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ギヴ アンド テイク for gals  作者: 月岡 愛
6/22

おじさんのその後・・

教室では2時限目の授業中・・というか期末テストの予習をしており、自習の時間になっており大学受験を控えてるクラスメイトたちも真剣に教科書とノートと格闘していた。今週末の期末テストが終われば冬休みに入り、本格的な受験シーズンがスタートする。


自分の席から周りを見るとみんな必死だ。お隣の韓国ではないが大学受験を合格せずには学部はどうであれ、成人になり就職はかなり困難になる。

私立高校へ行ったはいいが、大学にも行けない、就職もできない・・これでは本当に困ってしまう。 まさに今、私がその状況なのだ。


(何をやってるんだ・・私は!) 


思えば思うほど出口が見つからない・・ 



とその時、担任から呼ばれた。



(月岡さん? ちょっと職員室まで来てくれる?)


さっきの大学受験の事か? だったらもうそれはいいよ・・・ 断ろう・・

そう思い担任と職員室に向かった。



職員室の奥のテーブルに男の人と女の人がいた。


(パン屋のおじさんの件で・・・)


座っていたのは、事件担当の刑事とおじさんの娘さんだった。


(学校まで来てすまないね。こちらおじさんの娘さん。今日はその後の経過もあり月岡さんにも伝えておこうと思ってね。だいぶ、おじさんの気持ちも落ち着いてきたからね。)


刑事さんは話を始めた。


おじさんが逮捕され警察署に連行されたとき、奥さんは救急搬送中に死亡している。だがそのときは、まだおじさんには伝えておらず、おじさんは警察署で過ごした。本格的な取り調べは翌日以降になり、まず一晩、休ませた。


逮捕後、2,3日は、あいまいな事や、黙秘の状態だったが少しづつ供述を始めた。

一週間ほどし、供述調書を書いてるときにおじさんが奥さんの状態はどうなのか?と聞いてきた。そこで奥さんの事を話した。


おじさんは両手で顔を覆い、怒号の声で泣き叫びながら(すまない!すまない!)と言い椅子から床に体を落とした。


私は言葉が出ない・・・いったいなんでこんなことになったのか・・・


おじさんの娘さんが話す。


(父はここ数年、もうパン屋を閉めたいと言ってました。その原因はやはり、母だと思います。母は5年ほど前に脳梗塞をして入院をしています。その後、奇跡的に回復もして歩けるようにまでなったのだけど以前のように父とパンを作るのが困難な状況でした。私も実家に戻り一緒になって手伝おうとも言ってましたが、なんせ頑固な父ですから頑なに拒んでました。)


娘さんは結婚もしご主人と小学校の娘さんと3人で暮らしている。


(主人とも話して実家に移り住み、両親と一緒に住んでパン屋を手伝おうとも決めてました。理解のある主人ですから実家から勤務先までは近くなるし私は娘も小学生ですから、日中はパン屋を手伝うのは好都合だと思ってた矢先にこんなことになってしまって・・・・)


娘さんも声を詰まらせ、この先は無理なようだ。


おじさんは奥さんが倒れた後、もう以前のように元気な姿を見ることは出来ないと思った。回復はしたが仕事ができるほどの状態ではない。それでも何とか今日までパン屋を支えてきた。だけど、おじさんも高齢で奥さんの介護とパン屋の仕事と両立はとても厳しかったはず。そこに娘さんが一緒に仕事をしようとしたが、頑固な性格で拒否。 おじさんにしてみればかえってこの娘さんのことがさらに重荷になってしまったのではないか? 


私も聞くことがある・・子供にだけは迷惑かけたくない・・


お金のこともそうだけど、おじさんのようにお店を持ってる人も子供にだけは迷惑をかけたくない・・・何となくわかる気がする。


昔ながらのパン屋なんて私だけではなく、好きな人はいっぱいいる。だけど今の時代、スーパーやコンビニ、蒲田で言えばグランディオ、東急など、手作りパン屋はたくさんある。 そんな中で夫婦二人で早朝からパンを作りお店を開けるというのはとても大変なのかもしれない。


奥さんの介護、パン屋の経営、これから先のこと・・・


おじさんの中で何かが切れてしまい一線を越えてしまったのだろう・・


刑事さんと娘さんは職員室を後にして私は教室に戻った。 教室ではクラスメイトがまだ自習していた。


そろそろお昼になるころか・・




あの香ばしい(ロケットパン)もおまけでくれるパンも、もう食べれない。







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