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ギヴ アンド テイク for gals  作者: 月岡 愛
3/22

お昼のパン屋

私の高校では、お昼になるとパンの販売がある。焼き立てのパンを100円~200円の間で販売している。このパン屋のおじさんとは入学当時からのお付き合いだから2年半にはなるのか・・・いつも私にだけ内緒で一つ、サービスしてくれたり学割なんて言って200円のパンを100円にしてくれたりしてお昼の時間は楽しみだった。 


中でも(ロケットパン)がとても好きでこれだけは必ず買っていた。揚げパンの中にソーセージの細切りが一本入っていてこれがたまらなく美味しい。ハンバーグパンやエビグラタンなんてのもありお昼は3つは食べる。いや調子の良いときは4つか。 他の生徒が来る前か来たあとに買いにいくことにしている。これは私とおじさんの暗黙の了解で、おまけで一個くれたり、半額にしてくれたりと良くしてくれていた。 


高校では、給食というのがないので、お弁当を持参したり通学のときにコンビニやお弁当屋で買ってくる生徒も多い。 高校はお昼時間が一番、楽しくていい。


入学時から、なぜかこのパン屋のおじさんは私に親しくしてくれて色々話もしてくれた。


(愛ちゃん、今日はね、これ作ったんだ。チョココロネっていってこの渦巻の中にチョコレートクリームが入ってるんだ。これ、うちの娘たちも好きでさ。愛ちゃんにだけ作って来たんだ。)


(本当ですか? ありがとうございます。チョコがたくさん入ってスゴイ!)


一番手で買いに行くとこんなことがよくある。


(今日はどうしたかと思ったよ。ちゃんとロケットパンもとってあるから。あ、これ。カツサンド。焼いたトーストに厚切りのトンカツを挟んだんだ。美味しいぞ。学割でいいからね。笑)


(いつもすいません。美味しそうなカツサンドですね。)


ビリで来ても、私の欲しいパンはとってくれていて学割まで利かしてくれる。


何で私にはこんなにしてくれるのか聞いてみたことがある。


(愛ちゃんを見るとさ、娘を思い出すんだ。同じ年頃の時、ちょっと大変だったんだけどね。でも今では大人にもなり結婚もしてアメリカに住んでるんだ。たまには連絡もあるんだけどね。まぁなかなか会えないけど、愛ちゃんを見るといつも娘のことを思い出しちゃってさ。あ、ゴメン、変な話をしちゃったね。)


(いいんです。私が質問しちったんだから。笑)


大人になったとはいえ、やはり自分の娘さんと会えないのは寂しいのだ。これはどんな家庭でもそうだろう。 過去に色々なことがあったのは仕方がないが親子の関係というのはとても複雑で難しい。でもいつか分かり合える時が必ずくるはずなんだ。だからこそ会えなくなるととても寂しくなるんだ。


夏休み前に何日か、おじさんが来ない日があった。いままで無断で来ないときなどなかったのに今日に限っては学校にも連絡がなく、おじさんに電話してもつながらないと先生から言われた。 何かあったのかな・・・と思ったけど明日になればまた来るはずだと思い、その日は先生の許可もおり外出して吉野家で牛丼を買ってきた。 通常、学校に入ったら外出は終わるまで禁止。でも今日みたいなときは特例で先生のお許しが出た。


午後の授業になるとき、どうしても気になって仕方がないことがあった。それはいつもなら話しかけてくれるのが、ここ2日くらい無口で元気がなかった。何かあったのかな?と思ってはいたけど、またすぐにいつものおじさんに戻るだろうと思ってはいた。でも、なんか胸騒ぎがしてたまらない・・・


先生にお願いして、おじさんのパン屋へ行ってみるか。ダメ元で早退願いをしてみよう。


(先生、パン屋のおじさんのことがどうしても気になるんです。ダメだとは思うのだけど、早退して見に行きたいんです。もしかしたら倒れてるかもしれないし・・)


恐らく、ダメだろう・・ そう思ってたら、


(分かった。学校もさっきから電話しても出ないのよ。ちょっと行ってみようかとも話してたところなの。パン屋についたら学校に電話して。生活指導の先生と一緒に行くといいから。)


(ありがとうございます。)


私は生活指導の先生と一緒にパン屋へ向かうことになった。


おじさんの家は池上本門寺の近くにある。駅を降りて呑川の近くにある。あの汚れた呑川もこの本門寺辺りにくるとずいぶん清んでいて川の流れも穏やかで静かだ。おじさんの家に着いた。車はある。お店はシャッターが閉まっていてお休みのようだ。どこか出かけてるのかな・・・裏を見ても戸締りはしてるようだ。


(先生、いないみたいですね。やっぱ出かけてるのかな・・・)


(う~ん・・でも電話に出てもいいだろ?お店に居なくても携帯にでるはずだから。携帯にも出ないんだよな・・・)


そういうと先生はスマホをダイヤルした。


(出ないよ。月岡さんの言うとおり家の中で倒れてたら大変だよ。どこか入るとこないか?)


そんなことを2人でしてたら、なにやらおばさんが声をかけてきた。


(あの・・何なさってるんですか???)


