表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギヴ アンド テイク for gals  作者: 月岡 愛
9/22

瞳のこと

逮捕後の瞳のことはまだ何も知らされてない。瞳の両親には警察から色々と伝わってるだろうが、私には、あれから全く音沙汰がない。


その後、どうしてるんだろう・・・


私にとって、瞳はお姉さん的な存在だ。いつも一緒にいてくれて気配りも良くしてくれる。そこそこ料理も出来て洗濯や掃除なども一人でこなす、まさに主婦、顔負けだ。

私の家に来ては、夕飯を作りお風呂に入り、泊まって朝、一緒に学校に行く・・・まるで姉妹のような関係だった。コンビニのバイト帰りにも、(店長からもらったんだ・・)なんて言っては、エクレアやティラミス、マカロンなどスィーツを差し入れてくれた。


これらのスィーツは店長がくれたものではなく、瞳が自分で買ってきてくれたものだと私は分かっている。 瞳も私と同じ、家に帰っても暗い部屋に灯りを点けなければならない。お互い待ってくれてる【人】がいないのである。女として、これほど寂しいことはない。 


だから瞳も、私と一緒にいたいのだ。バイト帰りでも学校帰りでも話す【相手】が欲しいのだ。そんな瞳を私は、傷つけてしまった。これが今回の事件になったと私は思ってる。


お互い毎日、一緒にいると時には少し離れて一人になりたい・・と思うことがある。そういうときに、うまく相手が距離を置いてくれると幾分、気分転換にもなりまた会いたい。という気持ちになる。しかし、この距離というバランスが上手く出来ないと劣悪な関係になりかねない。これが夫婦間でいう【離婚】という結果になるものなのだろう。


瞳と私の関係も似ている。瞳を夫として私を妻とすると、よく家のことをしてくれるのはいいが、たまには私がしたい。でもそれは拒否され、夫の気持ちに従わらずを得ない。ちょっと1人で出かけたいという気持ちを伝えると、夫と一緒でなければ外出もNG・・これでは妻が心底、参ってしまう。 まさにこの状態だったのだ。


その日は、1人で帰宅したときだった。瞳は学校で担任と面談があり私が先に下校した。久しぶりの1人での帰宅だったので帰りにちょっと寄り道をして川崎のラゾーナに行った。解放感もあってか気が大きくなり109シネマズで映画を見てしまい、帰宅が遅くなってしまった。帰りに雨が降り急ぎ足で帰宅したときには、21時を周っていた。


家に着くと暗い物陰に人がいる・・ 瞳だ。 屋根の下でかろうじて濡れないように身を寄せて待っていた。


(真行寺さん? どうしたの?こんな時間に・・)


(待ってたの!いっぱい待ったの。ずーと待ってたの・・・)


涙ぐんだ瞳を見たのは初めてだった・・


(とにかく入ろう・・)


私は瞳を家に入れた。


お風呂を入れて、温かいものでも飲もうとココアを用意し、先に瞳を入れてその間に私は明日の準備と寝る支度をした。 


(愛・・どこいってたの? メールしても返事がないし・・・)


(少し時間があったから川崎にいってたんだ・・)


(川崎?何しにいったの?)


瞳の干渉は、マジトークで鬱陶しい。でもそれを直に言ってしまえば関係は壊れる。女同士の付き合いは本当に難しい・・


(え?いや・・映画にね。)


(一人で?)


もう、いいじゃないか・・・1人だろうと3人だろうと。考えてみれば、瞳とは四六時中一緒。私も一人になりたいときがある。これだと出かけるのも瞳に伝えなければならないのか? もう限界だ。 ハッキリ言おう。


(真行寺さん・・私も真剣に進路を考えなきゃ・・真行寺さんは大学進学が決まってるからいいけど、私はまだ何もしてないのよ。だから、少し一人になり将来のことも考えたいんだ・・だから、お互いちゃんと決まるまで少し会うのは控えようよ。真行寺さんだって受験勉強があるだろうし・・・)


瞳は下にうつむいたままだ。顔色が変わってるのがよくわかる・・


(本気で言ってる?)


(ああ、本気。マジトーク・・・)


(バカ!)


瞳は涙ぐんで飛び出してしまった。


ちょっとストレート過ぎたかな、と思い翌朝、メールとLINEを入れた。

いつもなら、すぐに返信がくるけど、既読も返信もない。

学校にも登校しておらず、さすがに心配になり担任に相談。


(そうか・・でもすぐに収まるわよ。でも休みなんて初めてね・・それも無断欠席・・あとで先生も連絡してみるから。)


私も心配になり学校が終わったら瞳の家に行ってみることにした。昨日のことがかなり効いてしまったようだ。どう解釈すればいいか分からないが、とにかく瞳に会うしかない。


学校が終わり瞳の住むマンションに到着。インターホンを鳴らしても出ない。居留守か・・・入口はオートロックだから、誰か入らないと開かない。誰かが来るまで待つか・・

とその時、


(お姉ちゃん、誰か待ってるの?)


