鉱石の街『アーロック』
昨今ブックマークがガンガン減っている頃、皆さん如何お過ごしでしょうか?
活動報告の方にも書かせていただきましたが、こちらにも改めて記載いたします。
今まで読んでいただいた読者の皆様、今作品は第一話から全話の編集を行いました。
話の流れが変わっていたり、新しい登場人物が登場したりしている為、最初からの読み直しを推奨しております。
また番外編に関して、手付かずの部分がありますことをご報告申し上げます。
アーロック。それはビット族の国『ネリアン』との国境沿いに作られた町だ。地図で言うとカルセドニーから東に進んだ場所にある。
国境の町とも呼ばれ、ネリアンからの輸入品を国内に受け入れる玄関口でもある。
そしてアーロックは別名、鉱石の町とも呼ばれる。
「生産プレイヤーが挙って移動したがる訳だ…」
鉱石とは当然ながら、インゴットの材料や装飾品に使われる。ゲーム視点で見ると一次生産は、農業や漁業以外にも採取や採掘。二次産業は木工、鍛冶、調薬、細工と分岐していく事となる。第三次生産は、商業や労働だ。
当然ながら、木を切り倒すにも宝石を削るにも道具が必要だ。素材が集まるのだから、当然のように生産行動が盛んに行われる。必然的にそんな生産用の道具を求めるプレイヤー達が集まって来るという訳だ。
「とは言え…どうするか」
現実でもそうだが、初めて訪れる町や国なんかはどうしても不安な気分になる。
一先ずは、手に入れたグレイウルフの素材を装備品として再利用したい。あれだけ手を焼く相手だ。良い防具になってくれるだろう。
「あっと…ステ振りもしないとな」
ドロップアイテムの確認とステータスの割り振りが最優先事項だ。
「いらっしゃいませ。御一人様ですか?」
「ああ」
近場にあった何の店かも不明な店に入店する。チラッと見た看板には、猫の肉球が描かれていたような気がしたが、一人静かに座れればどんな店でも構いはしない。
「ではお席の方へご案内します」
店員の後ろを静かに付いて歩いき、案内された席に腰を下ろす。
「こちらメニューとなります」
キャットカフェ本日のメニュー。
「…」
猫カフェだったのか。
「…ケーキセットを」
「かしこまりました」
注文を済ませると店員の女性が、メニューをサッと閉じ厨房があるのだろう店の奥に歩いて行った。
注文したケーキがテーブルに届く前に、グレイウルフのドロップアイテムを確認しよう。
狼肉(小) 食材 ランク2 品質C
ウルフ系モンスターの肉。筋が多く硬い。
狼肉(中) 食材 ランク5 品質C-
ウルフ系モンスターの肉。筋が多く硬い。
グレイウルフの毛皮 素材 ランク5 品質A
グレイウルフの毛皮、多くは防寒具に使われる。
グレイウルフの牙素材 ランク6 品質A
グレイウルフの牙、矢の先端や鉱石と混ぜて鍛冶に使用される。
「ふむ」
一番品質の良いものをピックアップして見た。
肉は一日経っているから、品質が落ちているのは仕方がない。だが毛皮と牙の品質が高すぎる。
「あ…【解体】か?」
俺のグリモワールであるグロノスの保有するスキル【解体】が頭を過る。てっきり建物を破壊できるようになるスキルかと思っていたのだが、もしかしたらドロップアイテムの品質を上げたり、個数を増やす効果があったのかもしれない。
解体 補助 アクティブ
スキルレベルが高いほど、モンスターから品質の高いアイテムをドロップしやすくなる。
間違いない。こいつが原因だ。
「確かグリモワールのスキルはレベルが存在しないんだったよな」
以前掲示板で、【採取】スキルを持つプレイヤーの話を聞いた事がある。グリモワールの能力に【採取】を持つそのプレイヤーは、他の生産者と同じように薬草の採取を行っていた。そして時折、採取したアイテムの中にランクの高いアイテムが混じっていたという。
そのエピソードが広まるとある噂が流れた。
グリモワールの持つスキルはレベルが最大値で固定されているのではないか?と。
「噂が正しかったのか…或いは」
もちろん、他にも可能性はある。
一緒に戦っていたドーンのドロップアイテムが、俺のインベントリに送られていたのではないかという可能性だ。
まぁ、悩んだところで解決はしない。
品質が高いアイテムが手に入って、ラッキー程度に捉えて於こう。
「お待たせしました。蕾の芽吹くいちごのショートケーキと当店オリジナルブレンド、そよ風の誘惑で御座います」
店員さんは一礼するとクルっと半回転して、店の奥に戻って行った。
「無駄に凝った名前のケーキと紅茶だな…」
イチゴのショートケーキは、甘味に手を出しにくいオッサンでも知っているメジャーなケーキだ。ケーキとしては基本のスポンジケーキで、イチゴとクリームのバランスが腕の見せ所と言った所だろうか。
