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SFショートショート  作者: 夢想花
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雪 女

彼女は雪女だ、彼女の周りは、雪が舞い、何もかも凍らせてしまう、冬は山を雪で閉ざし、氷の壁を作る、彼女はもう何千年もこの山に一人で住んでいた。

彼女は今までに何回か恋をした、ふもとの村に住む若い男にひそかに憧れたことがあったのだ。しかし、彼女が近づくと男は寒さで凍ってしまい死んでしまうのだった。彼女の恋はかなわぬ恋であった。

今も彼女はふもとの町に住む男に恋をしていた、しかし、いつも遠くから男を見つめるだけで、今度こそは絶対に彼に近づかないと心に誓っていた。

男は山が好きだった、時々男は山に登ってきた、雪女にとっては恋しい男に少しでも近づける機会だ、しかし彼女が近づくと山は荒れ激しい吹雪になる。

男は吹雪の中を雪を掻き分けて進んでいた、山に入る度に吹雪かれてしまう、激しい吹雪で視界がきかず、崖からころげ落ち、足をねんざししまった。崖下は沢になっていて、戻るにはどうしてもこの崖を登るしかなかった、しかしねんざした足では登れない。男は崖下に小さな洞窟を見つけその中に入った。男は一晩ここで休んで、明日あの崖を登ることにした。

男は枯れ枝を集めて火をおこした、火を絶やさないようにしながら一晩過ごすのだ。

真夜中、急に吹雪がひどくなった、粉雪が洞窟の中まで吹き込んできて火が消えそうになる、男が火が消えないように枯れ枝をくべていて、ふと見ると洞窟の入り口に女が立っていた。真っ白な着物を着て真っ白な長い髪を腰まで伸ばしている、顔は真っ白な着物よりもさらに真っ白だった。

「雪女」男は思わずつぶやいた。

彼女は手に持っていた袋を地面に降ろすと、すっと向きを変え洞窟から出ていった、とたんに吹雪も収まった。

男は恐る恐る女がおいた袋を開けてみた、袋の中には寝袋やランタン、食料に燃料などが入っていた、雪女が男の自宅から持って来たものだった。

男は寝袋にくるまって横になっていた、まったく狐につままれたとはこの事だ、この寝袋は幻覚なのだろうか、さっきの女はいったい誰なのか、雪女なのか、なぜこんな物を持ってきてくれたのか、いくら考えても分からない、しかし、そのうち男は眠ってしまった。

次の日、多少足は痛むが、崖を登ることにした。しかし、男が崖を登り始めると激しい吹雪が始まった、急激に温度が下がり、男は仕方なくまた洞窟に戻った。

男が洞窟の中で座っていると、不意に粉雪が洞窟の中まで吹き込んできた、入り口を見ると昨日の女が立っていた。

寒さが体の芯まで染み込んでくる。

「君は・・・雪女?」

男はやっとのおもいで聞いた。

雪女はだまってうなずいた。

「なぜ、助けてくれるの?」

男が聞くと。

「怪我をして、大変だろうと思って・・」

雪女の声は氷のように澄んでいた。

「その足で崖を登るのは無理です、食べ物は私が持って来ます、だから、治るのをまったら?」

雪女は氷のような目で男を見つめる。

「そうだな、しばらく待つか」

男が答えると。

「これ、毛布です」女は包みを地面に置いた。

寒さで洞窟の中は凍りはじめ、たき火の火が消えかかっていた。

「また来ます」

雪女はそのまま洞窟を出て行こうとする。

「まって、」

男は雪女の後を追った、とたん体が凍るように冷たくなる、男は思わず手をちじめた。

「私のそばに来てはだめです、私に触ったら凍ってしまいます」

男がぼうぜんと立っていると

「それが雪女なんです」

雪女はそう言うと外へ出ていった。


その夜、また雪女がやってきた、男はちょうど火をがんがんにおこしたところだった。

「食べ物を持ってきました」

雪女は洞窟の入り口で躊躇している。

「どうしたの?」

「火を少し小さくしてくれませんか?」

男は、はたと思い当たった、なるほど雪女は火に弱いのだ。

「ちょっとまって」

男はたき火の中から小枝を何本か取り出し雪の中に突っ込んだ。

雪女は少しだけ洞窟の中に入って座った。

「私、熱い物に触ったら死んでしまうんです」

しかし、彼女が入って来ると洞窟の中は急激に寒くなる、男は毛布にくるまって寝袋に入った。

「寒いですか?」

雪女は聞く、男がうなづくと。

「私これ以上近づきません」

男は初めて雪女の顔をじっくりと見た、結構かわいい、目が鋭く冷たい表情なのだが、可憐な所があった。

「この山に住んでいるの?」

「ええ、ずっと、ずっと昔からここに住んでいます」

雪女は地面に落ちていた小枝を拾った、小枝はたちまち凍ってしまった。

「私、なにもかも凍らせてしまう、凍らなければいいのに」

その表情はすごく寂しそうだった。

「一人なの?」

雪女はうなづいた

「ずっと一人?]

