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責任転嫁

そのころ、残された1―Aの生徒の間で、醜い責任のなすり付け合いが始まった。

「だいたい、工藤君たちがやりすぎたからいけなかったのですわ。彼を完全に怒らせてしまいました。どう責任を取るおつもりですか?」

井上京子が上品な顔に血管を浮かべて、男子生徒を責め立てる。

「うるせえ。お前達こそ、アイツをバカにしていたぶってたじゃねえか」

工藤啓馬を代表といる男子たちも負けずに反論した。

「私達は皆でお話していただけでしょ。あんた達みたいに殴ったりしてないわよ。あいつがあんな事をするのは、あんた達のせいじゃない」

椎名弓が言い返すが、啓馬たちはひるまなかった。

「はっ そんな事言うなら、幼馴染のお前に責任があるだろ。お前が冷たくしてたから、あそこまで怒るようになったんだ。お前こそ、率先してアイツの悪口を言ってたじゃないか。皆知ってんだぜ。俺たちは最初にお前が悪口を言いだしたから、あいつを苛めてしまったんだ。つまり、巻き込まれた被害者さ」

島田光利が弓の痛いところをつくと、同調する生徒が現れ始めた。

「そうよ。あんたのせいよ!」

日岡里子が同意する。いつもは明るいスポーツ万能少女が、限りなくにごった瞳をしていた。いつもは弓と仲が良いが、今は親の敵のように弓を睨んでいる。

「……とりあえず、椎野さんが謝ってみては? 幼馴染なら彼も許してくれるかも」

山崎理沙が相変わらず猫なで声で弓に頼む。

「いやよ。あんな奴に謝るなんて、死んでもいやだわ!」

弓は憎々しげに言うが、クラスの皆は冷たい目を向けている。

「だったら仕方ありませんね……。島田くんが言うとおり、小さい頃から弓さんが彼を苛めてきたから彼の堪忍袋が切れたんですよ。もう少し優しくしてたらこんな事にはならなかったと思います。このまま許してもらえないなら、貴女はクラスの皆を敵に回しますよ。もう誰も味方してもらえませんよ」

京子の声が冷たく響き渡ると、誰もが同意するようにうなずいた。

いつの間にか、スケープゴートに仕立て上げられる弓。

「み・・みんな」

焦った顔で周囲を見渡す弓だが、皆の冷たい目と合い、冷や汗が流れる。

「お願い……なんとかして。私、一生あいつの奴隷なんて厭よ。このままだったら生きていけないよ。助けて」

涙目で美香がいいつのる。顔は晴れ上がり、可愛い顔が台無しだった。

「なんとかしてもらわないといけませんね。正志さん、絶対弓さんのことが好きだから、優しくしてあげれば許してもらえますよ。お願します」

京子が微笑を浮かべ、無責任に弓に丸投げする。

「嫌よ。あんな奴。だいたい、私が頼んだって……」

「だったらお兄さんでも妹さんからでも頼んでもらうようにお願いしてよ。普段から家族同然だって自慢してたじゃない。」

里子が憎々しげに言う。普段は隠していた嫉妬心が表面に出ていた。

「だって……あいつ兄弟仲悪いし……」

「幼馴染なんでしょ。とにかく、あんたが一番責任があるのよ」

里子の言葉にそうだそうだと同意する声があがる。

新しく怒りをぶつける対象が見つかったので、皆が弓を憎んでいた。そうすることで自分が悪いという意識を捨て去るように。彼らはこの期に及んでも自分達は被害者で、すべて悪いのは弓だという思考に捕らわれて始めていた。


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