謝罪のチャンス
笑いが収まるのを待って、正志は目の前の花瓶を持ち上げる。以前の二倍の筋力で岡田に向けて全力投球した。
「ぐはっ!」
花瓶はすごいスピードで飛んでいき、見事に岡田の鼻に直撃した。
鼻血をだしてよろける岡田教師。
『何をする!」
「ふふ。イジメを放置しておいて、何をするもないだろうが。これは俺なりの礼だよ」
岡田をせせら笑う正志。
「貴様……教師に向かって! 停学ものだぞ」
鼻を押さえて脅しつけるが、正志は恐れ入らない。
「停学? ハハハ……そんな次元の話じゃないんだが。なんなら体罰でも加えてみろ。教師という権力をふりかざさないと、怖くてケンカもできないのか? まあ、かかってきたら俺は遠慮なくお前を半殺しにしてやるぞ。いや、これからお前等全員生き地獄に叩き込んでやるんだがな」
正志はふてぶてしく挑発する。
その言葉に激怒した岡田が近寄ろうとすると、突然その足が止まった。
「なんだと。お前、……え?これは……何をした!!足が……動かない」
正志は立ち上がり、棒立ちの岡田を思い切り蹴り飛ばした。
壁にぶつかって動かなくなる岡田に目もくれず、正志はそのまま壇上にたった。
あまりにも異常な光景に、静まり返る教室。
「ふふ、次はお前たちに礼をする番だな。お前達は俺に対しての苛めをやりすぎた。だが寛大な俺は謝罪するチャンスを与えよう。このホームルームの5分はお前等にとって最も人生で大切な時間になるだろう」
冷たい笑みを赤べたまま、正志は続ける。
「その場で全裸になって、土下座しろ。それだけで今までの事は綺麗さっぱり許してやろう。本当に今まで俺にしたことを悪かったと思っているなら、なにも仕返しされないうちに謝ることができるはずだ。しかし、もし謝らなかった場合、一生に渡って生き地獄が続く。仕返しされた後の謝罪など、どれだけ後悔していようが結局は自己保身からくるものだから、俺は絶対に許さない。決めるのはお前らだ」
壇上から傲慢に言い放つ正志。屈強な教師を蹴り飛ばした時に一瞬静かになったものの、その言葉を聞いたクラスメイトが大笑いする。
「ナメクジがなんか言ってるぞ」
「とうとう狂ったみたいね」
「バカって言葉すら生易しいね」
弓を始めとするクラスの殆どが笑っている。
「どうやら、また病院に帰らないといけないみたいだな。今度は頭の方の病院にはいりな。俺が手伝ってやるよ」
工藤啓馬は立ち上がろうとするが、足が動かない。
「……え? 」
異変に気づきはじめる生徒達。座って足を動かすのはできるのに、立ち上がろうとすると足が動かなくなるのだ。
「え?」「立てない」「なにこれ。」「きゃーーーー!!」
大騒ぎになる一同。
「あと三分だぞ。いいのか?」
壇上で気持ちよさそうに笑う正志だが、誰も聞いていない。
ふざけんな。何したんだ、元にもどせと喚くクラスメイト。
しかし、ただ一人だけ動き出した生徒がいた。
「はやく……はやく謝らなきゃ!」
上田明。クラスでは成績上位だが、積極的にクラスに関わることはなく、あまり正志に対しても関心をもたなかった。
「ほう……一人は頭がいい奴がいたのか。このクラスは猿の集団だと思っていた。がんばれよ」
他の生徒は混乱して、正志に対して怒声を浴びせるだけで何もしてない。
「お前、後で覚えておけよ」
光利たちは粋がって無意味に脅しを続けるが、正志は取り合わなかった。
「お前等に後なんかないよ。あと1分だぞ」
全裸で土下座しているのは上田一人。あとは焦っているのみだった。
「タイムリミットだ」
時間切れを宣言する正志。クラスは異様な雰囲気に包まれていた。