雪女はまたうなずいた。

「そりゃ寂しいね」

しかし、友達になろうとは言えなかった、この寒さは命にかかわる、しかも寒さはそろそろ限界に近づいてきた、たき火の火は消えかかり、手の感覚はもうなかった。

「寒いんだが・・」

男は雪女が気分を害さないように気を遣いながら言った。

「あっ、じゃまた、明日来ます」

雪女は立ち上がると、さっと外へ出ていった。とたん、たき火が急に燃え出した。


次の日、足はもうほとんど回復していた、天候もまづまづ、男は崖を登り始めた。ところが急に吹雪が吹き始めた、気温も急激に下がり視界もほとんどなくなった。昨日と同じ、雪女のせいだ、男にも事情が分かってきた、雪女に気に入られたらしい。

男は雪に向かって話し始めた。

「ここから出してくれ、頼むよ、このままここにいたら、死んでしまう、それとも、それが君の望みなのか?」

雪女が近くにいる事は分かっていた。

「君が寂しいのは分かるが僕にはどうしようもない」

雪がややおさまり、雪の向こうに雪女が立っているのが見えた。

「たのむ、返してくれ」

雪女は首を横に振った。

「昨日、もうしばらくいるって約束しました」

「それは足が治るまでって意味だ、もう良くなってる」

雪女はしばらく黙っていた。

「崖を登るのは危険です、春になってから登ったら?」

「それは無理だ、この寒さでは長くは持たない」

「でも、崖は危険です」

雪女は男から離れたくない一心だった。

わがままをいう雪女に男はいらだった。

「やっぱり僕を殺すつもりなんだな」

「殺したりしません」

雪女は泣きそうだった。

「じゃ吹雪なんかおこすな」

男は言ってしまってから後悔した、雪女を怒らせるとまずい。

しかし、雪女はすっと姿を消してしまった。

それからは激しい吹雪が一日中続いた、男は洞窟で一日中じっとしていた。雪女を怒らせてしまった。


夜、また雪女がやって来た。

「あの、食べ物です」

彼女は袋を地面に置いた。

「僕をどうするつもりなの?」

男は聞いた。

「私が嫌いですか?」

雪女は消え入りそうな声で聞く。

「君はどうなの?僕が嫌いなの」

「いえ、嫌いなんて・・」

「でも、僕を殺すつもりなんだろう」

「殺したりしません、絶対です」

しかし、彼女の頭にはいままで殺した男達の顔が浮かんだ、今度こそ、絶対に近かずかないと誓ったのに、また今度も殺すことになるのか。

「でも、このままでは僕は死んでしまう」

男はふと手元にあったガソリンが入った缶が目にとまった、そうだガソリンをかけよう、ガソリンを雪女にかければ、ガソリンはたき火の火で引火して燃え上がる、そうすれば雪女は死ぬかもしれない、もちろん、しくじったらそれまでだ。しかし、なにもしなければ雪女に殺されてしまう。

男は何気ないふりをして、ガソリンをコップについだ、コップにガソリンをなみなみとついで、それを飲むふりをして持ち上げた、そして、一気に雪女にかけた。飛び散ったガソリンがたき火にかかり、燃え上がった。しかし、それは一瞬だった、雪女にかかったガソリンはたちまち凍ってしまい、燃えなかったのだ。

雪女は仁王立ちになって、ものすごい形相で男をにらんだ。

「私を殺そうとしたわね」

男は思わず後づ去った、もうだめだ。

雪女は男に近づいた、殺すつもりなどないのに、好きだからそばにいたいだけなのに、でも近づけば殺してしまう。

男は寝袋の中で身を固くしていた、あたりはものすごい冷気が包み、たき火は消えてしまった。男の横においてあるガスランタンだけがかろうじて燃えていた。

雪女はじっと立っていた、殺したりしない、絶対に殺さない、もう好きな人の凍った姿など見たくない、でも一度でいい、好きな人に触ってみたい、凍っていない人に触りたい、一度だけ、一生に一度だけでいい触ってみたい。

「キスしてくれたらあきらめる」

雪女は冷たく言った。

男は寒さでもう動けなかった、雪女はそっと男に近づいてきた。

男の横に座り、優しい目で男を見つめた、涙が浮かんでいた。そっと唇を男の顔によせた、唇が男の唇に触れる瞬間、雪女は左手で熱いガスランタンを握った。雪女は一瞬に粉雪になり、洞窟内に舞い散った、そして静かに床に降り積もった、もう雪女の姿はなかった。

たき火が再び燃え上がった、男は呆然としていつまでも

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