このマンションの管理人さんだ。


(あ、あの、同級生がここに住んでるんですけど今日、学校、無断欠勤なんです。だからちょっと心配して来たんですけど、留守のようで・・)


(上がってみるかい?ちょっと開けてあげるから。)


良かった。これで玄関まで行ける。

管理人さんにもついてきてもらった。


(玄関で鳴らしても出なかったら、本当に出てるかもしれないよ。)


(もし、そうなら諦めて帰ります。すいません、ありがとうございます。)


管理人さんと一緒に玄関でインターホンを鳴らした。 出てこない・・何度鳴らしても出てこない・・やっぱり出かけてるのかな・・


(いないようなので、これで帰ります。)


(お姉ちゃん、ちょっと待ちな。電気メーターが動いてるんだよ。もし留守ならこんなに早くメーターは動かないよ。エアコンやテレビなど点けっぱなしでない限り・・・)


何か胸騒ぎがする・・ おじさんのときもそうだったが部屋に突入してあの惨劇を目にした。もしかしたら・・・ 私はおじさんの事件のことを管理人さんに細かく伝えた。すると・・


(分かった。入ってみよう。でもね、これには警察にも連絡しなければならない。あとうちの管理会社にも。連絡して了解を得てくるから待ってな。)


管理室に戻り連絡をしにいってくれた。 了解を得て欲しい・・・


管理人さんが戻り、(お姉ちゃん、大丈夫だぞ。警察も次期にくるから。あとうちの管理会社の人も来るから。じゃ、開けるぞ)


瞳には悪いとは思うが、こういうときはしょうがない。


部屋に入ると中は真っ暗でカーテンも締めっきり。暖房をかけっぱなしなのかとても暑い。とりあえずカーテンを開け、暖房も止めて窓を開けて空気の入れ替えをした。 留守なのかな・・・部屋には誰もいる気配がない。思い過ごしだったのかな・・


部屋の中は結構、広い。瞳の部屋を入れると3LDKか。 リビング、浴槽、トイレなど、瞳はいない。あとは瞳の部屋だけだ。管理人さんも、


(恐らく、出かけたままかな? あとで報告書とこういう理由で部屋に入りました、という書置きを残しとくから。ま、この部屋にもいないだろう?)


管理人さんと一緒に、瞳の部屋を開けた。


他の部屋と同じく真っ暗で締めっきり。暖房も強い。暑いのでカーテンと窓を開けて空気を入れ替えることにした。と、何かにつまずいて転んでしまった。ふと見ると、瞳が横たわっている。 なんだ・・寝てたのか・・・でも何か変だ。いつもと様子が違う。

テーブルの上には、アルミ箔とストロー、小分けしたような小さなビニル・・白い粉も少し残っている・・ 


(お姉ちゃん? これ覚せい剤じゃないか?)


え?まさか?


 

管理人さんの会社の人が来た。この成り行きを説明した。警察も到着。瞳の部屋に入りすぐに無線で連絡している。やはり覚せい剤なのか・・・


(第一発見者は誰? 貴方? 今、所轄の刑事と鑑識も来るから。これシャブだよ。恐らく急性薬物中毒になってる。)


そういうと警察官の人は救急車の手配もした。 私は驚きのあまり何も出来ずに立っている。 まさか・・瞳が覚せい剤をするなんて・・・


刑事と鑑識がくると、テーブルにあるものを調べた。白い粉をキャップに入れて振るとみるみるうちに青くなった。 間違いなく覚せい剤ということになる。


瞳は意識がないまま救急搬送された。 私と管理人さんは刑事から色々と聞かれている。私はまた他人を巻き込んでしまった。管理人さんは関係ないのに私と一緒に第一発見者になってしまった。 


(管理人さん、ごめんなさい。私のせいで・・)


(ばか、いいんだよ。こういうときに俺みたいなのがいるんだから。)


管理会社の人も、

(大丈夫だよ。どういう状況だったか?とか、そういうことを少し聞かれるだけだから。心配しなくていいよ。笑)


管理人さんと私は、警察署で事情聴取を受ける羽目になった。


瞳のお母さんにも連絡が行き、搬送先の病院まで向かってるらしい。病院には刑事も待機している。お母さんも取り調べを受けるようだ。


2時間ほど、事情聴取を受けて警察署を後にした。学校には連絡がいっており、担任と生活指導の先生に状況を説明することになった。管理人さんには本当に迷惑をかけてしまった。


私が思うに、瞳は寂しいのだろう。私も毎日、だれもいない部屋に帰ると空しさと寂しさを感じることが多い。 一緒に学校に行き、部屋に泊まり、会話もし、食事もして・・ごく当たり前のようなことだけど、それが出来ないのと出来るのでは、瞳にとっては違うのだ。側にいれば安心して過ごすことが出来るが、いなくなると、もうどうにもならないほど寂しくなってしまう・・・一日、いや、半日会わないだけで、あれだけの感情だ。

私に対して友達という感覚を超えてしまっている。 少し、考えて話すべきだった・・・そう思い、後悔しても巻き戻しは出来ない。 


その後の私は事情聴取も終えて、瞳の今は、何も分からない。警察からも瞳のお母さんからも話や連絡はない。学校には休学という形になっているが、大学受験は絶望的になった。医師の道へ進むと励み、学校の推薦も拒否して受験をするという強い気持ちを持っていた。それを私は壊してしまった・・夢を叶えなくしてしまった・・・その反面、私は大学受験という道を選択している・・・


以前のような瞳との関係はもう、到底無理だろう。しかし、私自身のケジメとして何としてでも瞳と会わなければならない。 おじさんもそうだけど、瞳にも面会に行き、会わなければいけないのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