はじめてのあいさつ
「グリモワール・オンラインの世界へようこそ!」
何もない真っ白な空間に浮かぶ小さな妖精は、高らかに声を上げた。
俺がこのゲーム『グリモワール・オンライン』をプレイする事になったのは、姉の唐突な質問が原因はじまりだった。
「ねぇ仁、コレやらない?」
俺の前に掲げられたのは、本日クローズβテストが始まると宣伝している『グリモワール・オンライン』の広告チラシだった。
「姉さん、俺テスターの応募してないんだけど…」
面白そうなゲームが始まるというのに、それを応募期限を知らずにだらりと過ごした自分への当て付けかと思い異議を唱える。
「大丈夫よ。私が応募しておいたから、もちろん当選したわ」
異議申し立ては悪魔的な幸運によって、遥か遠くの彼方へと棄却された。
「えぇ…それで何時から?」
「えーっと13時丁度ね。世界初のVRゲーム…楽しみね?」
時計を見ながらワクワクと言った表情を見せる姉の顔を見て、文句を言うのも野暮と口を開くのを辞めた。
あと2時間。
「きっと驚くわよ。さ、お昼は早めにしましょう」
もう用は終わったとばかりに、台所へ小走りで走り出す。
「グリモワール…魔導書ね。取り合えずインストしないと…」
世界初のVRゲーム『グリモワール・オンライン』とこれからの長い付き合いを予感させる最初の1ページである。