兄への復讐
しばらくして、兄の正人が帰ってきた。
玄関が開く音を聞いて、澄美し脱兎のごとく駆け出す。
「正人兄ちゃん。お願い、助けて」
正人を見るなり、澄美は泣きながら抱きついて訴えた。
「おい!どうしたんだその顔は」
澄美の腫れた顔をみて驚く正人。
「ぐすっ・・バカ正志に殴られたの。止めてっていっても何回も・・」
大げさに泣き崩れる澄美。全身で正人に媚びていた。
「なんだって!とうとう妹を殴るようなクズになったのか!」
それを聞いた途端、正人はリビングに駆け込む。
そこには正志がソファーに座っていた。
「正人、帰ってきたか。まあそう怒るな。馬鹿で傲慢な妹に対しての躾さ。もっとも、あいつだけじゃなくて家族全員にしなきゃならんがな」
ソファーにふんぞり返っているたくましい男は、怒り心頭に達している正人をみてふてぶてしく笑う。
「貴様……本当に正志なのか? 」
弟のあまりの変わり様に驚く。彼は以前とまったく違ったたくましい姿をしていた。
「ああ。心も体も生まれ変わった。まあ血縁上は貴様の弟になるが、今じゃ意味がないな。もはや遺伝子から違う存在になったんだから」
クククっと笑うが、その顔は確かに正志だった。
「わけのよからないことを。それより、よくも澄美を殴ったな!」
いきなり正志に殴りかかる正人。
正志は笑顔を浮かべながら、余裕でかわした。
「!?逃げるな!卑怯者!」
さらに連続して殴りかかるも、指一本触れられない。まるで幼児がプロボクサーに殴りかかり、簡単にかわされるようなものだった。
「グッ! 」
バランスを崩したところで、足を引っ掛けられて転ぶ。額がテーブルにあたり、血が流れる。
「どうした、元兄貴。さんざん威張っていたお前がその無様な姿か」
正志が挑発し、後頭部を容赦なく踏みつけてきた。
「くそ!ばかな。お前ごときに」
あまりの屈辱に、正人の顔が憎悪にゆがむ。
「くくく……そうだよ。俺ごときに貴様はいいようにされているんだよ」
強い力で後頭部を踏みにじる。正人は屈辱にもだえたが、どうがんばっても体を起こすことができなかった。
「くそっ!」
「残念だなあ元兄貴。今の俺は生物の頂点に立っている。所詮玉遊びしかできない程度の小僧の動きなんか、止まってみえるぜ。そろそろお遊びはお終いにするか。ソウルウイルス侵入。人体プログラム侵蝕。命令、四肢停止」
正志が独り言を唱える。
「ふざけるな」
起き上がり、再び殴ろうとしたが、両手両足が動かなくなった。
「な・・なんだ。何をしたんだ」
「別に大したことじゃない。ソウルウイルスを侵入させて、お前の四肢の自由を奪った。今日からお前の両手両足は二度と動かないだけさ。将来有望なプロ野球選手候補から、タダの芋虫になったのさ。今後はお前が吾平家のお荷物だ。せいぜい寝転がって喚くがいい。アーーーッハッハッハ」
狂気の表情で笑い続ける正志。それを見ていた澄美が真っ青になっていった。
「い、いやーーーーーー!」
頼りにしていた兄が蹂躙されるのを見て、澄美は恐怖のあまり、部屋に逃げて閉じこもる。
(なに、なんなの? アイツは本当にあの正志なの?私達はこれからどうなるの)
恐怖のあまりベッドにうつぶせになって泣きじゃくる。
(だ、大丈夫。お父さんとお母さんが帰ってくれば、きっと叱ってくれる。今までだって、どんな事があってもかばってくれたんだから……)
必死に自分に言い聞かせる。今までどんな事があっても悪いのは正志で、両親は自分に味方して正志を怒鳴りつけてくれた。今までの経験にしがみつき、状況が変わったことを認めず、部屋の中で震えていた。