちょこんと腰を下ろした。

 木製の円形の形をしたそれは、今や空想の物語でしか見る事が叶わないであろう表面が不揃いな凹凸のラウンドテーブルである。

 姉の勧めに従って丸椅子に座る。先に受付へと情報収集に出かけた二人を除いて、残った六人でテーブルを囲む。

「ふー、座れたら何だか安心しました!」

「ふふふ、そうですね」

 オトネちゃんはテーブルに突っ伏すると、彼女の頭を優しく撫で、ツバキちゃんは労いの言葉を掛けている。

「それで向かうのは火のダンジョンで良いのよね?」

 半日程の船旅で打ち解けたのか、姉は二人に対して自分から話しかけられるようになっていた。

「火のダンジョンがあるから、クロバクに来たんだろう?」

「そうなんだけど、地のダンジョンもクロバクにあるみたいなの」

「地のダンジョンが?」

 ダンジョンが知れ渡る切っ掛けになった地のダンジョン。他のプレイヤーが攻略した事が分かっているし、どうせ向かうのなら事前情報の少ないダンジョンに行きたい。

「お母さんは、休憩が終わったらお父さんの所に帰りますからね」

「そんなの分かってるわよ」

 学校に車で迎えに来た親の様な会話は自宅でやって欲しい。

「兄上、私たちは別に地のダンジョンからでも問題ありませんが…」

 隣に座っているカエデが、恐る恐る口にする。

「俺だってそうだよ。できれば火から挑みたいけど、どうせ他のダンジョンにも潜るつもりなんだし」

 カエデの意見に同意していると、話し声が聞こえていたのか戻って来たユンが口を開いた。

「それは丁度よかったわ」

「あのドワーフも面白いこと考えるよな」

 続けて何かを話そうとしたヤッパーを片手で制止し、空いているテーブルから丸椅子を引き寄せると不機嫌そうに座った。

「何があったんですか?」

「何っていう程のことも無いわ。ただ最近は依頼も受けずに、ダンジョンが目的で集まって来る冒険者の愚痴を聞かされただけの事よ」

 それだけの話よっと一息で言い切ると、不満そうな顔を浮かべる。

「それでね。受付のドワーフが言うには、冒険者が好き勝手ダンジョンに入らない様に対策を考えたの」

「火のダンジョンに潜りたいのなら、先に地のダンジョンを攻略して見せろ」

 ユンの言葉を遮って、ヤッパーが下手な声色で話始めた。

「だが地のダンジョンに入りたけりゃ…ギルドの依頼を幾つか解決して、大事なダンジョンに入れても良いと思われるだけの信用を築くんだなっ!」

「って言われたですか?」

 突っ伏した体勢から顔を上げたオトネちゃんが声を掛ける。

「ええ…何でダンジョンに入れたくないのかも聞いて来たわよ」

 ユンの説明に由ると鍛冶生産品を経済の柱とするクロバクにとって、鉱石や木材を絶やすことなく供給してくれるダンジョンは国にとっての生命線なのだと。採取した素材アイテムを国内で換金されるのなら、ドワーフ達は生産活動に集中する事が出来るが、国外の組織に販売されると国にとっても打撃を受けるという事だ。

 プレイヤーが素材を手に入れれば、生産職に回そうとするのは正常な行動だし、使えないと言われればその時にいた町で適当に売ってしまうだろう。

「特に今はアメシスト帝国の事があるからね」

「…そうです」

 今は旧カルセドニー領土に掛りっきりで、他の国と事を構える余裕はないとは思う。それでも大陸中の国がアメシスト帝国の動きを巡って、緊張状態にあって警戒を強めている。当然、武器や防具の材料となる素材は渡したい訳がない。

「それで、依頼を受けるんですよね?」

「ダンジョンに潜りたいなら、受けざるを得ないでしょうね」

「それならダンジョンに挑めるようになるまで、別行動しませんか?」

 真剣な瞳でテーブルを囲む俺たち全体を見つめながら、ツバキちゃんがそんな提案を言葉にした。

「貴方からそんな提案を聞かされるなんて、思ってもみなかったわ。…でも、私も似たような提案をするつもりだったのよ」

「おい、ユン…どういうことだ?」

 思いも由らない話だったのだろうヤッパ―は、素直に疑問を声に出した。

「ダンジョンに入れないけど、大体の場所からどんな地形なのか予想できたわ。地のダンジョンは洞窟。そして火のダンジョンは火山。私の提案は…ここでパーティ別に解散することよ」

 言葉を発さぬ沈黙の中、ユンはそう言い放った。

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