短編小説・悪のカリスマ
不思議な短編小説です!
宜しくお願いします!
俺には名前はない。
戸籍というものがないからだ。
この世界には、のうのうと幸せに過ごしている人間もいれば辛い日々を生きている人間もいる。
俺が初めて悪に手を染めたのは食べるものが欲しかったからだ。
食べものを奪わなくては餓死してしまう。
死ぬよりは罪を犯す方がいい。
生きていれば、生きてさえいれば…いいことがあるんじゃないか。
罪を重ねていく事に罪悪感など無くなっていた。
どんな事よりも自分の命が大切である。
見つかり叫ばれそうになれば迷わずに手をかけた。
俺のように名前もなく戸籍もない人間に働く場所などない。
奪わなければ死ぬだけだ。
テレビを見ながら温かい食事を取る。
傍らには女性の死体。
テレビはドラマが放送されていた。
俺にも、こんな当たり前の幸せがあったのかも知れない。
涙を流した。
だがもう幸せなど手に入るはずなどない。
自分は殺す事でしか生きていけない。
銃を自分の頭に向けた。
引き金に手をかける。
「やっぱり…死にたく…ねぇよ…」
俺は死ぬ事さえ出来なかった。
女性の死体から血を指につける。
『killer』
死体の傍らに書いた。
自分では命を断てない。
誰かに捕まえて欲しかった。
誰かに裁いて欲しかった。
俺は生きる事が罪なのだ。
連続殺人犯として『killer』は追われる事になったが警察は彼の姿を捉える事すら出来なかった。
アメリカ中が恐怖した。
しかし次第に彼を崇める人間も現れる。
人は自分に成せない事をやってのける相手に対して憧れを抱く。
『killer』は一部の人間たちから悪のカリスマとなった。
『killer』は生涯、人を殺し続け80歳で人生に幕を閉じた。
その最期の顔は開放されたような幸せな顔だった。
警察は指紋や髪のDNAから彼を『killer』と断定したが生きているうちには捕まえる事が出来なかった。
彼は死んでやっと救われたのだ。
どうしようもない『悪』から。
彼にとって生きる事が罪であり『悪』だった。
悪のカリスマと一部から崇められた男が一番『悪』を嫌っていたのかも知れない。
読んで下さりありがとうございました!