(あ、あの・・学校の者ですけど、今日、来るはずのパン屋さんが来ないもので・・連絡しても出ないんですよ・・)


(いつもなら今の時間、お昼すぎだし開いてるのよ。でも今日は朝から閉まってるから。それに出かけるなら車もないはずだけどあるでしょ? 何か変だとは思ってたの。)


この近所のおばさんなのか、おじさんのパン屋にはよく来るらしい。


私も、このおばさんに、もしかしたら・・という旨を伝え、そういうことなら緊急も兼ねて入ってもいいんじゃないか?と話がまとまった。


(私も主人に電話してきてもらうわ。貴方たちはどこか入れる場所から入って中から開けてちょうだい。)


先生とどこか入れそうな場所を回りながら探した。 


と、換気扇の横の窓が少し開いている。厨房か台所のようだ。ここから入れば中から開けられる。少し段差があり高いので先生に肩車してもらい窓に手をかけた。 よし!開いた。 私は体を中に入れ部屋に侵入した。台所のようで横にある扉の鍵を開け、おばさんと先生も入った。


部屋の中は暗く電気も点いていない。 やっぱりいないのかな・・・


一階は、パン屋の店舗で、奥には小さな厨房がある。居間もありここでご飯なんかも食べてるのだろう。となると部屋へ二階になるか。 毎日、おじさんは朝早くからこの厨房でパンを作ってるんだな。奥さんと一緒に汗を流しながら色々なパンを作ってるんだろう。


(あたしたちも昔からここのパンは好きで今でもよく買いにくるのよ。ただね、奥さんは最近、病気がちで寝込んでるとは聞いてたの。だから一緒に病院に行ってるんじゃないかしら?)


おばさんの話も一理ある。でも、自宅の電話に出れなければ携帯には出るはずだ。それに無断で学校へ来ないなんてことは絶対にありえない。


2階の部屋にいるのかな・・・


(先生、2階に上がってみます。)


(そうだな。もしかしたら体調崩して寝てるだけかもしれないからな。こっちもトイレや浴室など見てみるから。)


2階に上がり、部屋の前に来た。左右、襖があり、奥は扉になっていて3部屋あるようだ。左の襖を開けて・・いない。きれいに片付いている。学習机もあるから娘さんの部屋かな? 右の襖・・ここにもいない。箪笥と鏡面台みたいなのがある。奥さんの部屋だろうか・・やっぱり病院にでも行ってるのかもしれない。

あとは奥の扉の部屋だけ。まぁ、この部屋にもいないだろう。


ガタ・・・(グゥ・・・)


何か、息苦しい音がした。まさかおじさん、倒れてるんじゃ・・


早歩きで扉を開けた。


ヒィ!-


私は吸い込むような息で声が出た。そのまま後ろ歩きで階段まで行き下まで転げ落ちた。


痛ったい・・・・肩と腰を思いっきりぶつけてしまい激痛が走る。


(どうしたんだ?え?) 


(どうしたの???)


驚きのあまり声が出ない。


(お、おじさんが、おじさんが・・・)


(え?え??)


(はち切れたー!大変!大変!)


先生とおばさんは2階へ駆け上がりその光景に驚いたようだ。


(やめろー!)

(早く離してー!)


おばさんと先生の怒号が響く。 


(ちょっと!お嬢ちゃん!早く救急車呼んで!!)


(月岡さん!! 警察も呼ぶんだ!!早くしろ!!)


私は震える手で相棒(iphone5S)にダイヤルしたはいいものの、言葉も震えてハッキリ伝えることができない。警察も、落ち着いて。というが何をどう話したらいいか真っ白になってしまった。


(今すぐにそちらに向かうから住所は言える?電話番号は?落ち着いてよ。大丈夫だから。)


おばさんが下りてきて私と代わった。 住所、電話、おじさんの状態を伝えている。先生も救急車の手配をしているようで助かった。 私はまだ震えが止まらない。


私が2階の部屋で見た光景は、おじさんが奥さんらしき人に首をタオルで絞めながら鋭い包丁で体を滅多刺しにしている姿だった。もの凄い血相でグサリグサリと奥さんの体を刺し、タオルで首を絞められてる奥さんの目は白目剥き出しで口からは唾液がドボドボ出ていた。 


私は殺害現場の生中継に出くわしてしまったのだ。


先生とおばさんが、おじさんをようやく奥さんから離した。奥さんは血まみれで倒れている。おじさんは茫然として座り込み動かない。 先生が奥さんの止血を試みるがあまりにも大量なため、手の施しようがない。


警察が到着。すぐに2階に上がりおじさんを緊急逮捕。警察官の人が別に応援を頼んでるようだ。救急車も来て、奥さんを保護。体に刺し傷が多いため心臓マッサージも出来ず、酸素マスクを当て即、救急搬送で病院に向かった。


刑事さんも来て事の詳細を私たちに聞いている。鑑識も来ている。おじさんはそのまま警察署へ連行された。


先生も学校に連絡して私の担任も今、こちらに向かってるという。私たち3人も刑事さんと警察署で事情聴取を受けることになる。

















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