テロ再び
「もう、しんじゃいたい。弓はどんなに頼んでも許してくれないし……。どうしてこんな事になったの?」
この数日、京子は自室で立ち尽くしながら、ずっと意識は保っていた。
部屋の豪華な鏡に映る自分の姿は、緑色をした不気味な化け物であり、蔓や葉に覆われて一歩も動けない。
「上田さん……あいつにそっくりの表情をしていた。どうしてこんなことに……」
京子は心底正志を苛めて嘲笑っていた事を後悔していた。
「あのとき、裸になって土下座していればよかった……。いや、彼を笑ったりしなきゃよかった……。皆、自業自得って言ってる」
京子は改めて自分の愚行を思い返し、心から反省している。
実は彼女は現代っ子らしく、お嬢様だがネットを頻繁に利用していた。
そのネット上でも、京子を始めとする1-Aの者たちは叩かれ、嘲られている。
『自業自得』
『弓様を生贄にしようとした恥知らずに天誅!』
『吾平に復讐されて当然。苛めをして原因を作った奴等の顔写真』
どれだけ個人情報として規制されていても、すぐにネット上に晒される。
ネットという世界では、京子の美貌も金も権力も関係ない。
弓派からも正志派からも一緒になって攻撃される。
正志に行なった苛めが尾ひれをつけて拡げられ、京子は全人格を否定されていた。
「ここまで言わなくても……。こんなある事ない事いって。……でも、私が吾平さんにしていたことか……」
苛められる立場になって初めてわかる自分がしたことの醜さ。
少し前までは集団でいじめに走る事で、仲間からの同意と一体感を得られていた。
そのため、自分がしている事を悪い事とも醜い事とも思ってなかった。
しかし、逆に全国民から排除される事で、自分がしていたことが悪い事だったことを実感していた。
どれだけ言い訳しても、弱い面を見せても、謝っても誰にもかばってもらえない。
それはまさに以前正志が置かれていた立場と一緒だった。
「死にたいけど、指一本うごかせないから自殺もできない……。私はこのまま、一生罰を受け続けるのかな……」
「調子はどうだ?」
その時、不意に声をかけられる。振り向くと、明の姿があった。
「上田さん……。私を笑いにきたの?」
虚ろな目をして聞く京子。
「い、いや、そういうわけじゃないんだが……」
明も、京子のうつろな目をして哀れになってきた。
「いいのよ。あなたは吾平さんの部下になったんでしょ?だったら、ご主人様には従わないといけないもんね。何されても、あなたを恨んだりはしないわ」
空虚な笑みを浮かべる。
その姿をみて、さすがの明も背筋に冷たいものが走った。
「たしかに俺は正志様に共感して、『魔人類』に進化した。だけど、お前に対してはなんの恨みももってない。お前のお嬢様然とした様子、嫌いじゃなかったぜ」
頭をかきながらつぶやく。それを聞いて、京子はすこし笑みを浮かべた。
「ふふ。なら、お友達になれたかもしれないのに」
「仕方ないだろ。俺は庶民だったしな。絶対に振り向いてくれないと思っていたし。結局、勉強でしか俺は自分をアピールできなかったしな。お前からは無視されていたけど」
明は苦笑する。同じクラスにいながら話もしたこともなかった二人は、皮肉にも敵同士になって初めてお互いのことを話し始めていた。
「……私はあなたを、まじめなだけのガリ勉君だと思って興味なかったわ」
「苛められないように必死に優等生を演じていたなんだよ。正志様が苛められているのを目の当たりにしてな。いつ俺に矛先が向くか、心のそこでは毎日ビクビクしていた。俺はお前みたいに金持ちでもないし、権力も持ってない。容姿だって並程度だ。勉強というアドバンテージがなかったら、すぐに弱者扱いされて周囲から攻撃されるに決まっている。実際、小学中学と苛められていたしな」
明はほろ苦い笑みを浮かべていた。
「そう……あなた達は、私なんか及びもつかないほど厳しい世界を生きていたのね。私はお父様に甘えて……思い上がって……あなた方を庶民と見下して……」
いまさらのように京子は昔の自分を後悔する。
「お前が感じていることは、すぐに世間の皆も共有することになる。今から正志様の意思を継いだ俺たち『魔人類』が世界に対して反逆するんだ」
明は恍惚とした顔で、部屋のテレビをつける。
そこには緊急事件の放送が行われていた。
「明星高等学校に立てこもり事件発生!」
「暁学院にも全身黒尽くめの男が入り込み、生徒たちを人質にとっています」
「そのほか、20の中学・高校で事件が発生しています」
画面が切り替わり、それぞれの事件現場の中継が映る。井上学園で起こった正志によるテロ事件が、何倍にも規模を拡大されて行われようとしていた。
「これは……」
「さて、これから面白くなるぜ。魔人類たちの初陣だ!」
テレビの前で明は心から笑った。




