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ギヴ アンド テイク for gals  作者: 月岡 愛
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私の履歴書

私は平成9年 11月11日に東京都大田区の東蒲田という街に生まれた。


生まれた頃は、まだ体育館も昔のままの姿で京急も今のように高架化していなかった。近所もまだ町工場もあり機械の音がうるさくキネマ通りも夕方になれば買い物客で溢れて賑やかだった。この18年という歳月の間に、近所の町工場も無くなってきてマンションや一戸建てに姿を変え、キネマ通りも八百屋やスーパーなどシャッターを閉じ、車だけが目立つようになってしまった。これも時代の流れというものなのだろう。



私の父は、同じ大田区の羽田や糀谷、六郷などの、町工場で働いていて母は清掃の仕事をしていた。


お世辞にも裕福な家庭ではなく、古ぼけた平屋で、自分の部屋もなく六畳一間と二畳ほどのお勝手、和式のトイレしかない窮屈な環境の中で育った。 お風呂は無く近くの銭湯に行くしかなくその銭湯もなくなり、私が中学生の時に玄関の横に小さな浴室を作った。 まともな家庭に育った人が見れば、驚く生活環境だが、私たち家族はこの先、新築のマンションや一戸建に住むことはまず、ないだろうと私自身、子供ながら諦めていた。


貧乏な家庭では無理なんだ。そう思い諦めるしかなかった。だから私には親しい【友達】というものがいない。家に来られるのも相手の家に行くのも本当に嫌だったのだ。


 小学生のとき、クラスの子の誕生日会に呼ばれたことがある。その子の家に行ったとき私はとても惨めな思いをした。白い2階建ての家で庭もあり可愛い犬もいた。1階の居間で誕生日会を開いたが大きなショートケーキとお菓子、ジュース、お寿司など豪華な食べ物が処狭しと並んでいて小学生の私には初めて見る光景だった。 呼ばれたのはいいが私はなにも誕生日プレゼントをいうものを持っていかなかった。 他のクラスメイトが1人1人渡す中で私の順番が来たとき、私は、(家に忘れたから今、取りにいってくる)と口実を言ってそのまま帰えろうとしたとき、その子の親が私に、(大丈夫よ。お金のない子にプレゼントちょうだいとは言わないから。)と言い放った。


私は、子供ながらとても傷ついた。


(このケーキとお寿司、別にしてあげるから家に持って帰って、お母さんと一緒に食べなさい。滅多に食べれないでしょ?) 


耐えられなかった。本当に悔しかった。貧乏人はすぐに帰れと言っているようなものだ。 その家を私は飛び出し一目散に走った。走る途中でも前が見えなくなるくらい涙が溢れ出てきて無事に家に着くだろうかと思った。家に着くとまだ母も帰っておらず父も出かけたままで鍵を開けて狭い一間の部屋で1人泣き続けた。


でも、私は母を責めたりはしなかった。母が帰ってくるまでには涙も治まらせていつも通りにしようと思っていた。


その後、学校で、そのクラスメイトの子は私に泣きながら謝った。その時にいた他の子たちに随分、責められたらしい。 この件を機に私は、クラスメイトも含め、人というものを遠ざけるようになっていた。



父は、よく仕事を変えており、無職の時も多く私が学校から、帰るといつも家でゴロゴロしており、仕事をしなかっただけでなく、隣や近所で何かあると、うるさいなどと言って、文句を言いに行き揉め事ばかり起こしていた。


そんな父を私は嫌で嫌で堪らなかった。


母は清掃のパートで朝早くから夕方まで働いていて父が無職の時も必死になって家族を支えた。 高校受験を控えた中学3年生のとき私は働きながら定時制の高校へ行こうと考えていたけど、母は、そんなんじゃダメだと言って、先生の勧めもあり今の私立高校へ入学した。


家庭がこんな状態なのに、よく私立高校へ入学させてくれたと思う。苦労もしてきただろう。


それに私立高校は都立高校と違い、授業料が割高だ。それに入学金やら色々お金がかかる。それでも母は何一つ物言いせず、私を私立高校へ通わせてくれた。親という存在は本当に大きい。 高校受験の時、私もさすがに焦った。勉強していても、もしかしたら不合格になるかもしれない。そんな思いが過ったのだ。三学期の1番大事な時に気持ちが不安定になり私は学校へ行かなくなってしまった。学校へ行くふりをして公園で過ごし母と父がいなくなった頃を見計らい家に戻り再放送のドラマなど、見ていた。


でも、大事な受験期にこんな事をしていたら母の期待を裏切ることになる。そう自分に言い聞かせ、受験を控えた2月に再登校した。担任にも呼ばれ理由など聞かれたが特に厳しい事はなく、母にも知られなかった。先生もこの時期の生徒たちはとても不安な思いをすると理解してくれていた。


私立高校と都立高校を受験し、結果、合格発表の日、都立高校は補欠合格、私立高校は無事に合格となった。


母は泣きながら喜んでいた。驚いたのは父だ。近くに住んでいる母の兄、 私からすればおじさんだが、電話で合格の話をしてるときに言葉を詰まらせ、泣きながらお礼を言っていた。あれだけ仲が悪いのに泣きながら娘の合格を喜んでくれている姿を見ると何とも言えない気持ちになる。 それほど子供の高校受験というのは親から見れば大イベントなのだ。 私は誓った。真面目に通学し、絶対に卒業する!と。



そんな私も今では高校3年生になり、この11月で18歳という年を迎えようとしている。大学受験や就職などの進路を考える時期に来ているのだ。


卒業まであと半年もない。高校生活もあとわずかな期間で終わりを迎える。自分自身に問いかけ、答を出すときが来ている。


そんな中で、この事件だ。


瞳もおじさんも私とは直接に関わっている。放っておくわけにはいかない。ましてや、私自身がこの二つの事件の当事者にもなってしまっている。









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