とどかぬ思い
「待って!」
振り返ると、涙を目にためている桃井と目が合った。
「なにか用か?」
「あの、岡田先生は確かに最低の教師だったわ。同じ教師として、あなたの苛めを気がつかなかったことを謝ります。彼にはキチンと責任を取ってもらうわ。だからもうこんな事は……」
「止めろとでもいいたいのかい?」
正志は桃井の言葉を途中で遮った。
「ええ。貴方の傷ついた心を私が癒してあげたいの。それが教師としての勤めだとおもうから」
そう言う桃井からは、確かに誠意が伝わってきた。
しかし、正志の中に湧き上がってきた感情は同情された嬉しさではなく、むしろ滑稽さだった。
「ぷっ……アッハッハッハ!やめてくれよ。俺を笑い死にさせたいのかい」
腹を抱えて笑う正志に、桃井は怒る。
「何がおかしいの!」
「さっきまで岡田の事を立派な教師だとほざいていた無能なアンタごときに、人の心をどうにかできるのか?どこまで思い上がっているんだ」
「くっ……」
そういわれて、桃井は何もいえなくなる。
沈黙した桃井に向けて、正志はさらに続けた。
「残念だが、俺には目的がある。復讐など個人的な楽しみにすぎん。アンタみたいなちっぽけな人間に出来る事なんて、何もないんだよ。それでも俺の助けになりたいというなら……」
「いうなら?」
「俺に魂を売ることぐらいだな」
正志は思い切り顔をゆがませて、傲慢に言い放った。
「魂って?」
「要するに、俺に従うってことだ。俺に一生服従して、全ての言葉に従え」
「なっ……」
それを聞いた桃井は絶句した。
『お前たちにも言っておく。俺に魂を売れば、救いの手を差し伸べてやろう』
その言葉はテレパシーとなり、全校生徒の脳に直接伝わった。
「ふざけんな!お前なんかに従うか!」
「そうよ!」
学校のあちこちから反抗する声が聞こえてくる。
『ふふふ……無駄な抵抗をすればするほど苦しむことになる。服従か死かだ。まあ、これからじっくりお前たちを苦しめてやろう。まあ、魂を売りたい奴は校長室にこい』
そういうと、正志は高笑いするのだった。
「さて、俺を崇める信者を集めるとするか」
そのまま教師達を置き去りにして、正志は放送室に向かうのだった。