さてこの店の蕾の芽吹くいちごのショートケーキは、それがスポンジケーキである事以外は、イチゴのショートケーキとは全く別の姿をしている。
まず違うのは、ケーキ自体がドーム状の半球体な点だ。これはホールケーキから切り出した物ではなく、これ一つ一つを別に焼いている証だ。そしてケーキの顔となるいちごは、まるで蕾が開く一瞬を切り取った様に見える様に配置されている。花びらの一枚一枚が薄く切られたいちごで出来ている。形を崩さずに、これだけ綺麗にできる物なのかとその技術力の高さに驚く。
いちごとケーキを繋ぐ役割を担っているのは、そのケーキに描かれていた緑色をしたチョコレートだ。チョコレートが緑色なのは、花を支える葉など植物としての緑を表現しているのだろう。
「美味い」
見てくれだけのケーキではない。
スポンジの中に隠れていた二種類のクリームが、口に広がる瞬間に確信した。これは美味いと。
「ごクリ」
セットメニューに付いてきた紅茶は、決して付いてきたものでは無かった。
相棒だ。
この紅茶はこのケーキと背中合わせに俺の口内を美味で埋め尽くす先兵だったのだ。
「…ステータス」
美味しい物を食べると言うある種最強の娯楽を堪能した後は、元々の予定通りステータスの割り振りをする。
今回はレベルが2も上がったので、進化できるかと期待していた。だがまだ先は長い様だ。もしかしたら進化が不可能な種族の可能性もある。他に夜郷族を引き当てたプレイヤーの話を聞かない以上、進化可能な種族である事を祈るしかできない。
名前 ジン
性別 男
種族 夜郷族Lv17
職業 死霊使いLv17
HP 160
MP 119
筋力 30+15(45)
体力 30+19(49)
器用 26+9(35)
精神 28+9(37)
知力 30+7(37)
俊敏 27+3(30)
運 27
種族ポイント 0
スキルポイント 40
グリモワール 収録の魔道書 (グロノス)
武器1 フィルカーズ・サイス
武器2 ピーターの杖
頭
胴 クランブルアーマー
腕 グランブルガントレット
腰 旅人のポーチ
足 グランブルレガース
靴 旅人の靴
アクセサリー 旅人のマント
アクセサリー 地竜の腕輪
アクセサリー
所持金 12870コル
スキル
武器スキル 【大鎌術Lv10】【杖術Lv3】
魔法スキル 【風魔法Lv5】【土魔法Lv5】【闇魔法Lv9】【呪魔法Lv5】
【下僕召喚Lv9】【召喚魔法Lv5】
生産スキル 【鍛冶Lv3】【木工Lv2】【調薬Lv1】【皮革Lv1】
【調理Lv1】【道具Lv1】
補助スキル 【魔書術Lv9】【採取Lv1】【採掘Lv1】【伐採Lv1】
【鑑定Lv3】【識別Lv4】【召喚Lv2】【罠Lv2】
【幸運Lv3】【剛力Lv3】【巧みLv3】【速足Lv3】
【気配察知Lv5】【魔力察知Lv3】
固有スキル 【有形無形Lv7】
称号『始原の魔道』『絶望を乗り越えし者』『ゴブリンキラー』『漫才師の勲章』
『恐怖を知る者』
収録の魔道書
名称 グロノス
階級 第86中階位
タイプ 万能
能力 【コレクションカードLv4】【カード化】【魔物図鑑】【解体】
【召喚魔法】【販売】
今回振り分けたのは、筋力と体力そして俊敏だ。
ジョナサンの依頼で俺は死にかけた。システム的な太陽の下での一撃死じゃなく、戦闘中の備蓄ダメージでだ。
防御能力は行動と装備依存だが、HPやMPは振り分けたステータスで変動する。装備の方は【鑑定】を掛けても詳しい防御力なんかは表示されない。掲示板では装備のランクや耐久度が関係しているのではないかっと話し合っていたが、恐らくAIの担当だろうから運営も理解してない可能性がある。
やっぱりソロで活動するなら、ステータスは平均的に伸ばすに限る。
一番嬉しかったのは、スキルレベルの大幅レベルアップだ。大鎌術がついに二桁台になった。これで流石に大鎌初心者は卒業だろう。
もうやりたい事は終わったと席を立つ。
「…お会計」
そこまで大きな声では無かったのだが、声が聞こえたのだろう店員さんがテーブルまで小走りで駆け寄ってくれる。
「はい、1200コルになります!」
大変満足したケーキセットの料金を精算する。
「ありがとうございましたー!」
店を出てすぐにケーキの味が舌の上に蘇るが、ケーキの誘惑を振り払う様に歩き出す。
「次はギルドに顔を出すべきだな…」
全ての情報はギルドに集まる。
ジョナサンとドーンのお陰で、曇っていた目が真っ直ぐにこの世界を見られるようになった。
ギルドに行けば、また彼らと接触できるだろうか。