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SFショートショート  作者: 夢想花
2/5

魔 女

娘を連れて遊園地へ出かけた、そして暇つぶしに魔女屋敷に入った。

魔女に関するいろんなものが展示されている、どれも本当とは思えないような解説が付いている、その中に魔女のほうきが展示されていた。古いおんぼろだ、解説を読んでみると、飛べるかどうか試してみていいと書いてあった、もしあなたが魔女なら飛べるはずだと説明してある。

「やってみたい」7歳の娘がいう。

私は、ほうきを展示台から取り出して、娘に渡した。

娘は神妙な顔でほうきにまだがった、もちろん何事も起きない。

「やっぱ、だめかな」と私

しかし娘は真剣な顔をしてなにやらがんばっている。

突然「浮いた」と娘が叫んだ。

なんと、確かに足が床から10センチほど離れている。

まさか、私は娘がインチキをしているんだと思い、そのタネを探そうと娘の周りを1周した、しかし確かに浮いている。

やがて娘はほうきにまたがったまま動きはじめた、ゆっくりと滑るように前へ進んでいく。そして今度は上へ登り始めた、目の高さまで登り、やがて天井まで登ってしまった。

私はぽかんと口を開けて天井にいる娘を見つめるばかりだった。

やがて娘は私の所へ降りてきた。

「飛べた、飛べた、ね、ちゃんと飛んでいるでしょう」

私は返事さえできなかった。

「今度は外へ出てみていい?」

娘はほうきに乗ったまま通路を進んでいく、私は後を追った。途中で家族連れの横を通り過ぎた、なにかのショーだと思ったらしくおもしろそうにほうきに乗った娘をみている。

「まちなさい」私はやっと声がでた。

しかし娘は入り口から外へでてしまった、入り口の料金所の女性がびっくりして娘を見ている。

私は娘の後を追って外へ飛び出した、娘はかなりの速さで飛んでいる、高さもあっというまに屋根を超えてしまった。

「戻って来なさい」私は大声で叫んだ。

娘は100メートルくらい先の屋根の上でくるりと向きを変えると、こちらに戻ってきた、そして私の前でトンと降りた。

「すごーい、すごーい、すごーい」

娘はほうきを抱えてぴょんぴょん飛び跳ねている。

私はなにも考えられなかった。

やがて人が集まりだした、あまり話題になるといやなので娘を連れてその場を立ち去った、ほうきはそのまま持ってきてしまった。


数日後、娘を連れて人気のない山の中に来た。

あれから娘は家の中を飛び回っていた、テレビをみている私の頭の上を行ったり来たり、そしてアパートの窓から宙に浮いたまま外を眺めていた、もっと広いところを飛んでみたいのだ。しかし、町なかで飛んだらたちまち話題になってしまう、テレビなどが押しかけてくるのはごめんだ、そこで娘を連れて山の中へやってきたのだ。

「ここなら飛んでもいいよ、でも遠くへいっちゃだめ、それと高く上がるのもだめ、いいね」

娘はこくんとうなずくとほうきにまたがった、そして青空の中にスーと飛び出していった。

わたしたち夫婦は草原に座って飛び回っている娘を眺めていた。娘は楽しそうに、飛び回っている、最初は言いつけを守って近くを飛んでいたが、だんだんスピードを上げ、遠く高く飛びはじめた。

「楽しそうだなー」

「空が飛べるといいわねー」

実は私も飛んでみようと、あの日ほうきにまたがって試してみた、しかし、まったくなんにも起きない。娘にどうやるのか聞いてみたが娘にも分からないらしい、何時間も悪戦苦闘したが無駄であった。

娘が気持ちよさそうに飛んでいるのを見ると本当にうらやましくなる。

娘は時折私たちの近くに降りてきて、そして私たちの前を楽しそうに通り過ぎていく。

やがて今度は飛び回るのをやめ、近くにあった高い木の所で宙に浮いている。

「鳥の巣がある」

娘は茂みに分け入るとその木の枝の上に降り立った、高い所なので普通だったら危ないのだが、なんせ空が飛べるのだ心配ない、ところが突然娘が泣き出した。

「恐い、たすけて・・・」

「えっ、どうしたの?」

「ほうきが飛ばなくなった」

下から見上げると、娘は細い枝にしがみ付いている、ほうきをしっかり握っているがほうきは下へ垂れ下がっている。

「ほら、ちゃんとほうきに乗ってごらん」

下から指示する、娘はその通りほうきに乗った格好をするがほうきは浮き上がらないらしい。

「どうして飛ばなくなったの」

「ここ高いから恐い、ほうきで飛ぼうとしたんだけど、ほうき飛ばなくなった」

どうやら怖がっているとほうきは飛ばないらしい。しかたなく私が木に登った、娘を抱き上げ、何とか下まで降りてきた。

その日からほうきは飛ばなくなった。日をあけて娘が落ち着いたころ、何度も試してみたがまったく反応がない、そんなことをしているうちに2ヶ月が過ぎた。


私はほうきを魔女屋敷に返しにいくことにした。

魔女屋敷の主人は年老いた女性だった、私が事情を説明すると、

「飛ぶことになんの先入観もないときは 飛べるらしいんです」

彼女は意外なことを言い出した。

「私も子どものころほうきで確かに飛べたんです、でも飛ぶことを意識するようになったとたんに飛べなくなりました、無心で純粋に飛ぶことを楽しめると飛べるんですね」

私がほうきを差し出すと。

「この ほうきは差し上げます、ふつうのほうきですから」

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